小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

道徳原理の樹、再び

この頃、またイライラすることが多く、イライラしてると能天気なことを書く気が起きないため、その結果としてブログの更新頻度が落ちているなぁと自覚しているサル的なヒトである。 読者の皆さん、申し訳ないっすね。 

さて、先週金曜日から、ある製薬企業で、例の出張講義 (全10回) を始めました。 5社目です。 謝金は一切頂かず、完全に無料で皆さんにご奉仕。 自暴自棄になっているわけでも、ふざけているわけでもありませんのでご安心を。 製薬産業にいる日本人の同胞・友人たちが、今の世界の産業界の動きの中で置かれている危機的な状況を考えると、何か私もしないと居ても立っても居られないという心境から始まった、自発的な活動である。

危機的な状況とは、具体的に言うと、

  • 「日本人は、新薬の研究開発活動の中の 『知恵が必要なところ』 には参加しなくていいよ」 という流れ
  • 「日本人は、商売の上で日本・日本人メリットのあるところでだけ活躍してくれればいいんだよ。 世界になんて出てこなくていいんだからね」 という流れ (この回を参照してね → グローバル化を考えた昨日であった - 小野俊介 サル的日記 )
  • 自分たちの実力や現在置かれている状況を評価せず、過去の行動・施策・判断の結果(自分たちの過去にしたことが成功したのか、失敗したのか)もまったく評価することなく、ただ単に 「日本頑張れ」だの 「グローバル化の推進」 だのというスローガンのみが虚しく何十年も響き続けている現況

などである。

幸いなことに同じ危機感を共有する業界の友人が何人かいるため、そういう友人たちの支援も頂きながら、この出張講義は続いている。 このような講義を企業が受け容れる余地(余力)があるかどうかが、グローバル人材として日本の企業人が生き残ることができるかどうかと関係していると私は信じています。 講義の目的は、社員の本質的な実力の向上です。 SOP社員化の防止です。

例によって私の講義は、まず倫理・道徳の講義から始めます。 道徳原理の樹ね。 すっかり忘れてしまった受講生もいるだろうから、思い出してもらおう。 ホレホレ、懐かしいっすか? ワクワクするでしょ?

私の講義を聴いた人たち以外は、日本の医薬品業界の方々(産官学すべて)の多くは、人生の中で一度もこれらの倫理規範に触れたことがないですよね。 でもね、倫理規範の代表的なものくらいは知ってないと、そもそも他人を批判することなどできるはずがないのです。 実際、日本人って論理で他人を批判するのが苦手ですよね。 すぐに感情や気分に基づく悪口の言い合いになる。 そしてもっと困ったことに、日本人って自分自身の考えていることを批判できない。 だから批判的思考 critical thinking ってやつが全くできない。 これではグローバル人材にはなれませんね。(注 1)

(注 1) このあたりは皆さんへの分かり易いエールと思って聴いてください。 コンサルのにいちゃん・ねえちゃんが好きそうなこんな上っ面の理由だけで皆さんに講義を勧めているわけではありません。 他にもいろいろ理由があるのですよ。

だから、まずは道徳原理の樹を使って講義を始めるのです。 倫理規範や政治哲学を、道徳原理の樹を使って、きちんと新薬開発の文脈を踏まえて講義ができる薬学部の教員はそう多くはないだろうなぁ。 というか、そんな変わり者がそうそういるわけがない(笑) そういう意味(珍獣観察)でも貴重な体験ができますから、出張講義のご要望があるようでしたら、どの会社でもどの大学でも、遠慮なく声をかけてください。

講義も5回目なので、中身もますます充実! この道徳原理の樹は、なんだかんだいっても、帰結主義びいきである。 つまり経済学を支える思想に重点が置かれている。 そこで今回の講義では、この道徳原理の樹に現れない倫理規範、例えば義務・権利論(カント)を源とする規範(リバタリアニズムなど)、そしてサンデルさんの講義ですっかり有名になった目的論に拠る規範(コミュニタリアニズムなど)についての説明をキャンペーン期間中につき3割ほど増量し、絶賛説明中だ。

というわけで、受講生の皆さん、頑張って楽しく勉強しましょうね。 あ、そうだ。 宿題を一つ出しておきます。

「あなたが嫁さん(あるいは旦那さん、彼氏、彼女)とキスをするかどうかについて、当該行為が正当化できるかどうかを、古典的(原始的)行為功利主義に基づいて考えてみてください。 その議論を、規則功利主義に基づく正当化の議論と比較してください」

児玉先生の入門書にも、答えは書いてありません。 念のため。

皆さんが答えを考えている間、私はホリエモンの刑務所なう。の第二巻を読んでますね。 面白いぞ。