小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

2020年の夏

元気に生協で昼飯を食った後、いつものように三四郎池経由でオフィスに戻ろうとしたら、途中でコガネムシを見つけたので、「おおっ、これはいいモノを捕まえた。 秘書のおばさんおねいさんたちに急に見せて 『キャー!』 とか驚かせちゃおう」 と思って手のひらに握りしめていたら、コガネムシが盛大にユルユルのウンチをしてしまい、手のひらが真っ黒のウンチでベトベトになってしまった。 皆さんの手には流行のウイルスが付着しているのかもしれんが、サル的なヒトの手にはさらにややこしいものがいろいろと付着しておる今日この頃。 皆さんお元気?

先日の朝、テレビのワイドショーで 「速報! 藤井棋聖王位戦第3局!」 というテロップが流れたので、「ん? 何が起きたんだ? 藤井君がコロナにかかったとかか? そりゃ大ごとだぞ」 とビビったのである。 そしたら、対局室にカメラが移って、藤井君が悠然と初手を指す光景が映し出された。 

アナウンサー:「藤井棋聖、初手7六歩を指しましたぁ!」

・・・

・・・ あのな、将棋のタイトル戦は丸二日かけて対局するのよ。 初日の朝の初手7六歩を速報してもしょうがないの。 ニポンのテレビ局ってホンマもんのバカなのな。 でも大笑い。

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オンライン授業に高い授業料を払っている今の大学生が気の毒でならない。 オンライン講義だけの大学生活なんて、そんなもの面白くないに決まってる。 変な奴ら・ややこしい奴ら (センセーを含む) と接し、語り合ったり知り合いになったりできない大学生活なんて意味ないよな、それ。

面白くない・意味がないだけではない。 かつてのサル的なヒトみたいな貧乏学生は、今の時代、もはや大学生として生きていくことすら難しいのではないかと心配している。

風呂無し・台所無し・便所共同の三畳間の下宿で東京生活を始めた自分。 今でいう「wifi 環境を整えろ」 は、当時だと 「部屋に電話を引け」 という感じだが、貧乏学生にはそりゃ無理だ。 仮に大学が無料でモバイルルーターを貸してくれたとしても、パソコンが無い (笑)。 入学後に数か月バイトしてその手の贅沢品は買おうと思っていたとしても、今の状況ではそのバイトができない。

いや、今の大学はやさしいから (というよりも経営上の理由で)、モバイルルーターとパソコンをセットで貸してくれることくらい知ってるさ。 でも、三畳間で独りぼっちで朝から晩までパソコンの画面と向き合う生活をしてたら精神を病むよね。 ド田舎から上京した貧乏学生には、東京には友だちがいないんだもん。 僕の場合は、幸運にも入学してすぐに、目白に住むおぼっちゃまなどが友だちに (少なくとも知り合いに) なってくれて、東京での暮らし方を教えてくれたっけ。 あまりに右も左も分からなかったから、かわいそうに思ったんだろうな。 他にも友だちが何人かできたから、心が病まずにすんだのだ。

4月、5月は乗り切れても、7月くらいになると別の意味でもう無理だ。 西日のあたる三畳間は昼間40度を超える。 自分の狭い部屋にいることすらできないのよ、貧乏人は。 当時どうしていたかというと、酷暑の日に我慢できなくなると、歩いて5分ほどの繁華街の、薄暗いゲームセンターに夜までずっといたのである。 エアコン効いてるし、ゲームセンターはほとんどの時間店員が不在だったので、何時間座っていても怒られないから。 ゲームをやる金 (1回 50円とか 100円とか) はないから、ゲームやってるふりして、ぼーっとデモ画面を眺めていた。 時々、誰かが捨てていった少年ジャンプなんかを拾って読む。

むろん今と昔では生活が違う。 想像力のないヤツらは 「三畳間の下宿なんて今はもう東京にはないよ」 などと鼻で笑うのだろうな。 でもな、社会が 「進化」 したからこそ、今の貧乏の方が昔の貧乏より辛い面があるに決まっている。 昔の貧乏学生よりは今の貧乏学生の方が恵まれているなんて一概に言えるわけがない。

例えば情報環境などの格差はますます広がっているのだろうし。 実際に調査の結果があるのだが、家に (スマホではなく) パソコンがあるか (つまりちゃんとキーボードで作業ができるか) などの格差はとても大きいのよ。 もっと現実的な問題もある。 エアコンの効いた出入り自由のゲームセンターって今はほとんど無くなったのだが、店員や掃除係の目を気にせずに貧乏人が何時間でも座っていられる冷房のきいた場所が代わりにできた・増えたと思う? (注 1) ホームレスを必死で街から追い出そうとする狭量な社会からは、必然的に貧乏学生も追い出されるのよ。

