小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

役に立つ話なんて、つまらない

秋深まりゆく今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか。 セミの声は見事に消え去り、コオロギ、鈴虫、マツムシ、キリギリスが今がわが世とばかりに元気である。 ところでセミの幼虫 (茶色い抜け殻は都会の公園でも見かけますね) は地中で7年くらい過ごし、成虫になって地上に出たら一週間の命、というのは多くの人が知っていると思うが、ここで問題。 セミの幼虫って、地中で何を食べているんでしょうか? 答えは最後に ・・・ ヒント: セミの抜け殻の顔の部分を思い出すこと。 これって盲点を突くいい問題でしょ?

*****

先週の土曜日は、あるSMO(人材を派遣して病院の臨床試験をお手伝いする会社)の社内研修のお手伝いで、講演。 お聴きになられたCRCの皆さん、お疲れ様でした。 いや、これはお決まりの社交辞令ではない。 実際疲れたでしょ? ふだん聞いたことのない話ばかりで。 内容、理解できましたか? 

講演でも申し上げたが、あのような内容の話 (結論や主張は私のそれと逆でもかまわないのよ) をきちんと話せる講師の少なさ、そして皆さんがあのような話を聞く機会の少なさが、日本の臨床研究周辺の科学の弱さの表れなのだと思うのです。 何度も書いたが、私の話は所詮、現在流行のアメリカ流の大学院教育 (School of Public Health や Government School や Business School) の受け売りだ。 あの程度の話は、たぶんあなたが欧米の業界人だったら、あちこちで普通に聴ける。 でも、ここ日本では ・・・ となる。

日本の治験産業が抱えるハンディキャップは明らかである。 一番つらいのは、治験データの「原材料」である被験者が日本人であることですよね。 白人のデータであれば高く売れるのに。 いや、せめてヒスパニックや黒人がもっと被験者として使えれば、大手顧客の米国 FDA や欧州 EMA に製品(治験データ)を高く買ってもらえるのに。(注 1) おまけに日本人データ製品の大口顧客である日本の当局は、医薬品版 TPP( = ICH) を締結して以降、「我々は海外データの多様性を評価したい」というメッセージを出し続けている状況。(注 2) 必然的に日本の治験産業は苦しい商売にならざるを得ない。 

(注 1) 被験者を資源扱いした、不謹慎な表現をあらかじめ謝罪します。 しかし、こんなに辛辣な表現を使ってもなお、自分たちの置かれている苦境の構造を理解できない業界人が多いのです。

(注 2) そのような混乱した言動は、ICHに対する日本の対応が内包する矛盾が引き起こす認知不協和への反応として説明できます。

世の中の必然の流れ、グローバル化の影響も皆さんにとっては複雑だ。 「グローバル企業の国際共同治験を日本で実施するには、日本の治験環境は遅れている。 世界標準の治験に日本は追いつかないと!」 なんていう掛け声に踊らされて、グローバル企業が持ってくるSOPを勉強して、必死に自分たちを欧米化してきたのが、過去十数年ですよね。 「日本のGCPはICH−GCPと食い違っている! ニッポンは世界とハーモナイズしていない後進国だ。 GCPをICH−GCPと 『同じ』 にしろよ」 なんていうグローバル企業の掛け声に踊らされて (いや、脅されて(笑))、当局がGCPを修正し続けてきた歴史も同様。 そんなふうにグローバル企業の言うことを聴かないと、グローバル企業は日本に治験を持ってきてくれない(と脅す)のだから、短期的には、治験産業の方々は従順に彼らの言うことに従うしかない。

でも一方で、そのような 「世界と同じ」にハーモナイズされた世界に近づけば近づくほど、皆さんの雇用の源となっているジャパンプレミアム (日本の独自性に由来する日本人の優位性。 外人にとっての参入障壁) は下がっていく。 前にも載せたが (グローバル化を考えた昨日であった - 小野俊介 サル的日記 も読んでね)、下の図で行くと、世界の業界人と必死で歩調を合わせることで、皆さんは長期的には 「重力の世界」、すなわち給料が二十分の一のインドや中国の人たちとの熾烈な競争に自ら身投げしている状況である。 日本・日本人は、ますます 「どこかの誰かと代替ができる存在」 になっていく。 グローバル企業にとってはうれしい状況だろうけどね。

