小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

拝啓 貧乏新入生の君へ

今の時期の大学の構内は、入学手続きにやってきた新入生 (予定者) たちで賑やかである。 たいてい、お父さんかお母さんと一緒。 生協でもらった青い紙袋をぶら下げて、嬉しそうに構内を歩いているご家族を見ていると、こっちまで温かい気分になる。 春到来、おめでとう。 

むろん、今回は不合格で、絶望的な気分で春を迎えている受験生もその裏にはたくさんいるのである。 なーに、次は何とかなるさ。 頑張れ、若造たちよ。 1年や2年や3年の浪人、休学、一休み、回り道なんて、人生ではほとんど何の影響もないぞ。 オレなんか就職して以来28年くらい回り道して、現在もどこにもたどり着いてないもん。(笑)

振り返れば33年前、サル的なヒトも岩手の田舎から一人上京したのである。 上京時の持ち物は布団袋に入った敷布団と掛布団一組だけ。 貧乏学生だから金なんかろくに持ってないし、東京になんぞ友人も知人も誰一人いない。 時はバブル全盛期にもかかわらず、さびしい貧乏下宿生活を送ったのは、だいぶ前にブログに書いたとおりである。 これね → 2012-06-17 - 小野俊介 サル的日記

当時の僕らに比べたら、今の学生の皆さんは驚くほど恵まれていますね。 ほれ、みんな、ケータイ持ってるじゃないか。 一人暮らしをしていても、たとえば高熱で死にそうになった時に、「ママ、死にそう。 助けてぇ!」 って自宅に電話すれば、ママリンが血相変えてすっ飛んで救出にきてくれるのでしょう? 僕らはそもそも電話なんて持ってなかったのだ。 貧乏下宿には電話なんか無い。 電話とは公衆電話でこちらからかけるだけのもの。

当時、高熱や腹痛で動けなくなって死にそうになったら? そこから先は運しだいである。 死なない病気なら、死なない。 死ぬ病気なら、そのまま下宿で一人野垂れ死にする。 地方出身の貧乏下宿生が講義にちゃんと来てるかを気にしてくれる同級生なんて誰一人いなかったから、下宿で死んでいても1、2週間は誰にも気づかれなかっただろうなぁ。 家に電話するのは月に1回くらいだから、親もオレが生きているのか死んでるのか分からないのだし。 運よく夏場だったら腐敗臭で周辺の住人が早めに気付いてくれるかもしれん。

33年前、都会で一人暮らしを始めてまず強烈に感じたのは 「ここで死んだらどうしよう?」 という漠然とした不安であった。 誰からも忘れ去られて、急に重い病気になって、一人吐血したり、吐しゃ物にまみれて七転八倒していても、誰も助けに来てはくれないのだなぁという不安と、それがこの世の現実なのだということを受け入れざるを得ない虚無感。 だって、ほんとにそうなんだもん。 現在の都会の孤独死・孤老死問題、状況はますます悪くなってる気がするでしょ?(注 1)

(注 1) 電話線がつながっていても孤独死が起きるのは、さらに次の問題である。

ほら、どうですか。 若くして孤独死したくないと思っているあなたなら、ケータイ・スマホのありがたみがよく分かるでしょ? ケータイがあれば、マジで命がやばいと思ったら、とりあえず寝たままでも119番できるでしょ? 仲が良かろうが悪かろうが、同級生に電話かけられるでしょ? 「お、おれ、死にます ・・・」 なんて電話が来たら、さすがに薄情な同級生でも無視はしないでしょう。 本当に死なれたら寝つきが悪いから。 ママリンに電話するのはむろんいつでも可能である。(注 2)

(注 2) ただし一人暮らしをして、「一人で死ぬ」 ということをじっくり考えるのは、とても大切なことなのだと私は思います。 人間って、生まれるときも一人。 死ぬときも一人。

一人暮らしを始めるよいこのみんな。 特に貧乏学生のみなさん。 君らみんな、どんなに安アパートで暮らしていても、昔よりはずっと幸せなんだからね。 暗い顔、困った顔をしないで、安心して元気に新しい生活を始めてください。 もし東大の界隈で困ったことがあったら、ほれ、このサル的なおぢさんがいつでも君を助けに行ってやるから、安心しなさい。 金は貸せんが、生協でメシをおごってあげよう。 「どうして自分だけこんな嫌な目にあうのだろう?」 と泣きたくなったら、研究室にいつでも遊びにおいで。 何時間でも話を聞いてあげるから。 本郷の薬学部というところにいますよ。

そのサル的なおぢさんなのだが、上京後33年、相変わらずろくに金はない。 自宅もない。 老後の資金もないから、将来の夫婦ホームレス化も笑い話ではない。 33年間も東京で生活し、仕事をしてるのに、友人は結局3人しかできなかった。 老眼が進行し、本が読めない。 加齢臭がする。 膝が痛い。 加えて最近では、自分の問題だけでなく、高齢の親の介護も深刻である。

一人暮らしを始める君たちよりも、むしろ私の方が深刻な問題を抱えていることも知っていただけるとありがたい。

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ちょっとドタバタしているので、今回はこの辺で。 実は、古い掃除機が壊れてしまって(これ → 2012-10-06 - 小野俊介 サル的日記 )、ついにあの高価な dyson を買ってしまったのである。 で、実際使ってみて、そのあまりの凄さに家族一同呆然としたのだが、それは次回に。

荒川弘の 「百姓貴族」 の新刊出てますよ。