小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

読んでもらえない論文

医薬品れぎゅらとりーさいえんすだとか、なんとか科学だとか、科学ばやりの今日この頃だが、私の研究分野(医薬品産業論と規制論。例えば、ドラッグラグ(注)の発生メカニズムに関する研究)に関して言えば、流行の恩恵を受けているという感覚もなく、また、チヤホヤされているという感覚もまったくない。 チヤホヤどころか「月の砂漠を、独り歩く」といった風情の日々である。

(注:ドラッグラグとは、欧米で発売されている新薬が、日本ではなかなか発売されないこと。)

まともに学問をやろうと思ったら、たいてい、そんなもんだと腹をくくっている。 降って湧いたようなメシの種としての「科学」は、そのうち地金が現れる。

学術誌に日本の医薬品産業や医薬品規制の論文を書いても、読者からの反応は薄い。 特に英語の論文。 英語の論文について、日本人から「あの論文、面白い結果ですね」と言われたことは一度もない。 むろん私の論文がダメダメで、面白くない可能性も高いのだが、その割には、日本人から「あの論文、ダメだね」「あの分析手法、ちょっと変じゃないの?」などとケチをつけられたことも一度もない。

外人からは、たまにコメントをもらったりする。 すごく嬉しい。 でも異国ネタ(つまり日本ネタ)に興味を示す外人さんの数は、いかんせん限られている。

鹿鳴館時代以来(?)、日本の学者の世界では、欧米の英文誌に、英語で(昔は独語も強かったのかな)論文をたくさん出すことがステイタスとされている。 今でもそうである。 業績をまとめる際には、必ず、「英文○報、和文×報」というように、英語の論文数をきちんと数え上げることになっている。

欧米誌に英語で論文を書かないとちゃんとした学者扱いしてもらえない。 でも、英語で論文を書くと、読んでもらいたいと思うターゲット(日本の業界人)には内容が届かない。 うーむ。

日本語で総説(解説)といわれるものを書くと、少し(数人程度)反応してくれる人が出てくる。 嬉しい。 でも、どうも話を聞くと、きちんと内容を読んでもらっていることはあまりなくて、たぶん雑誌の目次を見て、「お、小野さん何か書いたんだ」くらいの記憶だったりする。 うーむ。

この業界、他人の主張をちゃんと読んだり、聴いたりしてくれるやさしいヒトって、あまりいない。 一方、日本中の業界人が自分の主張を聞いていると勘違いした自称 big shot (業界の大物)は、たくさんいる。 「だからさぁ、俺があちこちで説明しているようにだな、・・・」と熱く語ったり、「こないだの DIAでの私の講演を聴いてればわかると思うけどさ、・・・」とか。 誰も聴いてなかったりする(笑)。 講演を聴いていたとしても、話の内容なんぞ会場を一歩出たとたんに忘れてしまう人が99.999%。 だいたい、皆さんの人生で、「内容」を覚えている他人の講演なんて、ありますか? 私は、残念ながら、Steve Jobs の有名なアレ一つだけだ。

さて、時に「小野さん、何でもいいから、好きなこと書いて。 いいのいいの、何でもいいのよ」という有難いような、有難くないような、複雑な気分になる原稿の依頼を受けることもある。 そんなときは、今、このブログのネタにしているような何の役にも立たないネタをツラツラと書いて、こんなものを日本が世界に誇る出版文化の歴史の一部としてよいのか、と自問自答することもある。 (JAPICさん、すみませんでした。)

例えば「私はiPadがほしいのであろうか」 JAPIC NEWS 2010年7月号
http://www.japic.or.jp/service/whats_new/japicnews/pdf/JAPICNEWS10-07.pdf

しかし、である。 こういう原稿に限って、知的レベルの高い医薬品業界のみなさんからの反応が素晴らしく良いのである。

「そうなんだよ、若者が携帯に見入ってる姿って、宗教儀式っぽいと僕も思ってたんだ」
「パチンコ大好き!」
「サルの尾てい骨って素敵・・」
「貧乏人が Apple 製品の話などするな!」・・・

賛否両論。 議論百出。 百家争鳴。 付和雷同。 激辛冷麺。 私は生まれて初めて、「書いた内容って、本当に読者に伝わるんだ・・・」と認識したのである。

で、このブログである。

おかげさまで、ブログ開設からわずか10日ほどで、読者数(延べ人数ではなく、個々人で)が200名を超えた。 アクセス数はもう少しで1000件に届く。 読後の反応もいろんな人たちからちゃんと返ってくる。 なんと、内容もきちんと読んでもらえている気配がある。 おそろしい・・・

これって、世の中一般のブログの世界では全然大したことのない、微々たるアクセス数なんだろうけど、私にしてみれば、とてつもない、驚愕の数である。 これまで15年ほど、医薬品の規制などについてシコシコ論文書きしてきた学者の感覚としては。 実に情けない話でもあるが、推察するに、私のこれまで出してきた数十報の英文論文の総読者数よりも、この10日ほどのブログ読者数の方が多いかもしれない(泣き笑い)。

はいはい、わかってますよ、わかってますってば(笑)。 勘違いなんかしてません。 これまでどおり、コツコツ論文を書きますよ、私は。 だって論文書くのが好きなんだもん。 好きで書いているわけで。 研究もこれまでどおり。 好きで研究やっているわけなので。 教育もこれまでどおり楽しくやります。

でも、このブログというツールは、ありがたーく、今後ますます活用させて頂きます。

ありきたりの業界関係者の視点とは確実に違う視点から(サル的な視点の医薬品コンサルなんてめったにいませんよ)、面白い、刺激的な記事を書いていきますので、まわりの皆さんにぜひ宣伝してください。 皆さんからのコメントもお待ちしていますよ。