小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

私たちはこういう「科学」をやってます

ネタに困ると、学生さんが頼りになる。 社会人学生Yさんがセミナーで紹介した論文を紹介する。

The Complications of Controlling Agency Time Discretion: FDA Review Deadlines and Postmarket Drug Safety. Carpenter D, Chattopadhyay J, Moffitt S, Nall C. American Journal of Political Science 2012; 56(1): 98-114.

この論文で Carpenterさん(Harvardの先生)は

  • FDAは審査期間の締め切り(薬によって違うが、6カ月とか 10カ月とか。あらかじめ決まっている)ギリギリに新薬を承認しがちである
  • FDAが審査期間の締め切りギリギリに承認した品目では、市販後の安全性の問題が出やすいようだ

という結果を示している。 ギリギリ締め切り守って承認といった状況では、意思決定プロセスにおける判断の質が落ちてしまう可能性があることを示唆した内容。

Carpenterさんたちは 2008年にも NEJM(注1。有名な医学誌)に「締め切りに追われて FDAが承認した品目は危ない」という結果を示していたのに対して、FDAの職員(いつもの Bobさんたちね。 彼も長いなぁ・・・)が反論したという経緯があった。

(注1)Drug-review dealines and safety problems. Carpenter D, Zucker EJ, Avorn J. NEJM 2008; 358: 1354-61.

今回の論文では、データベースを拡充した上で、違うモデル(GLM、パネル、mixed effects)を使って前回と同様の結論が再確認された点と、因果関係の議論を強化するためにマッチングを行って(単純に strognly ignorable 条件が成立しているなんて言える状況じゃないから)、結論が揺らがないことを確かめた点が新しいわけである。 Carpenterさんたちの論文は、背景の数理モデルがいつもきっちりとしていて、さすが、という感じ。 社会科学系としては当然か。

むろんこの論文に対しても、反論が出るでしょうね。 学問・科学に則った議論が展開されるのは実に楽しい。 反論というよりは「政治的なアピール」も出たりするんだけど、それはそれで興味津々。

「政府が受益者(国民、企業)にとって良かれと思って導入した(政府職員に対する)縛りが、結果として(受益者にとって)好ましくない効果を生む」可能性を示した実証研究である。 過去の政治学行政学社会学研究とのつながり、広がりを持った話で、実に面白いでしょ?

米国ではこのような研究を行う人たち・研究室・組織が、たくさんいる・ある。 一方、日本では、このような研究(特に医薬品規制をめぐる研究)はきわめて少ない。 なぜか・・・ は次回以降に続く(笑)。

我々の研究室でも、この手の実証研究をやっています。 例えば

  • 承認審査期間と企業ノウハウの蓄積との関係
  • 海外データを使って承認された新薬は、危ないか
  • 承認審査プロセスの中で、判断がどう揺れ動くか (これが社会人学生 Yさんのテーマ)

など。 (他にもいろいろやってますよ。 テーマを紹介できなかった学生さん、ごめんなさい。 追々全員の分紹介しますんで)

我々の問題意識の根底には「ヒトはインセンティブに反応する」というすべての社会科学の基本がある。

もうすぐ大学院入試の願書提出期間が始まります。 こういう領域の研究・勉強をしたい方はお早めにコンタクトしてください!