小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

いきなり登場しない

お休みの月曜日の朝。 布団の中で、目が覚めたような覚めないような幸せな気分に浸る。 時間が分からないので、ぼーっとした頭でラジオをつけると、TBSの 「伊集院光とラジオと」。 そうか、今10時頃なのだな、と放送内容で分かる。

今日のゲストはジブリ鈴木敏夫プロデューサー。 伊集院とのやり取りがなんとも楽しくて、大笑い。 あの名作、トトロの制作中の内輪話である。

鈴木: 「トトロなんか、最初、宮崎(駿監督)が描いていた、雨の森のバス停でトトロと女の子が立っている絵1枚だけしかなかったんですよ。 ストーリーを少しは宮崎が考えてるんだろうと思ったら、何も考えて無い(大笑)」

伊集院: 「原作はマンガ一枚なのね (笑)」

鈴木: 「ストーリーの最初の案もひどいんですよ。 映画の冒頭でトトロが出てきて、いきなりメイとサツキと庭先で遊んでるの (大笑) でね、『どう?』 って僕に聞くから、『これ ・・・ ちがうんじゃないすかね?』 と」

伊集院: 「『となりのトトロ』 じゃなくて 『その場にトトロ』 ですね、それ」

鈴木: 「『あのー、フツーは、こういうヤツらって映画の真ん中らへんに登場しませんか?』 と。 そう言ったら、宮崎が 『どうして?』 って聞くから、こっちも思い付きで 『ほら、 あのETだって、映画の最初は体の一部だけが出てきて、真ん中らへんで全身が出てくる ぢゃないですか』 と」

伊集院: 「うんうん」 

鈴木: 「そしたら、宮崎は 『わかった! そうだよな!』 って言って、みんなの目の前で一枚の大きな紙に線を引いて、真ん中らへんに トトロ登場! って書いて ・・・」

大笑い。 ニポン名作映画の陰にハリウッド超大作あり。 そうか、それで映画の最初のほうでちっちゃな透明なチビトトロたちが登場したのね。

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価格の高い抗がん剤が登場したおかげで、最近のメディアでは 「国民皆保険の危機」 なる言葉が躍っている。 でも、こうした言葉遣いってなんだか間抜けで、切迫感が無い。 理由は、ほら、ここでもいつも私が申し上げている 「言葉の意味の不在」 だ。 医薬品の世界の言葉遣いって、ほんと意味不明。

国民皆保険って、あんた、いったい何を指しているのか、ってこと。

この言葉って、たぶん、たとえば次のどれか (あるいはそれらの組み合わせ) を意味・ニュアンス・強調すべき点として指すような気がするのだが、この言葉を発している人たちがそのどれを指しているのかがさっぱり分からないことが多いのだ。 発話している自分たち自身も自分の意図を理解していないのではないか、とさえ思えることがある。

(意味0) 先進国の医療制度の象徴として名前が出ているだけ。 「国民皆保険」 という語を 「医療制度」 「保険制度」 などという漠然とした言葉で置き換えても一切実害ない(笑)

(意味1) 国民全員がとにかく医療保険の加入者・受益者になりうる状態。 100円分の医療 (たとえばビタミンC錠10粒とか(笑)) しかカバーされなくても皆保険ね。 それでよければ、たぶん、日本の医療保険制度はこの先数百年は安泰だと思うぞ。

(意味1') 健康リスクに関する保険のプールに一応全国民を入れること。 あ、誤解しないでね、そのことは全国民をいざというときすべて救うということぢゃないから。 現実に救われるのはお金持ちだけかも。 逆に貧乏人だけが救われてもかまわないんだけど。

(意味1'') 自腹の支払い (out-of-pocket payment) が上限7万円/月程度以内に収まる制度のこと。

(意味2) お上が強制的に (法律で) 国民を保険制度に組み込むこと。 「加入しない奴は懲役刑」 でも仕方ないよね。 あー怖い。

(意味3) 全国民の納税義務の結果である税金をふんだんに注ぎ込むことを保証されたプロジェクトのこと。

(意味3') 保険制度の経営・運営上のリスクをとにかく日本国民全員に負わせること。

(意味4) 医療保険の中で、現在技術的に入手可能なすべての治療手技や薬剤・機器へのアクセスが保証されること。 「技術的に入手可能なものがみんな手に入る」 って、相当に現実離れした夢のような世界だけど、分かってんのかな。 たとえばパプアニューギニアの住民が儀式のときに使っている秘薬 (相当に効くらしい) とか、買い付けにいくのは相当に大変 だよね。 技術的には入手可能だけど。

(意味5) 医療保険の中で、「常識人である私」 が適切と信じる手技や薬剤・機器へのアクセスが保証されること。 高価すぎる薬や美容目的の薬なんてものは 「私の常識」が許さないからね ・・・ ところで 「常識人の私」 って一体誰なんだ?

(意味6) 医療サービスの提供者たる医療機関や製薬企業が米国や欧州での商売に近い額を支払ってもらえることをちゃんと保証する巨大な需要生成システム。

(意味7) 医師・看護師・薬剤師をはじめとする結構な数の日本人の雇用政策

(意味7’) 医師・看護師・薬剤師をはじめとする (政治的に) 小うるさい医療技術者集団に言うことをきかせるための国家の統制手段

(意味8) ・・・

他にもありそうな気がするがこのあたりにしておこう。 どうでしょうか、その辺の業界紙に載っているオピニオンリーダーの 「高額医薬品と国民皆保険」 に関するご意見って、上のどの意味の話をしているのかが分かりますか? たぶん、ほとんど分からないでしょ?  

「薬が効く」 という言葉の意味すら放置して平気な顔をしている我々だもの。 国民皆保険についての議論がかみ合うことなんてありえないと思うよ。 結局いつものように、国会議員や業界代表や患者代表やお役人や学者やらが、互いに相手の(他人の)言ってることなどまったく理解できぬまま、議論が終わるのよ。 みんな音声は発するし(ワンコも吠えるよね)、書面にインクの染みは残す (字が書けるゾウさんがどこかの動物園にいるらしいね) けど、誰にも意味は伝わらない。

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評判になっていた 「健康で文化的な最低限度の生活 (柏木ハルコ)」。 東京都職員である生活保護担当のケースワーカーの若者のマンガ。 とても良いよ。 おすすめです。

第二巻で、受給者のおじさんが実は 「漢字が読めない」 のを隠していたことを若いねーちゃんが見抜けなかった話。 涙が止まらず。