小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

抜け駆け審査制度

ちょっと涼しくなってきたが、油断して良いものかどうかが微妙なところである。 株価大暴落で首筋が涼しくなっておられる方々もおられよう。 皆さんお元気? 今日は行きつけのイタトマでなんとホットのカフェラテを頼んでしまった。 2015年。 僕らの夏はもう終わったのであろうか。

毎年思うのだが、東京人ってずるいのである。 油断していると、いつの間にか秋の装いに変わってしまうのだ。 気づかぬ間にみんな長袖になって、その秋流行の色合いのジャケットなんかを着たりして。 マフラーや帽子もあっという間に蔓延。 このサルはファッションなんてもんに無縁なので、毎日同じ半袖の白ワイシャツと茶色のズボンという制服で出勤するのだが、秋の日、ふと周りを見渡すと、電車の中で半袖を来てるのは僕 (と、年中Tシャツを着ている暑さ寒さを感じないらしいアメリカ人のにーちゃん) だけになってしまっていたりするのだ。

「ふふふ、ちょっと見てよ、あのサル的なおじさん。 一人だけ半袖よ。 ビンボーなのかな」
「ほんと、恥ずかしいね。 やだ、きもーい。 鳥肌立ってるよ。 かわいそうに」

といった冷たい視線を浴びてしまうのも毎年恒例。 ちっきしょー、今年こそ早めに長袖になってやるからな!

*****

最近仕事がちょっと立て込んでいて、ブログの更新がつい遅れてしまう。 ごめんね。 ここ一、二週間は、社会人学生の博士論文の最終チェック。 その学生さんが取り組んだのは 「臨床試験の結果が、試験環境、試験デザイン、事前情報によってどのような影響を受けるか」 という壮大なテーマである。 

特定の薬効領域の特定の薬剤の組み合わせについて調べるのは簡単だし、先行研究もたくさんあるのだけど、彼はそれを一般化したモデルで検討してるのである。 ちょっとややこしい仕組みの階層化モデルをうまく使って、様々な治療領域のいろんな被験薬・対照薬の組み合わせを同時にサンプルとして扱えるようにしたところがミソ。 おかげでずいぶんと面白いことを新発見してくれた。

一つ面白い結果を紹介するとすれば、例えば、日本での試験結果(効果量)と事前情報の蓄積の正の関係。 簡単に言うと、国内外での試験の経験の蓄積によって、薬の効き方の見た目が大きくなるということ。 当然といえば当然、でも不思議と言えば不思議である。 「薬が、開発者の空気読むのか?(笑)」 って話。 

今、先駆け審査指定制度とかいう、非関税障壁を最大限に活用した政策を導入しようとしている国がある。 その手の政策って 「新薬の開発と上市が早ければいいんでしょ、早ければ」 ってなことしか考えていない人たちが提案しているようにも見えるのだが、実はこの政策の影響・含意はとても複雑である。 国際貿易論や医薬品アクセスの短期の帰結がむろん興味の中心だけど、それだけで済む話ではない。 例えば、登場する新薬の種類、薬効評価の方法 (含コスト) は影響を受けて変化してしまうのよ。 おまけに、もしかしたら薬の効き方すらも変わるかもしれぬ、というのがこの研究の興味深い含意である。

話はちょっとそれるが、先駆け審査指定制度については、皆さんの大好きなアメリカ様が腹の中で相当にイライラしているだろうなぁと想像する。 だってこれって 『抜け駆け審査指定制度』 なんだもん。 むろん、アメリカ様が苦労して作って、メンテして、世界のみんなが (半ばタダ乗りで) 使わせてもらっている大きな医薬品創造システムからの 『抜け駆け』 という意味ね。 国際貿易的な大まかな構図で言うと、日本の新薬開発 「工場」 への強烈な優遇措置、補助金って感じか。 ニポン人って、普段は、アメリカ様が歴史上営々と作り上げた新薬開発・承認審査の体系を崇拝してますっていうような顔をしてるのに、一方でこういう 『抜け駆け制度』 も平気な顔して作っちゃう。 見事な二枚舌である。 

現在のパックスアメリカーナに依拠した新薬規制体系 (世界支配体系) に寄生して、まさしく裁定取引のような形で横から甘い汁を吸おうとする日本や中国 (注 1) と、アメリカ様との小競り合い (あるいは大ゲンカ) が近い将来起きるのは必然だろうなぁ。 いや、もう既に、アメリカ様 (米国政府と米国系企業) によってこの制度は事実上骨抜きにされているのかもしれないけど。 いずれにせよ、日本の医薬品官民共同体が、アメリカ様に対していつまで二枚舌を使い続けることができるかが見ものではある。  

(注 1) 中国政府さんも 「薬価安くするなら、審査を優先してやるよ」 「中国で治験やれよ」 「中国に工場作りなさいよ」 と頑張ってますね。 「私たちは米国の味方だ」 などと二枚舌を使うことなく。 その意味ではニポンよりも裏表がなくて、さわやかだ。

本気でアメリカ様がイライラし始めたら、たぶん、(1) こうした保護主義をTPP・自由貿易の枠組みで議論しようよ、なんて言ってケチをつけ始めるか(既存のパックスアメリカーナ世界支配体系は維持)、あるいは、(2) 逆に、例えば 「新薬の承認審査と保険は別」 なんていう宗教に代表されるパックスアメリカーナ世界支配体系を自らぶっ壊して、新たなパックスアメリカーナ医薬品世界支配体系を構築し始める、なんてことを考えるかもしれぬ。 アメリカ様ってね、賢くて、強くて、怖いよ。

アメリカ様が本気でニポンを叱り飛ばしに来た時に、「お前らの言うことなんか聴くもんかい!」 と開き直る度胸があれば立派なもんだが、アメリカ様に名誉白人扱いされて嬉しくて仕方がない方々が組織のトップにいるのがニポンという国だから、それを期待するのは土台無理か。 ということは、我々が目にしているのは、つまり、毎度おなじみの ・・・

出来レース(笑)  か? (注 2)

本気出して参加したり、批判したりしちゃいけないのね。 失礼しました。

(注 2) 東スポ風、あるいは RI○FAX 風に 「か?」 がちゃんと付いてるからね。 業界の皆さん、怒らないでね。

*****

話を元に戻そう。 あと少しで論文完成の学生さん、頑張ってください。 博士の学位取得の過程で、最も楽しいのがこの段階かも。 わが子のようにかわいい自分の論文原稿を前にして、うんうんとうなりながら一言一句を吟味していくのは本当に楽しいよ。

*****

遅ればせながら、DVD借りてきて見た映画「インターステラー」。 面白かったです。 SF、宇宙モノ。 地球環境がボロボロになってしまい、人類が移住するための他の惑星を探しに出かけて、いろいろと大変なことが起きるというストーリー。 大雑把なストーリー紹介ですまんね。

サル的なヒトは、映画に登場するモノリス型のHALのようなロボットがとても気に入りましたよ。 普段はモノリスのようなかまぼこ板 (あるいは羊羹) のような形をしてるのだが、それが突然走り出したりするのだ。 特に危機が迫った時の駆け足のかわゆいことといったら、ちょっともうたまらん。 必見。