小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

倫理を学ぶ理由、再び(・・・と炊飯器)

先週土曜日の午後は、都内K大学で倫理に関する講演。 90分2コマ、計3時間。 たっぷり時間をとって頂きじっくり話ができました。 ありがとうございました。

聴衆は社会人 (多くは薬剤師さん) だったのだが、皆さんの話を聴く姿勢の素晴らしさに感心。 うちの学生に皆さんの爪の垢を飲ませたいほどである。 社会人で毎日働きながら、さらに土日も勉強会に参加しよう、というその気合が立派なわけです。 その勉強意欲をこの先、何年も何十年も持ち続けられますように。

倫理といっても、ヘルシンキ宣言だのICH−GCPだのといった、よく出てくる研究倫理を教える気は全くない。(注 1) 正統派の医療倫理のホットな領域 (遺伝子診断の是非とか) にも踏み込まない。 私が教えるのは道徳哲学のご本尊そのものである。 医療系を専門にしてるからって、いきなり医療系の応用倫理に逃げてはいけない。 まずはご本尊をちゃんと学ばないと。

(注 1)最近、GCPは現場の作業員の単なるSOP並の扱われ方をされていますね。 臨床研究に機械的に「ICH−GCP準拠」 といったラベルを貼り付けてみたり、当局がそれを機械的に求めようとしたり。 きちんと議論をする力をプロがまともに持っていないという情けない状況に見える。

業界人(産官学すべて)が道徳・倫理をろくに勉強していないことは、業界のシンポジウムで、業界の専門家の方々の講演を聴いているとすぐにわかる。 むろん専門家としての皆さんの腕は疑うことなく素晴らしい。 感心します。 ファンシーな理論を織り込んだ統計解析モデルを紹介したり、コストが削減できそうなグローバル試験の管理法を提案したり、欧米の企業が最先端でやってることを紹介したり ・・・。 ワンダホー。 でもね、講演の最後の方で一言二言述べる 「あなたの提案・主張の根拠は何? どうやって正当化するの?」 のところがすさまじく情けないのがニポンの業界人だ。 講演内容が立派なだけに、それとの対比で、情けなさが際立つ。

「以前のやり方では、日本はもうやっていけませんよ」 とか、
「このままでは、日本は潰れますよ」 とか、
「日本企業が世界に貢献するにはそうするしかありません」 とかね。

ほら、たいていの日本人講演者が口走るでしょ、これらの台詞のどれか。 というか、国内のシンポ・学会でこういう台詞を口走らない日本人講演者の方が珍しい。(注 2) こういう貧弱でステレオタイプな主張・提案の根拠しか語れないのが我々の現状。 でも、この根拠・正当化の部分こそ、じっくり、ねっちり、細かく語らないといけないところです。 講演者が(国際)社会をどう捉えているのか、善・悪をどう考えるかの実力が表れるところなのですよ。 聴衆が講演者の思慮と智慧の深さを判断するところなのですよ。 そこを語る力が無いことを自白してはいけません。

(注 2) 海外で発表する際には、決まって「世界の健康改善に貢献 contribution to global health」レベルの人畜無害のキャッチフレーズが使われる。 世界各国民・企業の血を血で洗うビジネスコンフリクトには触れないのね。

ニポンの皆さん、大人になりましょう。 まずは倫理。 何はともあれ、倫理なのです。 倫理を学ばないとね、この部分って絶対に語れないんですよ。 ちゃんと勉強しましょう。 脱・貧弱なニポンの業界人を目指して。 出張講義、喜んでどこにでも馳せ参じます。

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で、ガッツ石松流に言うと話は 360度くらい変わる。 ありがたいことに講演の謝金を頂いたのである。 ほれ、あれである。 今、サル的なヒトが欲しいもの、皆さんご存知ですよね。 あれですよ、あれ (→ 2014-07-30 - 小野俊介 サル的日記)。 頂いたお金を握りしめて、渋谷のヤマダ電機 LABI に駆け込もうとしたのだが、一応、家人に電話でそのことを伝えておこうと思ったのである。

サル 「あ、あのさぁ、なんというかね、謝金というものを頂いたんだよ、講演で。 それでね、例の ・・・」
家人 「あー、それはありがたいわ。 ちょうどね、ご飯炊く電気釜が壊れかけてるのよ。 もう年季ものだから、内釜の塗装が剥げちゃって、このままぢゃ重金属が溶け出しそうな感じなのよね。 ご飯もうまく炊けないし。 で、いつ新しいの買いに行こうか?」
サル 「 ・・・ ・・・ 」

実は先月、洗濯機も壊れ、買い換えたばかりなのだ。 その洗濯機、最後は壮絶な音を出しながら回転槽が揺れ始め、これはもしかしてロボット生命体かなんかにトランスフォームするのではなかろうかとさえ思ったほどである。 で、先月も洗濯機を買いにヤマダ電機さんへ行ったのだった。 金がないから、フロアの真ん中に 「お買い得! 現品限り!」 と寂しく置き去りにされている激安品をこれ幸いと買ったのだが、それでも超痛い出費であった。 貧乏人の家の家電は、どうしてこうも定期的に壊れるのだろう。

Micros○ft さんにお願いがある。 次の Surface のバージョンには炊飯器機能を付けてください。 それなら家人を説得できるかもしれない。

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またも出遅れてしまったが、鑑定士と顔のない依頼人のDVDを借りて観る。 あの 「ニューシネマパラダイス」 のジュゼッペ・トルナトーレ監督、音楽がエンニオ・モリコーネだから、見ないわけにはいかん。

このお話、いろいろな見方ができるので評価が分かれるらしいが、それで良かろう。 私はこういう映画、大好きである。 来るはずもないヒトを、「ニセモノが持つわずかの真実」 を信じて待ち続けるラスト、あれを希望と呼ばずして何と呼ぶ。 お勧めです。