小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

数学ができない新入生へのメッセージ、再び

今回は大サービスの連休特大号 (笑)。 ちょっと長いぞ。 連休の暇つぶしになってうれしいだろ? ・・・ ん? 迷惑そうに目を伏せる読者の方が多いのはなぜだろう?

連休だと言ってみたところで、僕の前に並んでいる、僕しかやれない仕事(学生の投稿論文の添削が三つ、博士論文の添削が一つ、研究費の報告書が一つ)は何一つ減りはしない今日この頃。 皆さんの仕事は連休で減るのか? ふーん、それっていいなぁ(棒

・・・ などと、こともあろうに読者に向かって悪態をつくサル的なヒト。 読者数を競ってるわけじゃないのだから、別にそれで良いのだ。 というか、十年もこんなブログを読んでくれている変わり者の皆さんがこの程度の悪態で動じるわけがない、ということを知ってる確信犯(笑)。

 

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業務連絡を二つ。 

業務連絡その1:

今年も大学院入試の季節が来ましたよ。 頑張って博士号(PhD)を取りたい人、東大の大学院の薬学系研究科の入試説明会は5月6日(土) 13:00- です。 が、そこでは3分程度の説明しかできないので、受験を検討されている方(社会人)は随時私の研究室(医薬品評価科学教室 prstokyo あっと mol.f.u-tokyo.ac.jp)にご連絡ください。 研究室の概要などをじっくり説明いたします。

受験希望者への私からのアドバイスは、次の記事を読んでくださいね。

 

boyaboy.hatenablog.com

boyaboy.hatenablog.com

 

業務連絡その2:

5月15日(月)夕方から医薬品評価科学レギュラーコース(RC)が始まりますよ。 受講生の皆さん、今年も楽しく勉強しましょう。

ベテランの講師の先生方は、結構厳しいこと・皆さんにとって耳が痛いことをズバズバと言ってくれます。 私も、講師の先生方との長い付き合いと信頼関係の下、会社やPMDAに一切忖度なしに、伝えるべきことははっきり言います。 それがこのRCという研修の特長です。 単に知識を伝えるだけではない講義がたくさんあるよ。 お楽しみに。 

昨年度と同様に今年も現地(東大の講義室)とオンラインの併用で行います。 実地で講義を受けてもらえる人の数が増えると嬉しいなぁと思っており、事務局ががんばって現地参加者用のパンとかジュースとかお菓子とかを充実させる予定。 人と人のつながり・友情を育むためには、やはり顔と顔を見ながらの会話が欠かせない、ということは皆さんも痛感されていると思うので、できる限りのお手伝いをします。

ここ2年間開催できていない大学内のイタ飯屋さんでの夏の懇親会も、むろんコロナの状況を見ながらではありますが、できれば開催したいっす。

というわけで、5月15日に今年度のRCの受講生の皆さんとお会いできるのを心から楽しみにしてますよ。 

 

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先日、大学の新入生向けに数学のブログ記事を書いたのだが、タイミングがちょっと早すぎた。 あの時期にはまだ数学の講義が始まっておらんかった。 つまり誰もまだ数学の講義で落ちこぼれてなかったのであった。 おじさん、迂闊(うかつ)であったよ。 すまん、すまん。

数学の講義が本格的に始まって数週間経った今 ・・・ ほれ、あそこにも、あら、ここにも、頭を抱えて泣きそうな顔をしてる学生がゴロゴロいるぞ(笑)。 そういう新入生たちに届けなければいけない記事だったのだ。 なので、以下にコピペして再掲します(手抜きというなかれ)。

 

記事再掲の前に、一言。 あの記事を書いたときには知らなかったのだけど、私とまったく同じ苦悩を味わっている学生の、こんな面白いマンガがあったのね。 結構大人気みたい。 東大生協駒場書籍部にも盛大に並べられてて大笑い。 学生の絶望に寄り添いつつも、おいしく利益を上げる東大生協って、資本主義的に good job である。

「数字であそぼ。」絹田村子)。 今、9巻まで出てます。

 

このマンガ、無茶苦茶おもしろいっす。

主人公の横辺建己君は田舎では神童と言われた秀才。 だが入学初日の最初の数学の講義がまったく理解できなかったことにショックを受け、いきなり引きこもりに。 で、次のシーンがなんと2年後(笑)。下宿先の大家さんのわんこ(だんごちゃん。雑種)に「散歩に連れてけ!」と夕方4時にツンツンされて起こされるのである。 変わり果てた姿になった元神童はその後どうなるのか・・ というお話。