(注 1) ちなみに公共図書館や大学の図書館は夏の暑さを完全にしのぐ場所にはなりません(でした)。 近くにはないし、早く閉まるし(昔は夕方5時に閉まっていた)、休館日多すぎ。 エアコンを持ってない人に聴いてみるがいい。

コロナ禍のオンライン化のせいで、貧乏学生の昼間の居場所 (= 教室) が物理的になくなったばかりか、大学という階層シャッフル装置が機能不全に陥り、貧乏階級の学生が上流階級の学生と混じり合えなくなっている。 もし自分が今、大学一年生だったら、数か月間の生活でもうすっかりやる気をなくして、半病人になって泣きながら田舎に帰ったかもしれん。

このブログを読んでる駒場の学生さん。 友だちができずに、部屋で泣きそうな気分になっているのなら、遠慮なく遊びにおいで。 誰でもかまいませんよ。 勉強の仕方、将来の進学・就職のこと、貧乏の乗り切り方、大学・教員のすごいところ・ダメなところなど、なんでも教えてあげる。 サル的なヒトは薬学部 (本郷) のオフィスにいるからね。 

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この時期はいつものようにあの戦争を振り返る。 恒例の読書リストに時間のある限り順に目を通す。

レイテ戦記(大岡昇平) 中公文庫

太平洋戦争 日本の敗因4 責任なき戦場 インパールNHK取材班) 角川文庫 

戦艦大和ノ最期 (吉田満講談社文芸文庫

野火 (大岡昇平岩波文庫

夜と霧 (ヴィクトール・E・フランクルみすず書房

夕凪の街 桜の国 (こうの史世) 双葉社

火垂るの墓野坂昭如新潮文庫

指揮官たちの特攻 (城山三郎)  新潮社

アーロン収容所 (会田雄次中公新書

日本はなぜ敗れるのか 敗因21カ条 (山本七平角川oneテーマ21

等々・・・

 

古いのから新しいのまでいろいろあるが、これって読みやすい・入手しやすい本のリストである。 もっと重厚な、本格的な戦記はむろん他にもたくさんある。 このリストを  「一冊も知らない・読んだことがない」 なんて人はまともなオトナではありません。 恥ずかしいからちゃんと読め。 な。 せめて二、三冊は読め。 

 

最近出たばかりの本も。

東大の学生さんによるこの写真集、素晴らしい。 白黒写真に色を付けると、見えてくる世界が変わることを知る。 

 

昨年のNHKスペシャルも本になってますよ。 ガダルカナル。 シロウト指揮官 (役人) と縦割りの意思決定のせいで国民が死ぬのは、ニポンに限らず近代国家の伝統かもしれん。 ほれ、今コロナで見ていることそのものですよ。 

ガダルカナル 悲劇の指揮官

ガダルカナル 悲劇の指揮官

 

  

本を読むのがしんどいとかぬかす横着な奴らは、せめてこの映画だけでも見て、おしっこちびっておけ。


ゆきゆきて神軍 YukiyukiteShingun (introduction)

 

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 そしてもう一冊。 これもこの季節には欠かせない。 毎年書いてるな、これ。

「1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終わる」 物語。 

風の歌を聴け (1979年)

風の歌を聴け (1979年)

 

 

潮の香り、遠い汽笛、女の子の肌の手ざわり、ヘアーリンスのレモンの匂い、夕暮れの風、淡い希望、夏の夢 ・・・。

オンラインや SNS では決して手に入らぬ人生の宝物に、今年も触れることにする。 少しかび臭く、茶色に焼けた38年前の文庫本を書棚から取り出して。

あ、そうそう、最新刊も佳作ぞろい。 「With the Beatles」 を読んでたら、夜中に涙が止まらなくなったよ。 「風の歌を聴け」 の後日譚の一つとも思えて、深い余韻がある。 

一人称単数 (文春e-book)

一人称単数 (文春e-book)

 

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暑いけど、コロナだけど、外に出よう。 いつもどおり人と会おう。 夜風に吹かれながら、女の子 (あるいは男の子) の肌の手ざわりやヘアーリンスのレモンの匂いを感じよう。 サル的なヒトたち (より上) の世代の女性だと、ヘアーリンスではなく白髪染めの香りだったりすることもあるのだが、それはそれで愛おしい。 ガキには分からんだろうがな。

皆さん、すてきな夏休みを。 この数か月で大切なものがたくさん失われたように、2020年の夏ももう戻らない。