小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

♪ ハンセーを知らない オートーナたちーさー

昨日は修士の学生の発表会。 私の教室の学生さんも立派に発表を終えました。 世界の臨床試験の実施状況をパネルデータを使って分析。 製薬企業の人たちが普段口で言っていることと、実際に採っている行動がだいぶ違うぞ、おい、という楽しい発見をしてくれました。 お疲れ様。

発表会の終了後、研究室の学生全員がゾロゾロと出かけるので、「卒業おめでとう飲み会?」 と尋ねたら、「いや、卒業祝賀ボーリング大会です」 とのこと。 さすが、体力があり余っている20代である。 連中が眩しく見えたよ。

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相変わらず自炊を頑張っているのである。 20年くらい前の新薬開発の資料を自炊していると、とても面白い新発見がある。 実にいろいろなことに気付かされるのである。 「人生ってなんだろうね」 なんてことも考えてしまう。

一番興味深いのは、「これからの医療 (医学・薬学・新薬開発) はこうあるべきである! 専門家である私の言うことを聞きなさい!」 と大風呂敷を広げていた、業界のオピニオンリーダーと呼ばれてたセンセ―やおエライさんたちが、結構な人数、逮捕されたり、研究がらみの不祥事を起こして社会的に失脚していること。

「21世紀の創薬はこうあるべき」的な、あまり役には立たない本が(今も)たくさん出版されているが、そういう本にその手の逮捕された有名なセンセイが書いた論文が結構載っている。 が、どんなに良いことが書かれていても、なんか人生の諸行無常を感じてしまい、内容が頭に入らないのだ。 うーむ。

15−20年くらい前に業界人が書いた、新薬開発国際化マンセーのユルい発表や論文も興味深い。

たとえば、

「お薬の至適用量がどこの国の患者でも変わるわけがない」 といった宗教的な主張 (こんな幼稚な世界観で職業人としての一生を全うできる人たちが、ある意味うらやましくはある)や、

「ブリッジングや国際共同試験が増えれば、日本は世界へ貢献し、羽ばたくことができる」 といった単なる夢・願望の吐露 (理科系にはこういう夢想家がたくさんいるから、文科系の教育・学問を廃止してはいけないことがよく分かる) や、

「米国や欧州は多民族国家なのに、民族 (の違い) の問題についてブツブツと不平不満を言わない。 『日本人』 にこだわってるのは日本人だけだ」 といった、人類の歴史も、国家も、宗教も、科学も、文化も、そしてもちろん各国の内情も、すべてを無視した、医薬業界人ならではの薄っぺらい暴論 や、

「日本の薬価制度で、画期的な新薬は企業に自由価格を保障して、一方で患者の自己負担はゼロにする政策も検討に値する」 といった、もはや絶句するしかない主張 (学説の一つとして尊重はしたい)

など、妄想・願望全開のご高説がゴロゴロ載っていて、楽しい。

2016年現在の世界の状況、そしてニポンの状況はむろん皆さんご存知ですよね。 「この十数年のニポンの医薬品の世界でグローバル化と称して起きたことは、要は、外人さんにニポンを安値買いさせているだけじゃないのか? で、嬉しいことか悲しいことか分からないが、実はそれすらも失敗しているのではないか?」 という疑惑 (笑) にうすうす気付いている人もおられよう。(注 1) にもかかわらず、上に挙げたご高説を今でも延々と繰り広げている方々はたくさんいる。 いや、むしろそっちの方が多いのか。 対立する意見を出し合って、批判的にこうした問題を議論する機会がニポンにはないのだから。 皆がじっくり考えて多様な意見・対立する視点が生まれちゃうと困るから、そうなる前に問答無用の免罪符 『オールジャパン』 を振りかざす。

(注 1) 常にアクセルとブレーキの両方を平気で踏んでいること (政策的矛盾)、確信犯的なネオリベ信奉者と「ねおりべ? なんだ、そりゃ?」 という日本土着の日和見主義者が、どちらも素朴なナショナリストのような顔をして政府・役所・業界に同居していることが、どうにもこうにもならない状況の背景にあるように思う。

ほんと、僕たち業界人って反省しない。 自分が何を主張しているのかを自分で分かっていないのだから、反省しようもないのかもしれぬ。 上に挙げたご高説にしても、当時の業界紙に書いてあるステレオタイプな主張を、皆がコピペして、拡散してるだけだもんね。 「業界の主張はおかしい」「当局の政策は変だ」 という声が、一部の患者会や副作用被害に遭われた方々からしか出ない国、ニポン。 一部であっても批判の声がメディアで報じられるだけ北朝鮮よりはマシかもしれんがな。

♪ ぼくらの名前を 覚えてほしい ハンセーを知らない オートーナたちーさー

・・・ などと力なく呟いてみる三月の午後。

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こんな状況でも、世界中で新しいビジネスは立ち上がっているし、世界中の若い人たちは目を輝かせて頑張っている。 僕たちジジイ世代が見て見ぬふりして、放置して、片付けることを怠った負の遺産が、彼らの迷惑になりませんように。