小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

電王手くんはオンカロの夢を見るか

いやはや。 例の stap 細胞騒ぎ、かつてのあのМ口先生の対応がむしろ爽やかに見えるほどの様相を呈してきたような。 コピペだらけの博士の学位論文についての言い訳には感動した。 あの無茶苦茶な論文は 「下書き」 なのね。 いや、そうじゃないかと思ってましたよ。 下書きだったら、仕方ないよね。

多くの博士課程の学生さん (私が指導している学生さんを含む。)は、たぶん、一連の報道を聴いて、心の中で 「この人、こんなに楽に論文が通って、ちょっとうらやましいぞ、おい ・・・」 という悪魔の声 (笑) を聴いているのではなかろうかと推察する。 当然のことが当然ではない世の中らしいので申し上げておくと、だいたいにして、博士論文のドラフトは指導教員によってボコボコに殴られて、原型を留めぬほど見かけを変えて最終版になる(のが普通だと信じたい)。 全体の8割くらい形が変わることもある。 仮に学生がコピペしていてもコピペが原型を留めない。 

うちの学生が 「ドラッグラグは解消されたが、・・・」 だの、「新薬開発のグローバル化、万歳!」だの、「れぎゅらとりーさいえんすを推進していく必要がある」 といった、業界紙の見出しのような思考停止表現をうっかりコピペしてきた日には、ほぼ0.17秒で瞬殺される (表現が、である。 念のため)。 ゴルゴ13が銃を抜く速さと同等である。

だから学生さんはみんな、博士課程にいる何年かの間に少しずつ、自分の頭で、問題の本質とそれを表すための学問的な枠組みと概念を必死で探し、そこから自分がオリジナルなのだと思える表現を生み出す。 それが学問における教育プロセスである。 コピペとは対極にあるのが学問の姿勢で、単に論文の外形的な plagiarism の問題ではない。

一方、当局や企業の有力者たちの標準業務手順、既定路線、掛け声を皆が一生懸命コピペするのが、D○Aだとか、なんとかフォーラムだとかの場ですよね。 仕事の実務を初心者が学んだり、業界の常識や価値観の刷り込み (ビジネスにおいては必ずしも悪い意味ではない) のためにはそういう場はとても重要。 でも、そういう場が提供するのは学問や科学ではありません。 だって、学問や科学では 皆(あるいは有力者)とは違うことを言うことに意味があるのだから。 勘違いしている業界人が多いので、再度念押ししておこう。

*****

将棋ファンは週末のビッグイベント 「電王戦」 観ましたか。 そこですごいヤツが登場したのもご存知ですね。 将棋ロボット 「電王手くん」。

デンソー HPより)
ロボットアームは、デンソーの子会社である株式会社デンソーウェーブ(本社:愛知県知多郡代表取締役社長:柵木充彦)がクラス世界一の高速性能と機能美を誇る垂直多関節ロボット「VS-060」をベースに、棋士が安全かつストレスなく真剣勝負を行うことができるよう一部開発・改良を施し、初めてプロ棋戦での採用を実現したロボットアームです。主な特長は、以下の通りです。

初のプロ棋戦専用ロボットアーム概要
・駒が斜めになっていたり、ずれて置かれていても、アーム先端に装着したカメラが多方向から画像認識し 1ミリの誤差もない着手を実現
・駒をコンプレッサーで吸着し移動させるため、隣の駒に触れることがなく、公式棋戦と同じ将棋盤と駒を使用することが可能
棋士とロボットアームの間に目に見えない安全柵 (エリアセンサー) 設置 (以下 略)

・・・

脳ミソではなくて腕の方(笑)。 (注 1)  「将棋ロボットって、そっちかよ!」 という突っ込みが全国の 26万人ほどから出たらしいが、まぁ良いではないか。  これはこれで素晴らしい技術の結晶だぞ。 1ミリも誤差なく駒を置けるんだよ。 宇宙ロボットアーム開発のお手伝いをした経験のあるサル的な人には、こうした技術の価値はよくわかる。

(注 1) 電王戦を知らない人のために念のために言っておくと、もちろん脳ミソの方を担当するコンピュータは別にある。 でもそれって、単なるそこらへんのデスクトップコンピュータなので、何の面白みもないよ。

勝負の方はというと、例によって人間(プロ棋士)の負け、コンピュータの勝ち。 コンピュータソフトが人間を平均的に超えてしまっているのは間違いないようである。 羽生さん、森内さん、渡辺さんといった人類最後の砦が砕け散るのを見るのは、もうすぐだろう。 

我々は今、夢の未来にいるのだろうか。

*****

芥子粒のように情けない人類の一員として生あるうちに見ておくべき映画 「100,000年後の安全 (原題: Into Eternity)」 を遅ればせながら見て、気が遠くなるような無力感に浸る。 オンカロフィンランド語で「深い穴」「隠れ家」) と呼ばれる高レベル放射性廃棄物保存施設を淡々と描く。 無料動画 GyaO ! の映画>ドラマ・コメディのところにありますので、見損ねていた方はこの機会にぜひどうぞ。

「我々の文明が放つ最後の光」が、見えない光、放射線という皮肉が心に突き刺さる。 自分たち人間が愚かなサルであることは自覚しているが、その子孫のバカザルに 「ここに危ないモノ埋めたよ。 ムキー」 と騒ぎ続けるのが良いのか、それとも子孫には何も教えず、 「忘れろ。 何を忘れるのかも忘れて良いから(笑)、ただすべてを忘れろ」 という先人の教えを伝承するのが良いのか。 過去数千年、バカザルが犯してきた所業を振り返ると、明らかに後者が正解だろうが、先人の教えを集団でも個人でもまったく守れないところがバカザルのバカザルたるそもそもの所以だからな。 どうにもならん。

10万年後にいるサルたちが、現生人類よりはほんの少し賢いことを祈るほかはない。