小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

やたらとマンセーしない

ちょっと前に衝撃を受けたニュース。 伊集院もラジオで紹介してたし、大笑いした読者の皆さんも多かろう。

ヒジキ 「鉄分の王様」 陥落 食品成分表、5年ぶり改訂
2015/12/25 5:00 (日経)

 文部科学省は25日、日ごろ口にする食品の栄養成分をまとめた日本食品標準成分表の改訂版を公表した。 製造に使う釜の多くが鉄製からステンレス製に代わったことで、ヒジキに含まれる鉄分が大幅に減った。

 表示が大きく変わったのが 「鉄分の王様」 とも呼ばれるヒジキ。 100グラムあたり 55ミリグラムあった鉄分が 6.2ミリグラムと、9分の1になった。 ステンレス製の釜が普及し、以前より鉄分が少ないものが流通していることが理由。 切り干し大根もステンレス製包丁の普及を受け、鉄分が 9.7ミリグラムから 3.1ミリグラムに減った。

・・・ 多くの日本人が薄々気付いてはいたのである。 鉄鍋ってなんか全体が鉄っぽいってこと。 そして今般、鉄鍋のその鉄っぽさが、ついに現代科学によって立証されたのである。 科学の進歩って本当に目を見張るものがある。 栄養学、万歳 (マンセー) !

これまで何千万人の日本人が、「貧血気味の女性にはヒジキがいいのよ」 と優しいお母さんが炊いてくれたヒジキご飯を渋々食べたことだろう。 その中には、ステンレス製の釜で作られたものもたくさんあったってことか。 ふふふ。

文科省さん。 この発表の仕方、どこか変なんじゃないの? え?」 と苦言の一つも呈したくなる方もおられよう。 しかし、医療・医薬品の業界人にとってはこのくらいのちゃぶ台返しや屁理屈なんて日常茶飯事だから、文科省さんを怒る気にもならないよね。 例えば、ついこの前まで 「コレステロール高い人は卵食べちゃダメよ」 なんて栄養指導してたのに、実は関係ないことが急に一般常識化したり、とか、再評価で抗痴呆薬の有効性が示されなかったのは医療環境が変わったからだと説明したり、とか、禁忌だったお薬が逆に治療薬として承認されたり、とかね。

医学・薬学の範疇にあるほとんどの常識なんてのはそんなものだ。 良心的な職業人ならば、そんな常識や、自分のやっている○○学と称するものを 「オレのやっていることは正しいから、世の中の人はオレを信じるべきである」 なんて世間様に向かって言えるわけもないのだが、最近、ある法学の教科書に、ある疫学者が書いた次のような趣旨の記述があって、目が点になった。

多数の人(集団)から得られた観察結果と個別の観察データとを区別する言説は、判決でも見かけるのだが、科学に対する誤った思い込みである。 集団の平均値と個人の区別は、実際の科学の営みと相容れない間違った言説であり、単に集団と個という一見対立概念に見える言葉を表面上すくい取った間違いに過ぎないことが分かる。

あはは。 なんという不遜で薄っぺらい 疫学マンセー(笑) 本当に失礼な法曹界・法律家 dis である。

この上から目線の疫学者さんって、ポパーをちゃんと引用してるのに、自分の主張の仕方が似非科学そのものになってしまっている気がしますよ。 編集さんが指摘してあげないといけない。 

このセンセイ、他の部分では、学者が 「集団と個の問題って難しいね」 と何千年も悩んでいることをしっかり書いているのに、どうして 「法曹界よ、あなたたちは間違えている」 とその部分だけはあっさり断言しちゃうのだろう。 不思議である。 学者だけじゃない。 集団と個の狭間の現場にいる企業の社員や当局の審査官も、ずーっと悩み続けている。 でもね、良識のある学者や会社員や審査官は、「集団と個を区別するなんて間違えている!」 なんてことを、ろくに知りもしない他の実践分野や学問領域の人たちに軽々しく言ったりはしないのよ。(注 1) 

(注 1) 常々このセンセイとは逆のスタンスをとる、頭の悪いサル的なヒトだって 「法律家は間違えている」 だの 「哲学者は誤っている」 だのといったナイーブなことを法学者や哲学者に向かって言うことはないぞ。

お門違いの法学の教科書で、疫学マンセー統計学マンセー! 的な主張を繰り広げていることが気持ち悪い。 疫学マンセーしたければ、疫学会、統計学会や、あるいは、ほれ、れぎゅらとりーさいえんすがっかいで思う存分にお説を展開すればよい。 たぶん 「どうして当たり前のことを力説してるの?」 と不思議に思われるだけだろうけど。

あるいは逆に、社会選択論、厚生経済学、あるいは倫理のプロの前でお説を唱えてみるとよかろう。 たぶん 「医学の人たちも、ちゃんと他の学問を勉強したほうが良いと思いますよ」 って呆れられるだろうけど。

法曹界・法律家の皆さんには、医学・薬学界を代表して (笑) このサルが謝っておこう。 ごめんなさい。 この疫学者さんって、医学・疫学のことはなんでも知っているエライ人なのだろうけど、法理学や法解釈や法哲学や法論理を踏まえた議論はしたことがないのだと思います。 行政学行政法のことも知らない臭いがする。 倫理に触れずに、社会の営みを 「間違えている」 と主張するのも変 (「とんでも系」 の主張かと疑われてしまう危険も)。 また、新薬の認可の説明をしておきながら、「臨床治験」 なんて怪しい言葉を平然と使っていて、プロとしてはちょっと恥ずかしい。 だから勘弁してあげてください。

法曹界の皆さん、この手の疫学マンセーのセンセイは嫌いになってもかまわないが、統計学・疫学のことは嫌いにならないでほしい。 統計学・疫学ってとても役に立つ奥深い学問だし、日本の統計家・疫学者の中には、もっと思慮深い人たちがたくさんいますので (いるはずですので)。

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三連休、海街 diary の最新刊を読みながら幸せな気分に。

すずちゃんもかわいいんだけど、どっちかというとアリスちゃんの方とお近づきになりたいと思うのも、伊集院光と同じである。 なんのこっちゃよくわからんが。