小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

こういう課題でトレーニングしてますよ

今日からまた社会人向けの研修コース(医薬品評価科学レギュラーコース。半年間、週一回)が再開。
研修プログラムはこちらをクリック→http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~regsci/files/8rc%20program.pdf

といっても夏休みで1回お休みだっただけか。 受講者の皆さん、暑い中ご苦労様です。 寒い季節が来れば週末レポート書きの毎日から解放されます。 もう少しです。 頑張りましょう。

で、今日は後半のグループディスカッションのテーマを配布した。 10人くらいのグループごとに、与えられたテーマについて数週間ほどかけて調査し、検討し、グループ内で議論して、その成果を皆の前で発表する。 前半のテーマは非臨床系のものが多く、皆さんやや四苦八苦するのだが、後半は臨床開発系なので、比較的やり易いかも。

この研修・ディスカッションももう8年目である。 「一体、どんなテーマを議論しているんだろう?」と興味をお持ちの方もいると思うので (いて欲しい(笑))、出し惜しみをせず、宣伝も兼ねて、今日割り当てを決めた4つのテーマを紹介しよう。 

(テーマA)
日本の添付文書等では、関係する有害事象のうち「副作用」の種類と発現率が記述されていますが、米国のlabelingでは、主たる第三相試験(プラセボ群を含む)等においてプラセボ群と実薬群で生じた「有害事象」の種類と発現率が記されていることが多いとされています。 この違いが発生した背景を考察するとともに、こうした違いが両国における薬の使い方、健康アウトカム、市販後の副作用情報収集等(他の重要な観点があればそれも)にどのような影響を与える可能性があるかについて議論してください。
(注)他の日米の副作用等への対応(制度、ルール、慣習等)の違いも適宜含めて論じること。

(テーマB)
医薬品が関係する将来の「薬害」のシナリオ(発生から一応の解決(解決不能を含む)まで)を2パターン想像し、具体的に挙げてください。 (過去の「薬害」の例との相違点を明確にすること。)あなたの役割を明確にした上で(例:企業の担当者、当局の審査担当者等)、あなたがこれらの「薬害」にどう対応するかを説明してください。
(注)想像力たくましく論じること。

(テーマC)
 昨年薬食審で議論されたエポジン注の効能追加申請(治癒切除不能な固形がん患者におけるがん化学療法に伴う貧血)を例に、医薬品の「リスクベネフィット」と称するものが現在の新薬開発・承認審査でどのように評価されているかを簡単に説明してください。 そのような「リスクベネフィット」の議論・評価のあり方の特徴(問題点・欠陥、長所)を挙げ、エポジン注の効能追加に係る「リスクベネフィット」評価及び承認の可否について、皆さんならばどのような判断を下すかを提案してください。
(注)2011年9月29日 薬事・食品衛生審議会薬事分科会議事録(webで入手可)等の公表資料及び関連するメディア報道を参考にすること。 試験成績等ではなく、評価・判断の背景にあると思われる考え方・主義主張・倫理などを議論すること。

(テーマD)
 承認申請後に「ある重要な国内第三相比較試験(総症例数300例、三群比較)について、ある実施医療機関において10例分のカルテ(原資料)が紛失していた」ことがPMDAのGCP実地調査で発覚しました。これに対して企業及び当局が採るべき(あるいは採ると予想される)対応を具体的に挙げてください。 そうした対応(及び現在一般的に採られている対応)の正当性と問題点を論じてください。
(注)申請資料における当該試験成績の扱い(有効性、安全性データの取扱い・分析方法の変更など)に係る対応は、一定のデータパッケージの構成を仮定した上で必ず具体的に論じること。

・・・

とまぁ、こんな感じ。 体面と体裁と立場を気にするお上品な研修では扱わないトピックばかりである(笑)。 C社さん、議論の材料に使ってスミマセン。 テーマは毎年変えています(同じものもある)。

鍛えたいのは「予期せぬトラブルで苦境に立った時の対応力」 「制度やルールを評価し、それを変更し、新たに提案していく力」。 いつも言っているとおり、現状の客観的な理解は必須。 また、規制・ルール・SOPを正しく理解することも必要。 でも、世の中の揉め事は、それらを前提にして、常にその先で起きるわけです。 現状を良しとせず、現在のやり方の「その先」を考えるのが、この研修コースの目標。

だから、医療メディアや業界のシンポジウムで耳にするステレオタイプな議論を展開したのでは、私も、他の講師陣も、聴き手の受講生も、許しません。 「ワタシ的には、こう思います」もダメ。 正当化の理屈を言葉で述べましょう。 「こんな書生論を議論してもムダさ。 実際に業務を経験してみないと意味ないよ」という醒めた声もあろうが、まともな書生論(理屈)を知らずにそう言っても説得力はありません。

各グループのプレゼンは、聴き手の受講生全員が採点します。 皆さん、質疑応答での口調は優しいのに、点数は辛らつに付けるのが興味深いところ。

どうですか、あなたも議論に参加してみたくはありませんか? タブー無き議論(タブーはなくても、議論のルールと礼儀はあるよ)、時には目から理不尽な苦悩汁(涙)が出るような議論は結構楽しいですよ(注)。 興味のある方々は、上司と相談の上、ぜひ来年度の研修に参加してください。 お待ちしてます ・・・・ と宣伝活動を少々なのであった。

(注)この8年間で、実際に苦悩汁を出した人は一人もいませんので、ご安心ください。