小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

正々堂々と応援したい

すまんすまん。 更新が遅れてしまいました。 皆さんはお元気ですか。 風邪で死にかけていたのだが、ようやく復活。 でもまだハスキーボイスのままである。 あくびをすると喉の奥の嘔吐中枢が刺激されて、うぇっとなってしまう状態は続いていたりする。 参りました。

という状況なので、本日も、ある講演会の抄録用に書いた原稿を一部修正して載せてしまおう。 こんなにバカげた素晴らしい製薬業界人への応援歌を正々堂々と贈れるのは、日本ではサル的なヒトくらいではなかろうかと思うとなぜか誇らしい。

夢見るように眠りたい

「健康長寿社会の実現は成長戦略の柱」 らしく、医療研究の司令塔がまたできるらしい。 ここ数十年、次から次に司令塔(○○本部とか○○室とか)が華々しく登場して、いつの間にか消滅し、を繰り返しているので、今度できる司令塔の名前を覚えるのにまた苦労するのであろう。 今後いつまでそれを覚えていれば良いのかの予想も難しい。

成長戦略、なんとかビジョンといった威勢のいい話は楽しい。 あまりに楽し過ぎて時が経つのを忘れてしまい、錚々(そうそう)たる過去の戦略がどのような成果を生んだのかにすら気付かぬままに数十年が経過したほどだ。 今直面しているように見える深刻で不可逆な事態は、実は幻なのかもしれぬ。

市販後に重大な副作用が生じた最近の薬をみると、多くの場合、「国際共同開発・世界同時開発」 という履歴が短所ではなく長所として記されている。 その手の薬では日本での用量設定試験をまともに実施していないことすらある。 絶えることなく発生する副作用トラブルと、日本人患者への最適化の手抜きの関係 (仮説) が気になる。 杞憂ならば良いのだが。

もう一つ、誰も聴きたくない威勢の悪い話がある。 そう、雇用の話。 今、薬学部の卒業生が製薬企業に就職することは困難を極める。 ニポンは、今、将来ある自国の若者がそのキャリアの一歩目すら拒絶される非情な国になってしまった。 この周知の事実が公的な場で議論されることは少ない。 議論される場はリーマンの飲み会。 最初は 「これではいけない!」 なんて激昂するのだが、結局のところは 「ニポンは医薬品戦争敗戦国だもの。 仕方ないじゃん」 という諦めの声で落ち着くことになる。 なーんだ、みんな本当は分かってるんだ。

企業の臨床開発者は貴重な技術者である。 その貴重な人的資源が日本からどんどん減っているのに、そしてその減り方は科学者のそれどころではないのに、危機感をもって論じないのはなぜだろう。 むしろ逆に、技術者の減少をリストラの成功談として喜ぶお偉いさんばかりが目立つのはなぜだろう。

企業の新薬開発者や当局の審査官を、身の丈どおりに 「技術者」 と呼ばず、「名誉科学者」 の地位に祭り上げることでさらに状況を悪化させているのが 「れぎゅらとりーさいえんす」 と称する流行り病だ。 「薬の目利き」 といった意味不明の持ち上げ方も危ない。 研究不正の問題も、それを科学 (医学) の壮大な問題に祭り上げることで、地に足を着けて議論すべき重要な論点、例えば組織に属する技術者 (企業の統計家、当局の審査官など) が薬の安全性の問題などについて経営陣や上司と対立したときにどう倫理的に行動すべきか、公益通報はどうあるべきか、などがどこかに消え去ってしまうのだ。

経済の成長・科学の発展という夢 (まさに pipe dream ) を見させながら、幸せ気分のままに日本の医薬品R&Dを劣化させ、安楽死させる、という実に巧妙なシナリオを書いているのがどこかの国の新自由主義者なら、「アンタなかなかの腕だよなぁ」 と感心したくなる。

*****

製薬会社さんを正々堂々と応援してくれる身内・同業者・規制当局 「以外」 の一般人って、なぜかそれほど多くはないよね。 そういえば、先日見た映画 Dallas Buyers Club でも製薬会社社員と FDA の役人は徹底的にイヤな人たちに描かれていたっけ。

AIDS が大きな社会問題となり、有効な薬剤がまだ 「治験中」 だった頃、1980年代のお話である。 主人公のロン (ダラスのロデオ・カウボーイ) は、ちょっと性的に大らかだったため、AIDS になってしまった。 当時の AIDS に対する偏見と闘うだけでなく、お薬に関する法律・ルールとも闘わないといけなかったのである。 ほら、業界人ならだれでも知ってる医薬品関係者の常識。 でもたぶん、これらって世間の非常識、なのだ。

  • 治験薬を被験者以外の人に譲ってはいけない。 たとえその人が死にそうで、命がけでそう望んでも。
  • 未承認薬を勝手に輸出・輸入してはいけない。 たとえそれが死にそうな人を救うためであっても。

書いているだけで胸がムカムカする常識である。 これまでも、そして今後も、世界各国でいろいろな裁判・訴訟が起きるに決まっている常識である。 ましてやロンはアメリカのカウボーイ。 「あなたが薬を手に入れる合法的な手段はありません。 諦めて、素直に死んでくださいね」 と社会と政府に言われて、黙って死を選ぶわけがない。 そこでロンが選んだ道は ・・・ という映画。

製薬企業社員は、高級時計を身に着けた利益至上主義のビジネスマン。 FDA職員は、規則を守るだけのお役人。 かわいそうなほどひどい描かれようでしたぜ。 でもあまりにそのまんまなんで、大笑い。 現金を目の前に積まれて、インターフェロンを違法に横流しするのが日本の開業医だというのも大笑い。 この映画、実話に基づいているそうなので、このエピソードも実話かも。

HIV薬のAZTの承認用量が当初は高すぎて、患者の身体に無理させていた (副作用で亡くなる人たちが多かった) というのも興味深いエピソードである。 ロンさんがもし今も生きているのなら、グローバル開発された現在の薬の用量が日本人の身体に無理をさせているかどうかについて、ぜひ一言コメントしてほしかったところである。

仕事がらみの話はこれくらいにしておこう。 映画の味わいが悪くなる。

で、結論。 とてもワンダホーな映画です。 トランスジェンダー役のジャレッド・レトの演技が特に素晴らしい。 さぁ三連休、あなたもTSUTAYA へレッツゴー。