小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

学位取得、おめでとう!

毎年のことだが、この時期、寒くて耳にしもやけができる。 ビジネスマンのおっさんたちは基本的に耳を無防備にさらけ出しているから、女性や長髪の若者に比べて不利なのである。 チビリアンコントロールは相変わらずうまくいかないし ・・・ などと呟いてみるわけだが、皆さんお元気だろうか。

この頃、書き物仕事がちょっと多くて、ブログにまで手が回らない状況である。 ごめんなさいね。 いや、本当は仕事で書いたことをそのまま転用・コピペして、さもブログ用の新作ネタのような顔をして、「ホレホレ、遠慮せずにお読みなはれ。 笑いなはれ。 泣きなはれ」 と開き直れば良いのだろうと思う。 が、例えばここ数日学生向けに書いたのが、「初心者向けの回帰分析の取扱い説明書 ルービンの因果関係 熱血血風探求編」 なんて意味不明な研究者向けの実用マニュアルだったりするので、さすがにこれをそのままブログにコピペするわけにはいかないのである。

いや、もちろん読者の中には、CIA (あの CIA ではない。 Conditional Independence Assumption のこと) だの、除外制約だの、OVB (Omitted Variable Bias) だのという言葉を聞くだけでニヤニヤしてしまう変わりモノ理屈好きなヒトもおられようから、そのうちそうしたネタも分かり易く解説しますね。 気が向けば。

あ、そうだ、つい最近 「医薬ジャーナル」 誌に 「今の臨床研究規制の動きってなんか変だよね。 いつものことではあるけど ・・・ 」 という感じの総説も書いたから、興味のある方はどうぞお読みください。 (これね → 4.臨床研究規制の背景と問題:医薬ジャーナル社, Iyaku(Medicine and Drug)Journal Co., Ltd.

*****

先週、私の講座の社会人学生 (研究生) の一人、Y田さん (便宜上Y田さんBとする) が博士の学位取得。 その少し前には、別の社会人学生のY田さん(Y田さんA)が博士を授与されました。 本当におめでとうございます。 指導教員としてこれほど嬉しいことはない。

年齢順にちょっとだけ紹介します。

Y田さんAは、私よりも年上のおぢさんで、ベテラン業界人。 もう長い付き合いなのである。 学生時代に農家でスイカ運びのアルバイトをして、おばちゃんから大金を貰って、その金でバイクを買ったことまで知っている。 現在は某外資企業でご活躍中。 研究テーマは 「新薬って販売開始後に結構ドキドキするような副作用が出て大騒ぎになるけど、それって予測できるのか? 防ぐことってできるのかな?」 というもの。 業界的には王道のトピックですね。

Y田さんAの書いた論文、医薬品業界人がふだん 「業界の常識」 で済ませているところをきちんとデータで論証しているので、興味のある人は読んでみてね。 著者たち自身がこう言うのもなんだが、論旨明快で分かり易いから、ご安心を。 「ドラッグラグが長い薬は、とても安全で素晴らしい。 なんてったって、日本人の代わりに欧米人さんがバッタバッタと副作用で倒れてくれているからね」 という日本人安全性タダ乗り (free rider) 仮説を支持した結果でもある。

Toru Yamada, Makiko Kusama, Yuka Hirai, Frank Arnold, Yuichi Sugiyama, Shunsuke Ono. Analysis of pharmaceutical safety-related regulatory actions in Japan: do tradeoffs exist between safer drugs and launch delay? The Annals of Pharmacotherapy 2010; 44: 1976-1985.

Toru Yamada, Yuka Watanabe, Makiko Kusama, Yuichi Sugiyama, Shunsuke Ono. Factors associated with spontaneous reporting of adverse drug reactions in Japan. Pharmacoepidemiology and Drug Safety 2013; 22(5): 468-476.

一方のY田さんBは、年齢的にはピチピチの中堅。 某内資企業でご活躍中。 研究テーマは 「新薬の承認審査の途中で効能・効果の案が右往左往して変わってしまうことが多いけど、それはなぜだろう? 誰がどう影響を与えているのだろう?」 ってな感じ。 

Y田さんBって、そもそもの目の付け所が実に素晴らしいのだ。 背景にある問題意識は、交渉による決定が不確実性下で行われる場合のゲーム理論的予測が、お薬の承認審査の世界にも当てはまるのかな? というもの。 業界人が承認審査を語ると、大抵は、業界紙が書きそうな、当局や審査担当者の手垢のついたエピソードレベルで思考停止に陥ってしまうことが多いのだけど、Y田さんBはそれを良しとせず、大胆な仮説をいろいろとデータで検証しようと試みたのである。

Masafumi Yokota, Makiko Kusama, Yuichi Sugiyama, Shunsuke Ono. Analysis of labeling decisions on therapeutic indication during new drug reviews in Japan. Clinical Pharmacology and Therapeutics 2011; 90, 432-441.

Masahumi Yokota, Makiko Kusama, Norio Matsuki, Shunsuke Ono. Different contributions of internal reviewers and external experts to labeling decisions on therapeutic indications in new drug reviews in Japan. Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics 2013; 38: 456-461.

Y田さんA、Bともに、本講座ができた当初から (時に理不尽な) 苦楽を共にしてきた私の戦友でもあり、彼らの卒業を淋しく思う気持ちもある。 本講座で真摯に学問に取り組まれた両氏の博士号取得に至るまでの道のりについては、私ももっといろいろと書きたいこと、いや書くべきことがあるし、また、その部分こそが 「大学院に入って、学位を目指したいんだけど、私にもできるかな?」 と考えておられる読者にとっては知りたいところだと思うので、また別の機会に詳しく書きます。(注 1) 待っててね。

(注 1) Y田さんA、Bへ(業務連絡): 社会生活及び家庭生活に支障をきたすような変なことは決して書きませんのでご安心ください。

何はともあれ、博士号取得、おめでとう!

教員の幸せは、結局のところ、学生を無事に社会に送り出したこの喜びに尽きるとしみじみ思う。