小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

バカにならない

世の中は、いや学術誌ビジネスは、どこまでバカになっていくのだろう。

毎朝、届いた大量のジャンクメールをゴミ箱に入れるところから仕事を始める方は多いと思う。 私のところにも数十通のジャンクメールが毎日届く。 「ウガンダ銀行にある私の資産 35億円のうち半分をあなたに送金するから、至急連絡してくれ」 といった類の処理はむしろ楽しい。 「ほほー、そうかそうか。 政敵をすぐに銃殺してしまう国は大変じゃのぉ」 などとニヤニヤしたりして。 でも私の商売の関係上、最も多く届くのは 「うちのジャーナル (学術誌) に投稿してくれ」 系のメールである。

最近いろいろな問題が報じられているから知っている人も多いと思うが、一応説明しておく。 大学の研究成果は学術誌に掲載されて初めて日の目を見る。 ホントかウソか分からんことを言いだす科学者がいるから、査読という第三者チェックは必須。 が、学術誌のレベルはピンからキリまである。 正確に言うと、「キリ」 の方は完全に 「学術誌もどき」。 査読は形だけ、オンライン掲載(だから必然的に誰でも読める open-access)して、掲載料の数十万円を著者から頂く、というビジネスである。

で、その手の 「学術誌もどき」 からのメールの量が半端ない。 「学術誌もどき」 のタイトル (名前) はビミョーで、老舗の有名どころを微妙に真似していることが多い。 自分が実際に投稿中の雑誌と似たタイトルだったりすることもあるので、メールは一応開けてみないといけなかったりする。 でも、たいていその手のメールは 「Greetings !」 と、まともな人間は絶対に使わないビックリマーク (!) から始まるので、その瞬間にゴミ箱行き。 でも、そんなジャンクメールを一日に何十通も捨てるだけで十分イライラする。

グーグルメールでは、それらはすべて完璧に 「迷惑メール」 に分類されている。 さすがはグーグル。 でも時々本物の学術誌 (笑) からのメールが 「迷惑メール」 に行くこともあり、油断できぬ。

かくして学術誌の世界の劣化 (いや、学術誌をビジネスととらえ、それでメシが食える人たちからすると、「劣化」 じゃなくて 「進化」 か) は絶賛進行中なのである。 とともに、「学術誌もどき」 からのジャンクメール自体も着実に劣化 (いや、進化) している。 そしてついには、こんなレベルに到達 (固有名詞は変えてあります)。

Dear Dr. Shunsuke Ono,

Good Morning…..! I hope your morning is as bright as your smile!

Well, in order to apply ISSN we are in need of one Research Article/Case report. Is it possible for you to support us with your eminent work? In fact, we are offering Best Partial Waiver for the first 5 articles which are received foremost.

Your trust in my efforts is the highest form of our motivation, I believe in you that your eminent manuscript brings out the best citation to our Journal.

Predict to hear your optimistic response.

Regards,
Jennifer Lopez
XXXXX Science & XXXXX Research

(以下ほぼ直訳)
オノシュンスケ博士へ

おはよう! あんたのステキな笑顔と同じくらい輝いている朝だよね、きっと!

えっとね、うちの学術誌の ISSNコードを取るために論文が必要なのよ、アタシたち。 あんたの仕事ぶりって立派だから、手伝ってもらえるかなぁ? 早く投稿してくれれば、掲載料を安くしてあげるからさ (ちょっとだけどね)。

アタシを信じて。 そしたらアタシもやる気が出るから。 あんたの立派な論文が載ったら、きっとみんながアタシたちの学術誌を引用してくれること間違いなし。

分かってるわよ、あんたがイイ返事をくれるって。

じゃね。

ジェニファー ロペス

・・・

・・・ おいっ。 いいかげんにせーよ (-"-;)

サル的なヒトの笑顔が松潤なみにステキなことを、なぜ差出人が知っているのかも分からないし、差出人の名前がなぜ青と赤で色づけられているのかも分からない。 すべてが分からない。

ちなみにこの 「学術誌(もどき)」 の出版社は、その手の学術誌ビジネスではよく目にするところである。 ちょっと前まで、この手の疑わしいジャーナル・出版社を一覧表にしたサイト (Beall's list) があって重宝していたのだが、今は更新を止めてしまっている。 困ったことである。 訴えられるリスクを承知で、しかし、誰か復活してくれないものかと思う。

というわけで、今日も私はジャンクメールのゴミ箱ポイに追われているのである。

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私の敬愛する山口画伯が日々のよしなしごとをつづる 「すずしろ日記」、第3巻が出ましたよ。 チョーおすすめ。 買ってチビチビと味わうように読むべし。 一気読みはもったいない。

すゞしろ日記 参

すゞしろ日記 参

山口先生、超精密画法での歴史絵からワクワク科学フィクション画まで、一度見たら 「おおっ、このヒトはすごいぞ!」 と衝撃を受けること間違いなしの画家である。 絵画がすごいだけでなく、文章も面白い。 2013年には 『ヘンな日本美術史』で第12回小林秀雄賞を受賞してます。

世界的に有名な大画伯とサル的な自分を比較するのも失礼な話だが、なんかギャグの感覚がセンセーとは近い気がするのである。 あと、ムハハと笑う嫁さんの顔の形が共通している気も。 どこかで一度直接確認してみたいのだが、出版会の方、お目にかかる機会ないですかね? 山口先生ではなく、あの奥さんに・・・

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昔の上司だった伊藤哲夫さん (前 大阪医薬品協会理事長) が亡くなられたとの報を聴く。

やたらとエラそうで威張りん坊が多いお役人の中で、伊藤先輩は温厚で、後輩・部下にやさしく丁寧に仕事のやり方を教えてくれたのである。 僕が若いころ、「あまりにくだらないので、国会答弁がらみのロジなんぞやりたくありません!」 とごねていたときにも、「まぁそう言わずに。 確かにくだらないけど(笑)、面白い経験なんだから行ってみなさいよ、国会。 観光でもするつもりで」 と、どこに公用車を停めてもらって、どこでバッジを借りて ・・・ なんていう手順書を紙に書いて教えてくれたっけ。 懐かしく思い出す。

伊藤さん。 お世話になりました。 ありがとうございました。 さようなら。 寂しいです。