小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

事務局に大外刈りをかけられない

完全に転倒状態にありながらも、決めポーズを笑顔でとっていた体操の山室選手のファンになってしまった今日この頃。 サラリーマンのあるべき姿を指し示してくれたような気がする。 倒れようが、コケようが、とにかく最後は決めポーズ。 そんな感じで、皆さんお元気?

1600人読者には申し訳ないのだが、サル的なヒトにも夏休みが必要である。 読むだけの人には分からんだろうが、毎回のブログ書くのだって15分くらいでテキトーに書きなぐるだけ何時間もかけて構想を練って、執筆して、推敲を重ねているのだ。 大変なのだ。 だから今週くらいは手抜きさせてくれ。 頼むぞ。

今回は事実上お休みの回なのだ。 勝手にそう宣言しちゃうのだ。 だから今日は、無料出張講義で使っているこんなスライドを一枚解説するだけで勘弁してくれ。 みんなが目を背け続ける日本の医薬品評価の暗部、ブラックホールの一例。

一般の人たちにも分かりやすく説明しますね。 新薬を承認するかどうかは、PMDAの審査官や薬事食品衛生審議会 (薬食審) という審議会のエラい委員たちが審査して決めています。 で、新薬を承認しても良いかどうかの判断基準は、大きく3つ。 (1) ちゃんと効くこと (有効性)、(2) 副作用が重くないこと (リスクベネフィットOK)、(3) 品質がちゃんとしてること。 これら3つの基準が全部OKであれば承認されて、一つでも欠けていれば承認されない。

「基準に従うだけなら、お薬の承認って誰がやっても同じじゃないの?」 と素人さんは思うかもしれないが、そういう感じじゃないのよ、実は。 これらの基準ってとても曖昧で抽象的・概念的。 基準が満たされるかどうかは100人いれば100人判断が異なるような代物です。 裁判官ごとに判決が変わるのと同じ。

で、スライドの状況を考えてみましょう。 審査官あるいは審議会委員のAさんは、この薬は効かないと思っている (でもリスクベネフィット、品質はOKと思ってる)。 Bさんは、リスクベネフィットがダメだと思ってる (でも有効性、品質はOK)。 Cさんは品質がダメだと思っている (でも有効性、リスクベネフィットはOK)。

この場合、Aさん、Bさん、Cさん個々人に 「この薬、承認して良いと思いますか?」 と尋ねたら、三人とも 「承認してはいけません」 と答えます (薬事法を知っていれば)。 この薬はどう転んでも承認されません。

しかしここで、サル知恵が働くヒトが 「一人一人の判断だと誤る可能性があるから、三人で話し合って決めましょうよ」 などと言い出したとしましょう。 「3つの基準について、順にみんなの意見を出し合いませんか? それぞれの基準が満たされているかを多数決で決めません? 民主的に」 なんてね。 すると何が起こるかというと、あいやー、多数決ではこのお薬はすべての基準を満たしていることになってしまうぞ。

「どの基準についても満たされていますね。 じゃあこの薬は承認して良いですよね」 とサル知恵のヒトの完全勝利。

たくさんの委員が決定に加わる○○審議会とか、複数の審査官が民主的に (笑) 口を挟むチーム審査では、こういうことが起こって当然ですね。 というか、過去にも、今この瞬間にも、こういうパラドクスのようなことが起きているだろうし、今後も起き続けるだろうね。

ニポンが危ないのは、当事者 (業界人、薬食審関係者、審査当局)に、こうした構図をきちんと取り上げて、この構図・メカニズムの長所と短所(危険)をちゃんとリストアップして、みんなで共有する気がまったくないこと。 正確には、当事者 (の一部) はこの構図をむしろ隠し通そうとすることが多いんだよね。 なぜかというと、こうした構図を熟知した人たちは、構図に無知なヒトに、大外刈りのような大技を簡単にかけることができるから。

ほら、よくあるでしょ? A案かB案かでもめている委員会などで 「議論を効率よく進めるために、論点を整理してまいりました」 と言いながら、見事なメモを委員に配る事務局が。 論点を小分けして (このスライドの (1)、(2)、(3) のように)、それぞれの論点について順に議論していくと ・・・ あーら不思議、「委員の皆さん、どの論点についても、A案を支持される方が多数のようですね」 なんて事務局の思惑どおりに結論が導かれたりする。 委員に多数決をとったらB案が勝つのに。 なんのことはない、事務局の完全勝利 である。

こういうことって、ホントよく起きてるのよ。 皆さんが気づいていないだけ。

決定の構図に無知なヒト (つまり世の中のほとんどの人たち) に対しては、こんな荒技・大技が簡単にかけられるのだから、そりゃたまらないのである。 事務局側のヒト(笑) にしてみれば、今のまま、みんなに無知でいてもらいたいに決まっている。

どうですか、読者の皆さん。 世の中って恐ろしいでしょ? 無知って怖いでしょ? ちゃんと世の中の仕組みを勉強しましょうね。 このあたりは社会選択論という学問領域がカバーしてます。 私の無料出張講義でも重点的に教えますので、興味のあるヒトはしっかり聴いてね。

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・・・ あ、あれ? 今週はお休みの回のはずだったのに、懲りもせずに理屈っぽいことをまた長々と書いとるぞ、このサル。 バカである。

お盆にはこんなマンガがよかろう。 前者は陛下も訪れ、献花されたあの激戦地、ペリリュー島のお話。 後者はシベリア抑留のお話。 どちらもとても読みやすい絵柄で (作者が意図的にそうしている)、戦争の醜悪な姿を復習させてくれる。

新装版 凍りの掌 シベリア抑留記 (KCデラックス)

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おすすめです。

ではみなさん、よい夏休みをお過ごしください。 あとさ、1600人の読者さんたち、たまにはこのブログへの激励のコメント書いてもいいんですからね (笑 ← 目が笑ってない)。 夏休みなんだから。