小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

iPS が戦艦大和になる日

暑いっすね。

大学のそばの本郷三丁目の交差点 (そう、愛想をふりまく豚さんが店頭にいる豚焼き肉店があるところだ) で信号待ちしていると、日陰が全くないもので、マジで目まいがして倒れそうになる。 そこに、頭の上から突如 「○○党の参議院議員候補、××です!」 の大声が。

街中で名前を車の上から連呼する日本の選挙、最近よく外国のメディアが取り上げているが、むろん 「ニポン人の民主主義ってネアンデルタール人並みやで(笑)」 という失笑のニュアンスである。 日本人の私たち自身だって 「アホか、こいつら ・・・」 と心の中で思っている。 でも、口に出しては言わないよね。 嫌悪感をはっきり示す人も少ない。

よっしゃ、ここはひとつ一肌脱ぐかと思い、「通行中の歩行者の皆さん、応援ありがとうございます!」 などとヒトを小バカにしたようなことを叫ぶ選挙カーに向かって 「うるせーんだよ! 車の上からエラそうに、何様のつもりじゃ! 車から降りろ! なめんなよ、 f○○k you !」 の中指立てポーズ (長いな(笑)) をしてやったら、家人に 「あんたね ・・・ サルじゃないんだから止めときなさいよ」 と叱られた。 しかしな、ワシはサルだからな、その批判は当たらんぞ。 ムッキー(怒)

暑いと言葉も汚くなる。 スマンスマン。

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例によって、政府広報紙のY新聞は医療ネタで紙面を埋めている。 なんともお気楽な構成だねぇ、と土曜日の朝からゲンナリ。 現在は、そこに某製薬企業の臨床試験データ改ざんネタまで加わっているもんだから、お祭り騒ぎとしか言えない状況ですね。 いやー、わっしょい、わっしょいで、実に楽しそうで羨ましい。 思う存分、メディア製の正義の鉄槌を下してください。

再生医療提灯記事も花盛りである。 iPS 細胞治療は確かに素晴らしい、革新的な医療技術である。 私も将来お世話になる確率が高いから、ぜひ製品化には成功してほしい。 でもね、ちょっと皆さん冷静に。 あれがうまくいったからって、例えば今の日本と米国の研究開発や医療市場の位置付けがひっくり返ることはないのですよ。 iPS ネタは、あくまで、開発タマの一つ (one of them) なのよ。 それ以外にも、新薬のシーズは文字どおり五万とあるのよ。 他のすべての新薬開発戦線での戦況をちゃんとじっくり見てくださいよ。 目をそらさないで、さ。 

今のメディアの再生医療のバカ騒ぎは、まるで終戦間際に 「硫黄島で米軍に一泡吹かせれば、戦況はひっくり返るぞ」 と叫んでいた大本営発表垂れ流しのかつてのA新聞のようである。

私は、iPS 研究開発グループの諸先生方を最近気の毒に思うのだ。 山中先生は実に謙虚に 「日本という国が研究支援してくださってありがたい」 とおっしゃっておられる。 しかし、iPS 研究をめぐるいろいろな周辺の支援組織・メカニズムが重厚になり続けると (つまり iPS でメシを食っている人々が増え続けると)、常につきまとうリスクは、 iPS 研究開発プロジェクトの 「戦艦大和化」 である。

不沈戦艦と呼ばれた大和。 計画された当時、すなわち戦艦と戦艦が遠くから大砲を打ち合って相手の船を沈める大艦巨砲主義時代には、「大和の主砲は46センチ砲だぜ。 すげぇだろ。 鬼畜米英の戦艦の大砲は届かない距離から大和の弾は届くぞ。 つまり無敵だぞ」 ってなもんだった。 お気楽そのもの。 が、すでに大和を建造中に航空機決戦の時代に突入。 大砲の弾よりもずっと遠くまで正確に届く (笑) 飛行機によって大艦巨砲主義はまったく無意味になってしまった。 大和は、結局、大和ホテルと呼ばれる時代遅れの無用の長物 (燃料だけはよく喰う) に。 ほとんど戦果無きまま沈められ、今は沖縄沖でお魚さんの住処になっていますね。 

医薬品の研究開発の成功には、そのネタ (シーズ、ターゲット) の質だけじゃなくて、それを誰が、いつ、どのように開発するかが同じくらい重要なのである。 「どのように」 には、開発場所 (国、地域)、開発の経路 (paths) が含まれる。 で、現在のグローバル資本主義社会において勝利者になるのは、たいてい、「好きな時に、好きなヤツと一緒に、好きなところで、好きなように」 研究開発し、製品化したヤツである。

いかに日本の iPS 開発グループが優秀であったとしても、「今から5年以内に、日本人研究者と組んで、日本の研究の仕組みや制度に従って、日本で臨床開発を先行して、日本の病院で治験して、日本の国威があがって、かつ、将来の日本の税収が増えるような製品化を目指して、開発してくれ。 予算ならそれなりにつけてやるから、研究所や大学で政府系の人たちの雇用や人材育成もよろしくね」 なんて重い縛りを課されたら、そりゃ苦しい。 背中に米俵二つ背負って100メートル走でボルトと競争せよ、と言われているようなもんだ。 重厚長大戦艦大和そのもの。 

そして、国境も人種もなく、金、才能、顧客兼資源(つまり患者)、市場を求めて、成層圏をパタパタと自由に飛び回っているプレイヤーたち、そして、そのプレイヤーたちが支援する人たち・国々との勝負は、ますます不利になる。 だって世界は今こういう風になっているんだもの (再掲。 お気に入りのポンチ絵なんで許してね(笑))。
 

これまで日本が国として一丸となって (いわゆる産官学一体となって) 推進した国家プロジェクトの死屍累々をきちんと思い出そう。 第5世代コンピュータ、シグマ計画、H2ロケット(の商業化) ・・・。

さらに、これまでにも何度も書いてきたが、医薬品の世界だって、これまで何十年にもわたって 「革新的医薬品・医療機器開発〇カ年計画」 だの、「イノベーション○○」だの、「医薬品産業○○ビジョン」 だのをお上が出し続け、何度も何度も研究組織や予算制度を組み替えてきたことを忘れてはなるまい。 これらのプロジェクトや施策は、うまくいったのだろうか? プロジェクトの結果は、いったい誰がどう評価したのだろう? 

でもね、世の中的にはそんなことはどうでもいいんだよね。 なぜだか理由はわからないが、きっと今度はすべてがうまくいくのだ。 きっと今度は勝てるのだ。 そう言っていればメディアも含めてみんながメシが食えるのだから (一部税金で(笑))、それでいいじゃないか。  「今度はきっと、うまくいく。 根拠は、無い!」 - 小野俊介 サル的日記

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歴史は繰り返す。 一匹のサルごときにできることは何もない。 ただ歴史の成り行きを傍観するのみ。


(2019.8.20 追記)
で、2019年夏。 この記事を書いてから6年が経ちました。 どうですか、皆さん。 当時のお上やメディアの鼻息の荒さからすると、今頃のニポンは、iPS に導かれた夢のような研究開発大国、バイオ立国、医薬品輸出大国になりつつあるはずなんだけど。
「下郎が何を言うか。 研究開発は5年やそこらで成果がでるものではないっ!」 って開き直るのかな。 ベンチャーの人たちが聞いたら目を白黒するような開き直りだが、よし、じゃあここは百五歩くらい譲ることにして、 あと5年ほど待ちましょう。 やさしいなぁ、自分。 で、そこで結果が出てなければ、当時の政策立案者の誰がどう言い訳をするのかを楽しみにしよう。