小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

グローバル化を考えた昨日であった

前にも書いたが、職場からの帰り道で客引きの兄ちゃんが話しかけてくる 「ガールズバーほう、いかがっすか?」 がやたらと気になって仕方がない。 居酒屋のレジでの 「お会計のほう、させていただきます」 と一緒だな。 「そっちのほうじゃないほうにしてくれる?」 と逆に聞き返したら何が起きるのだろう? 何か秘密の、口には出せない歓びのほうとか、そういう何かがあるのだろうか? 日曜の昼間から妄想に耽っていてはいけない。

さて、昨日の医薬品評価科学第11回集中コースにご出席の皆さま、お疲れさまでした。 講師の先生方、ご協力ありがとうございました。

どの講師も一癖二癖あって、面白い話が聴けました。 「グローバル化」 「グローバル人材」 とか言っているが、その本質を議論するのはなかなか難しいことにお気づき頂けましたか。

例えば、ワシントン郊外の米国FDAのオフィスで働いている白人や黒人のおぢさん・おばさんは、皆グローバル人材なんだろうか? そんなわけはないよね。 連中の中には、香港も東京も北京もソウルも区別がつかない(というか興味が全くない)人たちが山ほどいます。 彼らは単なるアメリカ人なのよ。 でも、我々の頭の中では、「外人さん」≒「英語がペラペラ話せるすごいヒト」≒「外国に住んでいるヒト」≒「グローバル人材」 なんていう幼稚園児なみの連想が結構根深くあったりする。 戦後の Give me chocolate ! の時代とあまり変わらなかったりして。

ニューヨークで高級スーツ着てバリバリ働いているビジネスパーソンは、皆グローバル人材なんだろうか? そんなわけはない。 彼らのほとんどは単なるアメリカ人なの。 でも僕らって、ニューヨークだの、マンハッタンだの、ウォルストリートだのという言葉を聞いたとたんに、へなへなと腰が抜けて 「グローバル人材様じゃあ! グローバル人材様のお通りじゃあ! なんと神々しいお姿ぢゃあ!」 などと手を合わせて拝んでしまったりする(笑) 私だけかもしれんが。

「グローバル人材」 を定義した文科省の報告書がある。 なかなか素晴らしい定義だ。

グローバル人材とは、世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間・・・

やや素晴らしすぎる定義で、自分は絶対にこの定義の「グローバル人材」にはなれない自信があるが、格式高く定義するとこんな感じになるんだろう。 ポイントは「日本人としてのアイデンティティを持ちながら」 ですね。 無国籍人はグローバル人材ではない。 文科省的には、ゴルゴ13はグローバル人材とは定義できないということ。

もう一つ、日本の製薬産業の方々がいう「グローバル人材」 っていうのが、下のスライドのどこに分類されるのかも微妙な問題だということが明らかになったと思う。

渡邉氏のこの分類を使うとすれば、日本の製薬産業人(特に外資系企業の人たち)が語る「グローバル人材」は、正確に言うと (3) ジャパンプレミアムと (4) グローカルの人たちですよね。 日本人メリットと日本アドバンテージが大前提。 (2) の無国籍ジャングルで70億人の顧客・70億人のライバル同業者を相手に血みどろの闘いをする覚悟のある人たちではない。 一方で、本当は (2) のジャングルに放り込まれているのに、それに気づかないふりをし続ける日本企業のおエライさんたちがいるのも興味深い。

最近の業界人向けの研修会でよく見られる 「治験のグローバル化に対応したグローバル人材育成を目指して」 なんていうステレオタイプなセッションや講演のタイトルは、正確には 「欧米スタイルを真似して日本での治験を実施する時代に対応した、グローバル欧米人に好まれるグローカル人材育成を目指して」 と言い換えるべきだろうね。(注 1)

(注 1) もっと正確に言い換えると、「欧米の当局にいる米国人(英国人、仏国人)に好かれる治験を日本で実施する時代に対応した、米国人(英国人・仏国人)上司に好かれるグローカル日本人人材になろう!」 だろう。 ここまでくると不愉快な卑屈な匂いがプンプンとしてくるから、誰もここまでは煮詰めないのですが(笑)

ただね、決して日本の状況を卑下しているわけではないので誤解しないように。 上の皮肉は、程度の差こそあれ、すべての国・国民に当てはまる。 変な言い方だが、米国だって例外じゃないぞ。 米国内でも、ローカル米国人たちとグローバル米国人たちの対立(あるいは搾取、あるいは憧れ)は、あるに決まっている。 グローバル企業という国籍不明の鵺(ぬえ)のような法人プレイヤーが跋扈する時代に、各人が生き延びるためには、正確でシビアな状況把握が必要だということを申し上げているのである。

また、製薬業界人が皆 (3) ジャパンプレミアム または (4) グローカルに入っていると思って安心してると危ないですよ。 とにかく治験を安くあげたいグローバル企業の工夫(例: データセンターやコールセンターをインドに置く等は、どの業界も同じですね)は、高賃金の日本人にとっては常に脅威になる。 (1) 重力の世界(奈落の底に落ちる世界)あるいは (2) の血みどろ無国籍ジャングルに、いつ放り込まれるかわかったもんじゃない。 というか、CROなどの人たちはもう (1) 重力の世界に放り込まれているのではなかろうか。

生き残るのは、大変だ。 国による外国人参入規制のある職業(政治家、公務員)は、今日書いてきたような意味では、恵まれているよね。 別の意味で大変なのは、もちろんよくわかっているけど。

グローバル化。 引くも地獄、進むも地獄。 TPP交渉の世界と同じ。 でもね、世の中が変わることを思い悩んでいても仕方ない。 最終的に最も実践的なアドバイスは、本日の講師のお一人、渋谷先生(東大医国際保健政策学教授)の

「こんなところで四の五の言ってるんじゃなくて、外国にどんどん行けばいいのよ、あなたたち」

ですかね。 そのとおり。 畳水練(畳の上で水泳の練習をすること)やってても仕方ない。

OK, everyone. Let's jump into the global jungle to see sink or swim !
 ♪ どうせ一度の人生さー (若い人は呟けんだろうなぁ(笑))