小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

きょうのできごと

この春、皆さんのお子さん、弟・妹、そして後輩は、無事に社会に旅立ちましたか?

大学の事務から数日前、「この春、扶養家族から外れるお子様をお持ちの職員の方は手続きをお願いします」 なんていうメールがきた。 そうだったのだ、自分も手続きをしないといけないんだ、と気付き、何枚かの書類を提出したのである。 保険証も返却。 なんだか妙な気分である。 

そういえば、こういう複雑な感慨のドラマが昔あったなぁ、何だったっけ? ・・・ と必死で思い出そうとしたのだが、思い出せない。 仕方がないから検索したら、出てきました (なんと便利な世の中だろう)。 フジテレビの世にも奇妙な物語シリーズの 「にぎやかな食卓」(1994年)。

本当はちょっとまずいのかもしれないが、ググると見ることができるサイト (dailymotion) があるので、ぜひご覧ください。 20 分ほどのショートストーリー。 私は 「世にも奇妙」 シリーズの中で、このお話がダントツに好きなのだった。(注 1)

(注 1) 次に好きなのが 「奥さん屋さん」(笑)。 ・・・ いや、たぶんあなたが想像しているような話ではないので、これもググるか、ビデオ屋さんで借りてきてご覧ください。


未見の方々のためにストーリーの詳細は書かない。 お母さん役の范文雀さんの演技が涙が出るほど素晴らしい、とだけ言っておこう。 范文雀さん、だいぶ前に亡くなられたこともすっかり忘れていた。 あちらの世界には素晴らしい役者さんがたくさん待ってくれているのだから、僕らはいつ死んでも安心だ。

家族も、友人も、同僚も、皆同じ。 自分と同じ時間・時代と空間を生きているすべての人々が、ただそれだけの理由で、愛おしい。


*****


で、普段ならここから先は妙に理屈っぽい、業界人向けのネタを書くパターンが多いサル的日記なのだが、今日はその手の話は無し。 ネタが無いわけではない。 一般に教員は春先は講義の数が多く、講義の準備(予習)をしないといけないので、結構大変なのだが、講義の教科書を予習のために読んでいると、「ここに書いてあること、なんか変だぞ」 なんてところがたくさん見つかって、イライラしたり、ニヤニヤしたりで、ネタには事欠かないのである。 でも、今日はその手の話はパス。 メディアが大騒ぎしている例のコピペの件や、官民癒着などと騒がれるあの件についても、世のバカ騒ぎに加わる気分はまったく起きぬ。 そんなことを考えることすらバカらしい。 だって今日は、うららかな春の日なんだもの。

午後は団地の掃除当番だったので、竹箒 (ぼうき) と塵取りで団地の敷地内を掃き掃除。 小一時間汗をかく。 舞い散った桜の花びらが自転車置き場の隅に大量に積もっていて、大変な状況であった。

駐車場の端っこには白いポリ袋入りのゴミが捨ててある。 「もう、誰だよ、あんなところにゴミを置きっぱなしにした奴は」 と思って近付いたら、突然に白いポリ袋がゴソゴソと動き出したので驚いた。 ポリ袋の正体は、近所の真っ白いノラ猫なり。 ニャンコが身近にいると、とても幸せな気分になる。 

さらに敷地内に生えている竹の根元から筍が数本、ニョキニョキと伸びているのを発見。 剛毛をまとった美しい茶色の造形と生命力に自然に顔がほころぶ。 楽しいのぉ。

掃除を終えて、近所の大学構内の喫茶店で家人と一緒にアイスラテなどで一服。 新緑が映える。 ワンコを連れて散歩している方々の足取りも軽い。 今の日本、こういう素晴らしい気候の季節ってほんとすぐに過ぎるんだよなぁ。 あっという間に地獄の夏が来てしまう。 

さて、夕飯の買い物などして帰ろうかとお店を出たところで、チューリップが咲き誇る花壇の中で、虫取り網を振り回しているピンクのトレーナーを着た女の子 (推定4歳) と虫かごを持ったおかあさんを発見。 キラーン! 家人と顔を見合わせる。
フフフ、チャーンス到来

私 「あのぉ、おかあさんとおじょーちゃん。 私たちは怪しい誘拐犯などでは決してなく、近所に住む善良なおぢさんとおばさんなのですが、おじょーちゃんは虫さんが好き?」

女の子 「うん、好きだよ。 今日はね、チョウチョを取りに来たんだけど、全然いなかったよ」

私 「そうなのね。 それは残念。 ところで、おじょーちゃんはカブトムシって知ってる? カブトムシ、欲しい? まだ幼虫なんだけど、幼虫って知ってる?」

女の子 「知ってるよ。 欲しい、欲しい、カブトムシ!」

・・・ というわけで、いつものようにおかあさんに了解を頂いて、カブトムシの幼虫2匹 (ペットボトル入り) がめでたくお嫁入り。 子供が飼うと触りまくって飼育がうまくいかないこともあるのだが、そんなことはまぁいいのだ。 虫さんは、虫好きの子供に飼ってもらうのが一番いいのよ。


*****


春になると、村上春樹ノルウェーの森の最初の方に出てくるエピソードが無性に読みたくなる。 といっても読み返すのは、直子との出会いや永沢さんのシニカルな生き様ではない。 そう、例の学生寮の 「突撃隊」 のくだり。 僕はこのお話の登場人物の中では 「突撃隊」 が一番好きなのだ。

「突撃隊」 は主人公ワタナベ君の学生寮の同居人。 貧乏で、いつも同じ学生服を着て (だから「右翼の突撃隊」 と揶揄される)、坊主頭で、ドモりがある。 毎朝6時にラジオ体操をして、将来は国土地理院で地図をつくるヒトになりたいと語る。 元気のないワタナベ君に取ってきた蛍をくれた。 夏休みに帰省したきり、休みが明けても大学には戻って来なかった。 理由は誰も知らない。 それ以降、物語には一切登場しないのである。

誰からも気づかれることなく舞台の端っこから転げ落ち、いつの間にか存在を忘れられてしまう 「突撃隊」 のような人たちのことばかり僕はいつも考えてしまう。 自分自身がその一人だから、なのだけど、結局のところこの世では誰もがみんな例外なく 「突撃隊」 なのだと思う。 だからこそみんなが愛おしいのだ。

そういえば十年ほど前に、妻夫木君が出てた 「きょうのできごと」(a day on the planet、2003) というとても良い映画があったっけ。 心と体が空回りしている大学生たちの、何一つ劇的なことが起こらない一日がとても上手に描かれていた。 不安で仕方がないんだよなぁ、この年頃の若いもんは。 好きなヒトの気持ちが分からないだけじゃなくて、自分の気持ちも分からないんだもの。 ねぇ。

名画とかいう作品ではないけれど、大人が見てもしんみりと懐かしく、あたたかい気分になる映画だった。


www.youtube.com


*****

そんなこんなで、きょうのできごと