小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

肩書と実力

同じ場で、同じ話題を論じていても、何か違和感を覚えることがある。 パネルディスカッションで、その人が発言するときだけ、急に空気が弛緩してしまったり。 そう、そこに周回遅れのヒトがいるときである。 周回遅れのヒト、すなわち、これまでの経緯を全く知らなかったり、基本的な知識・能力が欠けていたりするヒトである。 新入社員は周回遅れだけど、誰も気にしない。 当然だから。

問題になるのは、おエラいさん。 その分野の知識もノウハウもないおエラいさんが、どこか異星(他分野)からパラシューティングして降ってくるのは、日本ではよくあることである。 新入社員と違って、自ら周回遅れの認識がない人がいる。 見ていて痛々しい。 数年経って「私もようやくこの会社・業界の問題点が見えてきた」なんて殊勝なことを言っても、3周遅れてたのが、2周遅れになっただけだったりする。 それを誰も指摘しないから、「王様は裸」状態。 この悲惨な状態を生んでいるのは、おエラいさんではなく、むしろ我々(部下)であることを自覚しましょう。 部下の責任です。 なんとかしてください。

一般職員・一兵卒だっておエラいさんを笑えない。 ローテーション人事異動で、たまたまある部署に転がり込んでくる素人がいる。 お役人系に多いのだが、異動のたびに、

拝啓
このたび、○○課長を拝命しました。 身の引き締まる思いです。 新たに担当する分野は、私にとっては未知の領域、新天地でありますが、精一杯がんばりたいと思います。 ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
敬具

という新任の挨拶が交わされるのが、日本の伝統。 これじゃ戦争負けるわ(笑)。 当人は身が引き締まったりなんかして、ダイエットできて嬉しいかもしれないが、周囲はたまったもんじゃない。 でもその「周囲」だって、次の人事異動では同じ挨拶をするのだから、笑うに笑えぬ。

こういうことを書くと、それに続く業界人のステレオタイプな決まり文句は、
「そのとおり。 米国では、専門性を重視した採用・人事評価が行われていて素晴らしい」とか、
「欧米では、実力のある人には、産官学のリボルビング・ドアの伝統がある」とか。 

そりゃそうなんですけどね ・・・ 皆さん、「欧米のようにしよう。 欧米人のようになろう」 って本当は思ってないでしょ? 口先で言ってるだけでしょ? だって、言ってることと実際やってることが全然違うんだもん。

例えば、周回遅れの人たちへのおべっか・ゴマすりのすさまじさ。 個人の専門性・実力を評価しまい・評価させまいとする組織のシステムと日々の行動。 そして、スタンスの相違を気にしない(無視する)常識はずれのおおらかさ(笑)。 

日本の医薬品業界では、専門性や実力のレベルの評価なんて夢のような話である。 そもそも、その前提となる「あんたは何をやってる人? あんたの専門なんだべか?」を誰も知ろうとしないし。 「あんたは何を考えているのか」 になんて誰も興味を示さない。

大もめしている事件の一方の当事者が、それに対する私のスタンス(賛成か反対か)を知ろうともせずに、「あんたはワシらの味方だよな」 とすり寄ってくる無防備さもよく経験する。 私は心やさしいサルだから、「あのね、私とあなたの考え方は逆ですよ。 私はあなたの敵になるかもしれないから、近寄るとまずいかも。 あなたの味方はたぶん○○先生とか××先生とかですから、そっちに相談に行ってくださいね」 とはっきり申し上げて、そして嫌われる。 そうは言わない人が多いのである。 敵の話を、味方のような顔をして最後まで聞いて、さも同情したようなことを言う偽善者(スパイ)の方が良い人だと思われるんだよね。 うーむ。

右翼も左翼も気にしない。 民主党員も自民党員も公明党員も共産党員も無差別。 ケインズフリードマンも一緒。 神も仏も区別なし。 いやはや、すごい国民なのである、ニポン人は。 何というか、現生人類の規格外の、すごい国民なのだ。 外人には弱くて、ボコボコにされてるけど。 このあたり、大笑いしつつ、でも哀しい気分になりたい方にお勧めは、堀井のこれ。

ねじれの国、日本 (新潮新書)

ねじれの国、日本 (新潮新書)

そんな多くのニポン人が唯一気にするもの。 それは「か・た・が・き」。 所属と肩書は大事にしますよね。

外で講演をすると、主催者から必ず 「事前に経歴を送ってください」と頼まれる。 講師を過去の肩書を使って紹介しないと気が済まないらしい。 でも、講演前の私の紹介は棒読みだし、聴衆も「そんなのいいから、早く話を始めさせろよ」という冷たい目。 一方で、講演の内容が、右寄りなのか左寄りなのか、自然科学か社会科学か、薬学か経済学か、規範か実証か、といったことは事前にはまったく気にしてもらえない。 講演が終わってからも気にしてもらえないのが、さらに情けない(笑)。 

もっといろいろ書こうと思ったが、とても一筋縄ではいかないので、次回以降に続きます。 気が向けば。

おべっかと言えば、昭和のバブルを演出したホイチョイ・プロダクションズ、今も頑張ってるじゃないか。 いい本、出してるなぁ。

社畜、あるいはエラい奴らの忠犬ポチの皆さん必読。 クライアント、上司、お上へのゴマすりの仕方の実践マニュアルである。 ふざけているようで、ふざけていない。 「自分の名刺は、1ミクロンでもいいから、相手の名刺の下からさし出すべし」とかね。 ビジネスの真理なり。

本書に記されているとおり、「人を動かすのは、正面の理、側面の情、背面の恐怖である(by 中坊公平)」 その「情」の部分におべっかが効くのは当然です。 皆さん頑張ってね。

私自身は「おべっか遣いは、信頼できる同志・友人には決してならない」ことを学んでいるので、おべっかは言いませんし、言ってもムダです。 ホイチョイさん、ごめんね(笑)