小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

やれやれ

本日は医薬品評価科学レギュラーコース(通称RC)の本年度の最終日。 受講生の皆さん、半年間お疲れ様でした。 今年度の講義はいかがでしたか? 熱血先生、クールな先生、実務型の先生、夢想家型の先生(あ、そりゃ俺だけか)など、いろんなタイプの先生がいて楽しかったでしょ?

毎年、最終日に行う修了式を終え、恒例の13階のイタ飯屋さんでの修了パーティを終え、皆さんを一人ずつ出口で見送って、大学に戻る。 誰もいない夜のオフィスで大きくふぅと息を吐く。 これも恒例だ。 やれやれ、今年も一仕事終わったなぁという安堵と、毎週顔を合わせてきた皆さんともう会えないことの幾ばくかの寂しさと。 まぁ毎年のことである。 今年で10年目、10回目。

皆さんのネットワーク、特にディスカッションで語り合った同じグループの仲間との縁を切らさぬよう、大事にしてください。 定期的な飲み会大いに結構。 でも、仕事の話ばかりではだんだん疲れてくる。 会社のポジションが変わったり、転職したら、急に疎遠になる業界人も多い。 関係を長続きさせるには、仕事の話はほどほどにして (でも、転職の際の相談には親身になって相談に乗ってあげよう)、まずは 「同じ時代を生きる生物どうし」 「同病相哀れむ」 といった視点で時々メール交換などしてください。 仕事の自慢話や自分のことしか話さないヒトの周りには、結局誰もいなくなるよ。

グループのその10人ほどの仲間から、一生ものの友人が見つかるかもしれません。

アドバイザーをお願いした昨年度の受講生の皆さんにも感謝。 本当に助かりました。 で、本年度の修了生の方で、来年度のアドバイザーをやりたい! という方がおられたら、ぜひ事務局に立候補メールしてください。 アドバイザーになると豪華特典がついてくる ・・・ かもしれない(笑)

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今ちょっと原稿書きで忙しくて、ブログを書いている暇がない。 本当は週末に見た映画を紹介してお茶を濁そうと思ったのだが、残念なことにその映画がつまらなくて、紹介する気力がなくなってしまった。 「ローン・サバイバー Lone Survivor (2013)」。 評判が高いので期待したのに、なんか中途半端なアメリカ万歳映画でがっかり。 ストーリーにリアリティがまるでないし、人間ドラマの感動もないし。 

「The Deer Hunter (1978)」 「Platoon (1986)」 「Full Metal Jacket (1987)」 「Saving Private Ryan (1998)」 といった戦争映画の名作と共に育った我々世代は、目が肥えすぎているのかもしれん。

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堤未果さんの 「沈みゆく大国 アメリカ(集英社新書)」。 売れていますね。

前作の 「(株)貧困大国アメリカ(岩波新書)」 で、農業そして食品をめぐる公共サービスの寡占化、つまり1%の金持ち連中が貧乏人からさらにお金を安定的に搾り取る構図をわかり易く解説してくれて、ウームとうなったのだが、ついにこっちの世界にもメスを入れてくれたわけである。 そう、医療と薬。 当然そうくると思ったよ。

今頃になって (30年くらい遅いと思われる) アメリカの真似をして作った日本版ホニャララだのなんだのを礼賛し、「産官学が一体となって・・・」 などと明らかに周回遅れのおじさんたちが力説し、外国の競争ルールを受け容れることを国際化と勘違いし、「アメリカのリボルビング・ドアのように、日本も規制当局と企業と大学のヒトが行き来しないといけない」 などと形だけの猿真似を提案して嬉しがるニポン人。

アメリカの法律、アメリカ人の制度、アメリカ人の食べ物、アメリカ人のやることを真似していれば安心で幸せなニポン人。(注 1) 「私、アメリカ人の知り合いがいるのよ」 「私、アメリカに留学・駐在したことがあるのよ」 が自慢のタネ (笑) となり、恐ろしいことにそれが立身出世のシグナルとなるニポン。(注 2)

(注 1) 最近、「アメリカに先駆けて、日本が世界初の承認をした新薬がある」 などとやたら自慢しているおじさん方がいるが、恥ずかしいから誰か止めてあげた方がいいと思いますよ。 それって、アメリカ様の後ろにずっとくっついていって、最後の最後でダッシュしてゴールに駆け込んで 「オレが勝った!」 って言っているようなもんだ。 競輪じゃないんだから。

(注 2) 能力や学力の真のシグナルがまったく評価されていないことの裏返し。

そんなニポン人よ、さぁそこまでアメリカが好きなら、みんなでアメリカの抱える地獄絵図まで真似しよう。 毒を食わば皿までだ。 本書で紹介されている、みんなの大好きなアメリカの地獄絵図はこんな感じ。

保険制度に入っていても、バカ高い抗がん剤 (例えば今日のF先生の講義で出た1千万円もする薬) は当然にカバーされない。 でも、そこはさすがに自由と独立の国、アメリカ。 金のない貧乏人のがん患者には、安い 「自殺用薬」 がやさしく処方してもらえる。 自殺用薬は保険でカバーされているから安心だ。 おまけに患者想いの薬剤師さんが 「これを飲むときには水をたっぷり飲まないと胃が荒れますよ」 と服薬指導もしてくれるらしいぞ。

新薬のグローバル開発の中で、日本人向けの用量設定を手抜きしても誰も声を上げず、(患者以外は) 誰も痛痒を感じない状況になってしまった現在の日本に、この本に書かれているアメリカ風の地獄絵図がやってくるのはもうすぐだ。 あとほんのちょっと先 ・・・ いや、この認識は誤っている。 甘い。 だって、日本人がたくさん働く日本企業は、もう既に、この地獄絵図のアメリカで一生懸命に商売して、たんまりお金を稼いでいるんだから。 ほとんどの日本の医療業界人は、既に、この地獄絵図、ベトナム戦争や終わりの無いイスラムとの喧嘩並の泥沼にズブズブに浸かっているというのが正しい認識。 ニポン人はアメリカ地獄絵図の立派な構成員である。 お気楽に 「医薬品は輸入超過だ。 輸出を増やせ」 って号令をかけて、国ぐるみでこの泥沼の奥地にさらに踏み込もうとしているのが今のニポン。

アメリカの泥沼に平気で踏み込む一方で、母国の日本では 「皆保険下の平等と公平、そしてすべての新薬のアクセスは共に保証すべきだよ」 などと能天気に主張してしまうのもニポン人。 恒常的後追い先進国 (あるいは先進国もどき) の住民ならではの二枚舌と現実逃避である。

さて、鵺(ぬえ)のようなグローバル企業で働く日本の業界人の皆さんは、どうする? その時、どっちに味方する? これまでもそうかもしれないが、これからも何度も心の中で踏み絵を踏まされることになるのでしょう。 踏み絵から目をそらして、なかったことにして、こころが凍り付いた鬼になってしまう方々も、これまで以上に増えることでしょう。 いや、業界人だけではない。 アメリカのサル真似して構築されてきた医の産学官メディア複合体で浮かれている私たちみんなが直面している踏み絵。 私自身も何度も何度も踏まされてきた、踏み絵。

やれやれ。 しんどいね。