私はもうその時点で大爆笑してしまい、全巻を大人買いしてしまった。 連休中少しずつ楽しんでいるのである。

苦悩する主人公の周囲にいる友人たちがサイコー。 主人公は、数学の証明を「覚える」ことはできるけど「分からない」。 一方、友人たちはみんな数学が 「分かる」子たち。 だけど皆それぞれにどこか人間として大切なものがビミョーに壊れていて、その壊れ方が超楽しいのである。 大学3年生になっても高校のスクール水着着てホテルのプールで泳いでる夏目まふゆちゃん(天才)とか。 ちなみにまふゆちゃんは腹が減るとゴミ箱の中の食べ物も平気で食べる。 

ちょいちょい登場する数学の概念がまた楽しい (私には)。 たとえば有名な選択公理の話は、バナッハ・タルスキーの逆理(一つの球を無限に細かくして再構成すると、なぜか二つの同じ球ができてしまう、というやつ)とともに第4巻に登場しますよ。 お楽しみに。

数学の話題にまったく興味がないそこの貴方でも大丈夫。 数学トピックは読み飛ばしてしまっても全く問題なし。 だってこのマンガって要は「大学生の青春モノ」だから。 大昔のマンガ 「キャンパスクロッキー」 に似た雰囲気である (ほれ、小陳恋次郎とかが出てたやつ(笑))。

舞台が京都大学なので、京都の蘊蓄あれこれも楽しい。 京都のおばあさんのいけず(他人の悪口)とか京大生のアルバイト事情なども。 幽霊も盛大に登場。

というわけで、「この春、信頼していたスタッフに逃げられた寂しさで、まったく元気がでないなぁ」とか 「近頃なんか笑いが足りんなぁ」 とか、暗い声で呟いておられる方 (それって自分・・) は、今すぐ本屋に go !

すべての皆さんに力強くお勧め です。10億点。

 

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以下は、前々回の記事の再掲である。数学の講義が分からずに落ちこぼれかけている新入生へのメッセージ。 「数字であそぼ。」の主人公、横辺君はなぜか結局数学 (数学科から大学院へ) の道を着々と歩むのだけど、そうでない道からも数学を愛することができるのだよ、ということを伝えたい薬学部のセンセーからのメッセージである。

頑張れ、新入生!

 

(以下、記事の再掲)

 

同時代を生きる友人たちにはこれほどにまで寛容なサル的なヒトなのだが、40年前の恨みを未だに忘れていないのである。 なんと執念深いことだろう。 サルにしておくのはもったいないと思うのだ。

 

40年前の春。

新入生の私は東大駒場キャンパスで教養科目の講義を受けていた。 英語、ドイツ語、数学、物理、化学 などなど。 数学は二コマあって、一つが「解析」、もう一つが「線型代数」。 後者の「線型代数」、つまり行列・ベクトルはまぁなんとかなった。 問題は「解析」である。

前にも書いたのだけど(これね → 算術の少年しのび泣けり夏 - 小野俊介 サル的日記 )そのN先生の「解析」の講義、一ミリも講義内容が分からなかったのである。 「分からない」 にもいろいろ程度があると思うのだが、N先生の「解析」の講義の分からなさは最上級、Aプラスの分からなさ。

まず何より、N先生の声が小さくて、話している言葉が聞き取れない。 ブツブツ何か呟きながら黒板に数式をひたすら書いていくのだけど、その数式が何を意味するのかがまったく分からない。 それ以前に、N先生が教えていることが数学なのかどうかが分からないのである。 教科書を買おうと思っても、いったいどの教科書を買えばいいのかすら分からない、という始末。 高木貞治先生のあの「解析概論」(当時は分厚く堅い表紙だった)が教科書として一応は指定されていたのだけど、それを読んでも、先生が板書したことが「解析概論」のどこと対応してるのかがさっぱり分からない。 というか、クラスメートは誰一人として「解析概論」なんて読んでない (カバンに入れて学校に持って行ったら失笑された)。

それなりに夢・大志を抱いて大学に入ったはずなのに、いきなりの挫折である。 挫折というよりも絶望の方が近い。 ホントに死にたくなったのである。 定期試験では当然に「不可」、つまり追試験。 一応単位はもらえたが、点数はボロボロ(50点)である。

ちなみにほとんどのクラスメートも僕といい勝負の理解度だった。 追試を数十名で受けた。 ごく一部の数学ができる学生(物理学科などに行く連中)に「どうすりゃいいんだ?」と尋ねたら、「あんなもの、理解する必要ないよ。 定期試験の問題さえ解ければいいのよ」 とお気楽に語ってくれたっけ。

「俺は、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだぁ」と虚しく叫んだ40年前の自分。

 

時は流れ、2023年。 東大の教員をやっているサル的なヒトは、学生の方をまったく振り向かず、聴き取れぬ日本語でN先生がボソボソと講義していた内容が数学のどの分野だったのかを、40年後の今になってようやく理解した。

 

位相論と集合論

 

・・・ 気付くのが遅い。 遅いよ。 遅すぎるよ、自分 ・・・

 

