小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

裏リスを褒めない

先週の週末は、昔からの付き合いがあるシンポでプレゼン。 主催者のおぢさん (あちこちで炎上している有名人。 炎上商売してるとしか思えない (笑)) とは政治スタンス、倫理規範・信条がまるで合わない (真逆に近い) のだが、問題視する論点がなぜか似ているので、時々意見交換をするのである。 なぜかというと面白いから。

たとえばニポンの医薬品政策の問題。 私は 「今の医薬品政策があまりに左に (ネオリベの側に) 寄りすぎ」 なので怒っているのだが、主催者のおぢさんは逆に 「今の政策は相変わらず右寄りで保守的だ」 と怒っている気配がある。

怒っているのは一緒なのに、言ってることがまったく逆 (大笑)。

でもさ、それでいいのよ。 考えが違うからこそ、お互いの腹と顔色を読みながら、言葉や媒体をうまく使って、気持ち悪くニマニマと笑いながら意見交換する醍醐味が味わえるのである。 それも長く長く (十数年も) 時間をかけて。

最近、ろくに知りもしないヒトのことを twitter のわずか数十文字で罵倒したり、批判したりするやつらが増えて、とてつもなく気持ちが悪い。 気に入らない意見をスマホの画面で目にしたとたんに瞬間湯沸かし器のようにカーっとなって、twitter に悪口書きまくるのね。 サルの脊髄反射並み。

あんたらサルじゃないんだから、自分と逆の意見を目にしても、まぁ落ち着けよ。 な。 いきなり反応して感情を吐き出すのは見苦しいよ。 そもそも一人一人の人間 (サル) の知恵なんてせいぜいが鼻クソくらいのものなんだから。

人類の知恵が詰まった本を読むとそれがすぐに理解できる。 サル的なヒトなんか、哲学書を読みながら、約3分ごとに、

「ムッキー! なんで 『真理』 がデフレするんだ? ラムジーの余剰説とクワインの引用符解除主義の違いになんか意味があるのか? えっ? ムッキー!!」 (注 1)

(注 1) 真理のデフレ理論って、哲学の世界では最近結構メジャーなのよ。 興味ないかもしれないけど。

・・・ などと怒りを炸裂させているのだが、それを一々 twitter に吐き出そうとは思わん。 バカに見えちゃうし、カッコ悪いから。

気に食わないことについて世間様に何か言いたいときには、せめて 2000 字くらいの文章にして気持ちを表現しようよ。 な。 そのくらいの言葉と論理がないと、その人が何を考えているかなんて伝わるわけがないのよ。 2000字の文章を書くともう一ついいことがある。 それは、文章を書いている間に、怒っている自分自身をニヤニヤと高みから笑うことができるようになること。 その境地に達したら、気に食わんヤツとでもニマニマと笑いながら意見交換ができるようになる。

とにかく、いい年したおっさん・おばさんが twitter でごちゃごちゃ言うな。 いいな。 

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 あ、いかんいかん。 肝心のシンポで話したことを書くのを忘れるところだった。

シンポでは二つの話をしました。 一つは戦艦大和化した iPS の悲劇、もう一つは条件付早期承認とかいう悪乗りスキームの法制化について。

iPSがらみ、まさか週明けにこんなに呆れた笑い話が起きるとはさすがの私も予想してなかった。 文春砲やるなぁ。 あとね皆さん、医薬品業界の東スポと呼ばれる RISFAX の記者さんもほめてあげてくださいね。 覚えているヒトもいると思うが、文春のグラビアページで 「アーン」 していた役人の、勘違いした醜いふるまいを何か月か前に報じていたのは、他ならぬ東スポ、いや、RISFAX の通称 「裏リス」 と呼ばれる記者コラムなのよ。 すごいぞ、裏リス! みんなでほめてあげよう。(注 2) 今後は当面の間、RIS の記者さんが厚労省の取材で理不尽にいぢめられていないか監視してあげることも大切。

(注 2) Kさん、宣伝したのだから、ほれ、小判とかスーツ仕立て券とか ・・・

シンポでは、 iPS が戦艦大和のような扱いを受けること (つまり最後は片道燃料で特攻させられること) を7年も前に予言したサル的なヒトってすごい、と自画自賛したのである (→ iPS が戦艦大和になる日 - 小野俊介 サル的日記)。 山中先生の熱意と人柄、そして 「日本への恩返し」 といった言葉を聞くたびに、 「お気の毒に。 ニポンのお上なんか見捨てて、今からでもフリードマン流のリバタリアンアメリカ政府かもしれないし、欧米企業かもしれない) と組めばいいのに」 と思うのである。 こと新薬開発に関しては、好きなモノを、好きなヤツと組んで、好きなところで、好きな時に(できるだけ早く)、好きなように開発するヤツが勝つに決まっているのだから。 日本人の患者もその方が happy だと思うよ。 

 

もう一つの条件付早期承認とかいう制度についてだが、Nature や Science の人たちや世界の薬効評価科学の良識派の人たちは、

「他の国ならともかく、あのニポンにだけはそんなテキトーな承認制度を作らせてはいけない。 あいつら、自分たちの異常な国民性や黒歴史を忘れたのか?」

と呆れていると思います。 私も呆れています。 

ニポン人って、効きもしないほぼ日本だけのお薬 (脳代謝改善賦活薬 (笑) と称する薬剤やあの抗がん剤的なヤツね) を盛大に再評価したつい最近のできごとをすっかり忘れてしまったのだろうか。 薬害スキャンダルを盛大に何度も何度も引き起こした黒歴史もある。

さらに危ないのが、絶対に 「間違えてました」 って自分からは言わないお役所・役人の異常な特性。 最近ではさらに危なくなっていて、間違いがなんか起きたら資料をシュレッダーにかけてなかったことにしてしまうらしいな。 そんな異常な国で 「効いてるかなって思って仮に承認はしたんですけどね、判断が誤ってました」 なんて素直に頭を下げて、仮承認を否定する文化が定着するわけがなかろうが。 再審査と称する再チェックが形骸化していてまったく機能していないことも日本の業界人なら 100% 知っている。

Nature の批判で有名になった再生医療等製品の仮承認の審査資料を見ていたら、「ああ、ここまで無茶してテキトーに 「仮」 承認しているのか」 と眩暈がしましたよ。 まともな PMDA の審査官は心の中で泣いてるんじゃなかろうか。 気の毒でならぬ。

こんな制度、ニポンでは超危険である。 この制度が今後どのように運用されていくか厳しい監視が必要です。 ポイントは、今後の PMDA が 『いやー、この品目の承認に関しては ○○ の理由で判断を間違えました。 すみません。 で、こう判断し直しました』 と胸をはって言い訳できる 「まともな組織」 になれるかどうかである。 それができなければ、次の薬害はこの制度から起きる。 と予言しておこう。

ちなみに Nature に対する現在のニポン政府の言い訳は、世界にリスクを生み出している張本人が開き直って 「オレは悪くない」 と言っているだけである。 世界のまともな臨床開発の畑に毒を撒いて、畑を耕作不能にしている張本人がニポンなのだという自覚がまったくない。 情けない。 

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長くなったのでこの辺で。 そういえばこの前、大学の構内でハクビシンを見かけてちょっと幸せな気分になったよ。 どうでもいいけど。 風邪ひかないようにがんばりましょう。 じゃまたね。