貿易理論でいう絶対優位もなく、また、生産する製品 (治験データ) に対する消費者の人気も今一つ、という中での闘いを日本の治験産業の方々は強いられるわけである。 大変ですよね。

もっとも、日本の治験産業は政府による直接の補助金という庇護を受けて、ここまでは急成長してきたわけである。 それを見て、「日本の治験産業は強いのだ」 と勘違いしている方々も多い。 そういう方々は、私が 「日本は不利を抱えていて大変ですね」 と言っても、まったくピンとこないらしい。 急成長したのはね、単にゼロからの出発だったからですよ。 産業の初期成長はだいたいそんなもの。 本当の勝負はこれから先である。

CRCの皆さん。 だからね、一人一人がタフになって、生き延びてください。 会社が生き延びるかどうかも、結局は皆さんの職業人としてのタフネスさ次第である。 業界の戦略を立てる方々は、グローバル企業そして各国政府との駆け引きを上手にやってくださいね。 黙って彼らの言うことに従ったり、「いやー、素晴らしいね、ニッポンのCRCの皆さん。 やっと、世界レベルに達しましたね」 なんておだてられていい気分になっていたら、将来とんでもないことになりますよ、たぶん。 ふと気がついた時には、上に述べた皆さんのハンディキャップは棚にあげられて、「みんながこんなに応援してるのに、日本の治験の体質はさっぱり改善しないじゃないか!」 などと理不尽に批判され続けているかもしれません。 そうこうしているうちに 「重力の世界」の住人になって、インド人・中国人と必死で生き残り競争中 ・・・ というのが最悪のシナリオ。 でも、可能性の高いシナリオだ。

*****

ついに出た。 あの「野宿野郎」の、かとうちあきさんの新刊。 「あたらしい野宿(上)」。 日本野宿学会推薦図書である。

あたらしい野宿(上)

あたらしい野宿(上)

帯の文句が素晴らしすぎる。

旅コミ誌 「野宿野郎」 編集長が遠まわしにおススメする How to NOJUKU !!!! お金がなくても、モテなくても、さあ、抜け出そう夜空の下へ。

のじゅくん (小4) は、いつもくよくよしています。 友達がいない。 女の子にもモテない。 勉強も、運動もできません。 この本は、そんな「くよくよ のじゅくん」が立派な「野宿マン」になるまでの涙なみだの物語なんですよっ! ・・・・ってほんとかな。

のじゅくん (小4) はこっそり家を抜け出すために工夫がいるけど、壮年期のおっさんは家庭の中でどうでもいい存在なので、家を夜に抜け出しても誰も気づかない(というかむしろ喜ばれる) ・・・ という野宿の出発点のノウハウから始まり、 

  • おばけが怖いヒトのための、北枕の避け方
  • 公園でのヤンキーとの仲良くなり方
  • 駅での寝かた (ステーション・ビバーク、略してステビー)
  • ブルーシート、銀マット、段ボールの使い方
  • 野宿メシの作り方
  • 野○の仕方 (お尻にやさしい葉っぱの種類)

といった、現代人必須のノウハウが学べる必読書です。 ぜひご一読を。

でもね、私がこの本が好きなのは単にノウハウが学べるからではない。 私自身が疑うことなく のじゅくん(小4)だから、そして自分が のじゅくん(小4)になることで、心が自由になれるから、である。 私の周囲にいるのは、野宿のバカ話などしない、まっとうでご立派な方々ばかり。 役に立つかどうかが興味の基準 (驚くべきことに、人間に対してもそうだ)。 いやぁ皆さん、実にご立派だ。 パチパチパチ(拍手)。 でもさ、そういう人たちとだけ付き合う日常って、つまらん。 味気ない。 くだらんなぁ、自分の今の人生。 誰でもよい、「あたらしい野宿(上)」を読んで友だちになりませんか。

*****

クイズの答え。 セミの幼虫は 「地中で、樹の根っこから樹の汁を吸う」 が正解。 そう、幼虫も成虫とほぼ同じものを吸ってるんですよ。 幹から吸うか、根から吸うか、だけの違い。 私も知らなかった。