一応解説しておくと、位相論と集合論は現代数学の基盤をなす領域です。 良いテキストもたくさん増えました。 私の研究領域との接点としては、理系・文系両方の論理学を支える数学基礎論の背景でもある。 ちなみに数学基礎論ってのは「やさしい数学」 という意味ではない。 数学という学問を学問として成り立たせるために必要な概念(道具立て)をきちんと一から組み立てる、という世界である。 数学の哲学という言い方もある。 集合論、位相論をその前提として、一階述語論理、不完全性定理連続体仮説の独立性証明・・と進むやつね。 

むろん当時も今も、学部の一年生がそれら全部を教わるわけではない。 N先生が実際に講義していたのも位相論のごく初歩の概念のみであった。 開集合だの距離空間だの内点だの点列コンパクトだのコーシー列だの。 大したことないといえば大したことはない (いや、僕のような素人からすると相当に大したことあるけど)。

しかし、高校出たばかりの新入生は、数学という学問がいったいどのような構造になっているのかをまったく知らないのである。 数学の世界地図を持っていないのだ。 地図もコンパスもなしにタクラマカン砂漠に放り出されているような状況。 そんな子供たちを前に、「数学のどの領域を教えようとしているのか」 の一言の説明もなく、ただ黙々と公理系の証明を進めていく、なんて講義スタイルはまったくダメダメだよな、それ ・・・ と現在薬学部で教えている小野センセは思うのだ。 

ホント、恐ろしい講義であった。 米国の大学だったら間違いなく「教員変えろ」と学生が大学に要求しただろうし、さらに「授業料、返せ」という訴訟が起きてたかもしれぬ。

教育体制や銭金の問題だけではなくて、もっと重大な問題もある。 それはほとんどの学生たちに、数学に対するトラウマのような負の感情、劣等感をすさまじいまでに植え付けてしまったこと。 教育の観点からはこっちの方がむしろ大問題なのだと思う。 

 

で、40年後の今。

サル的なヒトは、今日も深夜のオフィスで一人、必死で集合論と位相論の勉強をしてるのである。 選択公理の意味も、距離空間の意味も、今なら分かるぞ。 同値関係とか整列集合の意味も分かる。 ハウスドルフとコンパクト性の関係 ・・はちょっと待ってくれ。 あと数週間でたどり着くから。

それもこれも、 当時のN先生への復讐を果たすためである。 なんせこっちは、「あのおっさん、絶対に許さんからな!」 と40年間、お役所で働いていた時にも、ハーバードで勉強してたときにも、東大で研究をし始めてからも、とにかくずーっとN先生のことを忘れず、ずーっと復讐を誓い続けてきたのである。 勉強なんぞ全然苦にならない。 楽しくて仕方がないに決まってるだろ。

 

・・・ N先生。 ありがとうございます。

人類の知、いや、世界・宇宙の姿をもっと知りたいという思いを58歳の今も抱き続けていられる理由の一つは、たぶんあの時の講義へのこだわりのおかげの気がしてるのです。 皮肉でもなんでもなく、先生にお礼がしたいとそう思ってるのですよ。 不思議なことに。 

 

学問が好きになるかどうか、学問とどう接するかは、こんなふうに、いろんな偶然が関係してるのですよ。 あとね、この問題は、学校に所属している間だけでなく、人生全体の時間軸で考えないといけないのかもしれません。 受験勉強とはまったく違う感覚で、ね。

不思議なことがいろいろ起きるのが、人生なのだ。

 

 

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ふー、これで今日の記事はおしまい。 最後までお付き合いいただき、ありがとね。 今回の記事は普段の倍くらいの長さでした。 作者も書いててしんどかった。

では皆さん、心安らかに緑の季節を過ごしてね。 

 

ちなみに僕は、長年信頼していたスタッフに裏切られた悲嘆の中、自分に「自暴自棄の呪い」をかけてしまったのである。 ここ2か月ほど、呪いがかかったままモンスターとダンジョンで絶望的な戦いを続けてるドラクエの主人公 (level 7くらい)のような状態。 早く呪いを解かないとヒットポイントと体重がやたらと減って危険なのだが、ドラクエには呪いを消す魔法があんまり無いんだよなぁ。 キアリーは毒消しだし。 教会(あるいは心療内科)に行って、神父さん(あるいはお医者さん)に金払って「呪いをとく」 をしないといかんのだろうなぁ。 でも教会に行く途中で強いモンスターに会っちゃうかもなぁ。 ゴーレムとか。

・・・ なんとも分かりにくすぎる現状の表現で申し訳ありません(笑)。

 

しかし、まずは少しでも自力で呪いを解く努力をしようと、この季節の定番、Bee Gees の 「若葉の頃」 を聴いてみたりする  ・・ あ、いかん。 いかんぞ。 これは辛い悲しい思い出をしみじみ思い出させる方向の曲だった。

・・ (´・ω・`) ショボーン

 

じゃまたね。 完全にヒットポイントが回復するまで、こりゃ先は長いわ。

 


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