小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

医薬品開発がらみのシンポがつまらない

最近、業界の友人の数人が異口同音に 「最近の医薬品開発に関係する集会・シンポジウムや講演会と称するものって面白くない。 つまらない」 と嘆くのを耳にした。 嘆いているのは皆さんのお仲間の業界人であって私ではないのだから、勝手に怒らないように(笑)。 私は、よっぽどの理由が無い限り (「話をしてよ」 と誘われない限り) ここ7、8年間くらいその手の集会にはまったく顔を出していないので最近の集会の雰囲気はわからないのだが、プログラムを見る限り、そりゃそうだろうなとは思う。 業界の皆さんが長い年月をかけて、自分たち自身でつまらなくしてきたのだから、仕方ないのよ。

何よりも、ここ二十年くらい、アジェンダのトーンが本質的にまったく何も変わらないのがすさまじい。

  • 「でかい欧米の企業はこういう風にグローバル開発してますよ。 進化の遅れた日本人の皆さんは真似しろよ」
  • 「欧米の治験の仕方はこうだから、日本人も真似しなきゃだめだよ」

といった 「外資系企業の仕事のやり方と考え方」の布教と洗脳情報提供と教育。

  • 「今の当局の担当者の考え方を民間の皆さんに教えてあげる。 ありがたいと思いなさい。 学びなさい」
  • 「最近出たガイドラインの内容を教えてあげるから、学びなさい。 従いなさい」

といった 「規制当局の仕事のやり方と考え方」 の布教と洗脳情報提供と教育。

  • 「今の規制当局や業界の空気を読んで、甘い汁を最大限に吸う方法」

といった 「医学研究者・研究施設の効率的な世過ぎ術、世渡り術」 の布教と洗脳情報提供と教育。

トピックには iPSだの、risk-based ホニャララだのといった真新しそうな材料が顔を出すが、その料理法に何か新しいこと・面白いこと・物議を醸しそうなことを生み出す匂いがまったくしない。 学問の匂いはしないし、科学の匂いもしない。 自由闊達な議論なんてどこにも無い。 「そのガイドライン、内容が論理的に変ですよ」 なんて発言すると、会場からつまみ出されかねない。 強く匂うのは、押しつけがましい、淀んだ予定調和だけ。

アジェンダの内容の問題だけではなかろう。 登壇する講演者やシンポジストの顔ぶれのなんと固定的なこと。 ここ十数年まったく同じ顔ぶればかり。 国際共同試験というとあの人、安全性というとこの人、因果関係評価というとあの人、薬剤経済学というとあの人、当局っていうとあの人、製薬協っていうとあの人、・・・。 日本にはこれらの領域についてまともに語れるプロはわずか一人か二人ずつしかいないらしい。 で、そのプロも、欧米でお勉強したことの受け売り屋さんだったり (私もそうだ)、欧米の当局の実力者や、欧米の本社の専門家や、欧米の本物の学者の後ろ盾を力の源泉とする、虎の威を借る系の方々だったりする。 ほら、「前に会議でFDAの○○さんと話をしたときに ・・・」 「アメリカのRMPの担当者は ・・・」 といったエピソードをやたらと自分の話に自慢げに散りばめる人たち、多いでしょ?

異なる主催者・企画者が企画しているはずなのに、講演者やシンポジストがすべて同じ顔ぶれになるというのも、ニポンの特徴。 これって、ニポンの人材の貧困の象徴だけでなく、ニポンの医薬品開発がらみの集会・シンポの企画者がみんな同じ穴のムジナであること、同じ利害の中で生きていることの象徴でもある。  

しかし、お客さんはバカじゃない。 この狭い日本で、どの集会・どのシンポに行っても、毎回同じ講演者から、毎回同じようなトーンで、毎回同じような自慢話を繰り広げるのを聴かされるのだから、飽きるさ、そりゃ。

そうした虚しい布教と洗脳情報提供と教育を二十年間ほど行っているうちに何が起きたかというと、集会・シンポの会場から、質の高いお客さんが消え去ってしまったのですよ。 質の高いお客さんとは、医薬品開発を 「真剣に」 「誰かにやらされるのではなく、自発的に」 「業務手順ではなく、創造的な営みとして」 「先入観なく、批判的に(criticalに)」 「学問・科学として」 考える業界人 (産官学すべて) である。 上に述べたマンネリの淀んだ予定調和は、こうした質の高いお客さんの足を集会・シンポの会場から遠ざけるに十分だろうと思う。 自業自得である。(注 1)

(注 1) むろんもう一つの大きな理由は、グローバル企業が強くなるにつれ、目の黒い日本人の知恵者 (白衣を着た研究者や、創造性のある仕事ができる統計家や、高次の戦略設定ができるヒト(例:社長)) がこの地上から着実に消えていることだろう。 知恵者の、質の高いお客さんの数自体が減っているのだから、どうにもならんところはある。

で、お客さん (特に質の高いお客さん) が減って → 集会・シンポに対する多様な声や要望、建設的な批判も減って → 企画者の思惑がますます頑迷に固定化して → 毎度毎度同じ講演者を呼んで布教と洗脳情報提供と教育をして → お客さんが嫌気がさして → ・・・ っていう悪循環。 結局、悪循環の中心に最後まで残るのは、シンポジウムの登壇者利権だけだったりする(笑)。

(笑)を付けたが、これが話の本質であることは賢明な読者はもう見抜いておられよう。 講演者やシンポジストとして登壇を許してもらう名誉・名声(直接の宣伝効果)、権力者や金持ちとお近づきになる機会 (コネ)、そして多数の聴衆の前で目立ちたいという欲望を満たす機会って、産学官の方々はもちろん、メディアの方々ですら目がくらむほど強力な 「麻薬」 である。 ほら、あの舞台の上で脚光を浴びている講演者・シンポジストたちって、みんな眼が異様にギラギラしてるでしょ?(笑) 「麻薬取引」 って当然に利権を生みますよね。 その利権でメシが食えるのも、ニポンだけでなく世界の常識。(注 2)

(注 2) 銭金のやり取りだけでなく、この手の利権がニポンのCOIの本質的要素の一つであることも皆の常識なのだが、誰も開示しませんね。

一つ提案がある。 ニポンの集会やシンポジウムに独特の薄暗い構造に強力な白色ダイオードで光を当てて、みんなで隠しごとなく議論する、明るく楽しいシンポジウムを企画してはどうでしょうか。 ニポンの医薬品開発の現状を憂う、心ある企画者の皆さん、いかがですか? 質の高いお客さんを会場に呼び戻し、再生産するためにも、まずはそれがはじめの一歩となるように思うのだが。

私は私のやり方で、質の高い日本人のお客さん (すなわち医薬品開発のプロ) の育成に、心血を注いでいます。 無料出張講義はもう11社目。 私は、今日のブログで批判的に論じた方々の敵じゃないのよ。 どちらかというと味方です。 攻撃する相手を間違えないで頂きたい。

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死生命あり、富貴天にあり by 孔子