小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

見て見ぬふりをする社会

疲労困憊しているので、短めに(笑)。

あなたも私も、見て見ぬふり、してますよね。 いろんなもの・ことを。 会社で、工場で、役所で、大学で、街中で、・・・。 社会全体としては、壮大な規模の見て見ぬふりが発生していることであろう。 多少は「見て見ぬふり」をしないと、相当に面倒くさいヒト扱いされてしまうし。

福島原発の話は言うに及ばず、医薬品の世界でも時々起こる法令違反事例など、「あの時こうしていれば防げた『はず』の事件・事故」が後を絶えない。 本当に防げたかどうかは、神様にしかわからないのではあるが。 

合理的な努力や注意で防げる事故は防ぎたい。 でも、合理的な努力って何だろう? 当たり前の人間が当然払うべき注意ってどのくらいのもの? これはなかなか難しい。

「見て見ぬふりをしなければ、その事故は防げたかも」も、その手の難しさがつきまとう。

「見て見ぬふり」を定義するのは結構難しい。 例えば「見ようとしないものは見えない」現象。 空港の警備担当者は、探している危険物は見つけられるが、探していない危険物は見つけられないそうである。 「どんな種類の武器であっても、3回に 1回は見落とす」そうな。 実体のあるモノについてもそうなのだから、概念については完全にそうだろう。 知らない概念は、わからない。 当たり前だ。

(社会選択論に登場する有名な諸概念(例えばパレート効率概念)を念頭において、新薬の承認に関する理念が不在・空白であることを説明しようとしても、業界の方々に問題の本質が伝わらないのは、その分かり易い例であろう。 私が業界の皆さんに無料出張講義をして、様々な概念を知ってもらおうと努力をしているのは、それが理由の一つ。)

「見て見ぬふりをする社会」(マーガレット・ヘファーナン著)は、そのような事例がたくさん載っていて面白い。

見て見ぬふりをする社会

見て見ぬふりをする社会

医薬品の例としては、ちょっと前の有名な Cox-2 阻害剤の話(FDA内部の軋轢ね)などが挙げられている。 業界人にとっては真新しい話ではないが、一般の読者にとっては、医薬品行政の世界は複雑怪奇で、歪な世界に見えているんだろうなぁ。

一般論として興味深いのは、「組織の一員として行動すると、個人の真っ当な倫理・論理がどこかに消え去ってしまうのはなぜだろう?」という話。 社会心理学における研究テーマとしては一丁目一番地にある、有名なテーマである。 組織(会社、役所、学校)の中での意思決定の特徴(例:決定が尖ったものになる(集団極化)など)はよく知られているが、医薬品規制の文脈での研究例はあまりない。 でも、例えば「三人寄れば文殊の知恵」というのは本当か? なんていう研究は、チーム審査と称してやっていることに(どのくらい)意味があるのか? といった課題と間違いなくつながっていたりして、とても面白い。 本ブログでも、おいおい紹介していきます。

「組織」や「科学」といった権威が、個々人の倫理の判断をいとも簡単にネジ曲げる(正確にいうと「飛び越える」という感じかな)様を示す、有名なミルグラム実験は、この本でも当然引用されている。 権威が命じれば、ヒトは簡単に、さほど痛痒を感じることなく、殺人を犯す(殺人に手を貸す)ことを示した象徴的な心理学実験。 これは現代人にとっての必須知識です。

そして、その先には「夜と霧」(VE フランクル著)の世界がある。 ユダヤ人の強制収容所の話。 言うまでもなく、これも現代人の必読書。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

治験の倫理と称して、ヘルシンキ宣言、インフォームドコンセント等々・・・を形式的に勉強しますよね。 勉強は大事。 でもその前に、なぜそのような倫理指針が必要だと過去の人たちが考えたのかを知ることの方が、順番からいえば先である。 そんな指針が必要になるほどすさまじい倫理コンフリクト ethical conflict が、我々のまわりにはゴロゴロ落ちていることを知ること、そしてそれらがなぜ起きるかを考えることが、お仕着せの倫理のお勉強よりも先に来ないとダメだと思います。 でないと、あなたは、ミルグラム実験の被験者と同じ「殺人」をほぼ確実に繰り返します。 人間だもの(by みつを)。

商売人が、その辺の善良なおじさん・おばさんをつかまえて、「ね、これ試しに飲んでみてよ。 おいしく飲めるか、そして、死ぬ人が出ないかを確かめたいんだ」というのが現代の資本主義及び規制の文脈での臨床試験の構図の本質だが、これが社会の視点でなぜ許容されるのか、歴史的に正当な許容のプロセスを経ているのか、を業界人は日々真剣に考えましょうね。 「新薬を開発するのは、無条件の善」と傲慢に言い放つ勘違い業界人が多くて、サル的なおぢさんはドキドキすることが多い。 そんな簡単なものじゃないよね。 若手なら、まだ修正が効きます。

今日は疲れているので、ここまで・・・ と言いつつ、かなり長いぞ(笑)