小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

自炊の楽しみ

自炊を始めたのである。 嫁さんが喜ぶ方の自炊ではない。 あっちの方の自炊である。 本を無残に切り刻み、バラバラにして、電子ファイルにしてしまう方の自炊。 

自炊を始めるにあたって、いろいろなサイトや本で勉強した。 で、どうも自炊の効率は最初に本をぶった切る裁断機にあるらしいことがわかったので、結構値の張るごっつい裁断機を購入した。 組の金を使い込んだことがばれて、若頭にけじめをつけろと言われたら、指の3本くらいはまとめて落とせるくらいのすごさである。 富○通のスキャナーは元々ある。

さてしかし、いざ自炊を始めようとすると、最初のハードル (障害) は、実はそういった機器の性能ではないこともわかった。 ホントのハードルは自分の心の中にある。 それは 「愛する書物を殺害し、バラバラ死体にすることの罪悪感」。 これが半端ないのだ。

生まれてから51年間、私は親や教師から 「書物は、犬、猫、人間の次に大切にしなさい」 と教えられ、育った世代である。 床に置いてある本を跨いだりしたら 「こらっ!」 と叱られた世代なのである (実話)。 それがなんと自炊は、「テキトーなサイズにバラバラにして、内容だけ読みこんで、後はきれいさっぱり捨てなさい。 バラバラになった本を後生大事に保存してたら自炊の意味がないから」 という倒錯の世界である。 天動説から地動説に変わるくらいのパラダイムシフト。

どの本から殺害しようか? まずは漫画か? 本棚に鎮座する全32巻の 「ギャラリーフェイク」 あたりか? ・・・ いや、ダメだ。 それだけはやめてくれ、自分。 オレはフジタを、サラちゃんを愛しているのだ。 バラバラになんかできるわけがない。 では教科書なんかどうだろう? バリアンの microeconomic analysis なんかどうだろう? ・・・ いや、ダメだ。 オレの経済学の土台を作ってくれたバリアンを壊すなんてことはできないよ。 ああっ、僕には本は殺せない。

このままでは自炊が始まらない。 絶望的な気分でどうしよう?と机のまわりを見渡したら ・・・ ふふふ、ありましたよ。 思い入れがまったくない本が。 ほとんど縁もゆかりもないヒトからなぜか届いた献本(笑)。 これだ。 すまん、許してくれ。

というわけで、その献本の表紙をバリバリとはがし、本の背の糊でくっついているところをザックリと裁断機で切って、バラバラに。 それをスキャナーにかけると、あとはソフトが勝手に pdf にしてくれる。 手順通りに完了。 最初の本は全工程で30分くらいかかった感じ。 でも、全工程完了後、ゴミ箱にバサッとバラバラにした本を捨てるのは、自分が煩悩から解放されたかのような爽快感がある。

これからどんどん本を捨てていく。 人生の最後には、枕元に一冊だけ本を残してあの世に行きたいというのが夢である。 最後の一冊がどの本になるのか、今から楽しみである。 それがホイチョイプロの 「気まぐれコンセプト」 とかだったら、「このヒトの人生、重いのか、軽いのか?」 と遺族が悩んだりするのであろうなぁ。 それもまたよし。

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そうやって昔の本や資料を整理していると、いろいろと面白い記事が見つかる。 1998年のある業界紙にこんな記事があって大笑い。

厚生労働省の○○氏は 「治験の啓発が進めば空洞化問題は解消する」 と述べているし、製薬協の△△氏は 「将来は海外から日本に治験依頼が殺到するであろう」 と真っ向から空洞化の危惧を否定している。
(中略)
そして○○氏の指摘にある治験の質の向上が基本的問題点である。 欧米で承認されている新薬が日本では承認できないという事態は、治験担当医師の評価能力が低いことも一因として指摘されており、これらを改善することが急務である。

・・・ 「ニポンに治験依頼が殺到」 だって。 

残念でした。 大外れ。 というか、市場を語る上でのピントがずれている。 治験の空洞化の話をしているのに、需要と供給のメカニズムに一言も触れていない記事って、そりゃなんだよ。 ニポンの医薬品がらみの記事って、実は今でもこんなのばっかりである。 

治験が殺到どころか、ニポンは、国際共同試験に10%被験者をテキトーに入れておけば良いだけの 「安い」 国になってしまいましたよ。 しかも、その現状を誤解して 「ほれ、世界中から治験が殺到しているじゃないか!」 と自画自賛する旧世代の人たちが今でも生き残っている末期的状況でもある。

加えて、製薬会社、あるいは、医薬品の研究開発活動そのものが根こそぎむしり取られて外人さんのものになりつつある。 経産省の (外為法じゃない方の) 外国人持ち株比率の定義では、あのアス○ラスももはや外資系企業に当たるらしい。 正確にいうと、むしり取られているわけではない。 ニポン政府が円をなりふり構わず安くして、「ニポン」 の価格を安くして、「ニポン」 を外人にどんどん買ってもらうというこの十数年間の基本政策が見事に功を奏しているわけである。 

臨床開発も、会社も、大安売りのニポン。 

こんな状況下で、たこつぼ医薬品業界人(産官学すべて)が、「ニポン人は優秀だ」 「ニポン発の新薬を世界に」 「日の丸技術の流出を防げ (シャープの件で、そんなコメントが続出していてびっくり)」 とかイキっていても虚しいよなぁ、と思う。 仮に本気でその 「日の丸路線」 とやらを追求するのなら、もっと賢いやり方があるだろうし、それ以前に、あんたら、そもそも今の (これまでの) 日本安売り路線にもっと反対してくださいよ。 ニポン安売り路線に乗ってメシを食っているのに、「ニポンの医薬品業界は品質世界一です」 と高級路線の幻想を追い続けているのって、支離滅裂だし、哀しい。 自分たちが安売りされていることに気づいてすらいないとすれば、どうしようもないけど。

このご時世で、若い人たち普通に生き残るにはどうすればよいか。 おすすめの一つは、日本国内のくだらない 「日の丸印の畳水練」(注 1) のようなものには一切関わらずに、日本をさっさと出ていくことである。 外国に行って、外国で外国人と外国人のための仕事をフツーにすればいい。 東大のSセンセイがかつて講義してくれたとおり。

(注 1) 昔、プールなんてものが無かった時代に、日本の学生は畳の上で泳ぎ方を学んでいました。 笑ってはいけない、ホントの話。

とはいっても、すぐにはそういう世界は来ないのだろうなぁ。 かわいそうだが、今の若者の多くは 「日の丸印の畳水練」 に巻き込まれ、旧世代のジジイと共に溺死する。 旧世代のジジイ (私を含む) の多くが死に絶えて、人口が5千万人ほど減った日本で初めて新しい世界が実現する、というのが私の予想である (これね → 2016-01-01 - 小野俊介 サル的日記)。

50年後にこのブログを読んでいる方。 私のこの予想が当たったかどうか、こっそり教えてください。 きっとそのあたりの草葉の陰で少年マガジンかなんかをご機嫌で読んでいるサル的な幽霊がいるからさ。