小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

卒業おめでとう

卒業の季節である。 学校も、会社も。 皆さんのまわりはいかがですか。

例によってちょっとドタバタしていて、無料奉仕のブログの更新は後回しになっております。 いやあ、すまぬ、すまぬ ( ̄^ ̄) ← 全然反省していない。 ここ数日、めでたく本教室を巣立っていくK君の素晴らしい研究成果を形にすべく、彼の書いた論文ドラフト (注: コピペ無し) に手を入れていたら、なんか恍惚としてきて、時間が経つのを忘れていたのだ。 楽しいのぉ。

K君は 「医薬品の添付文書 (注 1) って何だ?」 をテーマにいろいろと分析をしてくれました。 業界人って、イレッサの裁判なんかに対して、「けっ、『間質性肺炎の副作用が何番目に書いてあるか』 なんて議論はナンセンスだよ。 素人さんはこれだから困る」 などと言うのだが、では実際どうやって添付文書を作っているのかをよくよく尋ねると、要は前例を真似ているだけだったりする。 あるいは、せいぜいが自分の美的感覚。

(注 1) 添付文書って、二色刷りくらいで印刷されたペラペラの紙 という意味だったり、薬事法上の概念だったり、あるいはそこに書かれている実質的な内容だったりする。 欧米の labeling とも微妙に食い違っている。 こうした文脈・意味論的な違いをきちんと踏まえて議論されていることって、ほとんど無い。

そのあたりをK君は順位のロジスティック回帰モデルできちんと分析してくれました。 米国の labeling を真似しているだとか、(海外ではなく)国内で副作用死亡例がでると企業の方々は強く反応するとかが示されました。 薬が集団に効くかどうかの仮想現実の世界では、自国民ではなく外人データの方が好きと公言する奇妙な業界人が多いのだが、実名の日本人の誰かの命がかかった副作用の世界ではそんな無責任な行動はとれないんだろうね。 結構なことである。 また、当時、イレッサ間質性肺炎の記載順位が最上位に (1番目に) 書かれたかもしれない確率は 0.11 だったという試算もなかなかに興味深かった。 よく頑張りました。

添付文書が企業の情報収集力といわゆる国際戦略の産物である可能性も示してくれました。 誰が作るかによって内容と情報が変わるのが添付文書。 面白いねぇ、これも。 

・・・ などと書くと、「そんなの、調べる前から分かり切ったことじゃないか。 どこが面白いんだよ?」 と陰口を言う業界人がどこからともなく湧いてくる。(注 2) でもね、それって典型的な後出しジャンケン、つまり、答えを見た上で常識による意味づけをしているだけではありませんか。 わけが分からんヒトは、何回か前に紹介したダンカン・ワッツの「偶然の科学 Everything is obvious* *Once you know the answer」(早川書房 860円) を読むべし。 我々が追求したいのは予測にも使いうる科学である。 常識による安楽な事後的・個人的納得とはまったく異質の、苦難の道である。

(注 2) 学会やD○Aの会場のトイレで、演者本人が何人か隣で用を足しているのに気付かずに、思いっきり演者の悪口を語る人がいる。 私も演者として何度も経験してる(笑)。 そういう人たちって、醜い裏の顔 (いや、それが表の顔か) がバレたことを知ると、二度と私に近寄ってこれなくなるのよね。 かわいそう。 「ちょっと待て 放○前に 右 左」 という標語には、単にトイレの清潔を保つ以上の意味がある。

K君、卒業おめでとう。 3年間のお付き合いありがとう。 卒業したら、君と僕は、混沌としたこの不愉快な世界をともに生きる同時代の戦友です。 名古屋のおいしい味噌カツでも一緒に食べよう。

本研究室にはもう一人、めでたく博士号を取得して卒業する社会人学生 Yさん (私よりも人生経験が長い) がいます。 Yさんの悪戦苦闘奮闘ぶりは、回を改めて。

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このブログを読んでいる皆さんで、「研究なるものをやってみて、学位を取りたいなぁ。 でも自分にできるかなぁ」 と悩んでいる方がいたら、いつでも遠慮なくコンタクトしてください。 研究・教育の世界には情報の非対称性があり、こちら側(大学・研究室・教員) の情報 (教育の質、教員の能力等) がすべてそちら側 (受験生など) に伝わっているわけではない。 

社会科学系の学問 (特に、いわゆるれぎゅらとりーさいえんす的な学問をするにあたって必須のエコノメトリクス、経済学、意思決定諸科学) をちゃんと踏まえて学生を指導できる先生や、そういう教育をきちんと受けられる講座を紹介するお手伝いはできますよ。 高い授業料と数年の年月を投資するんだもんね。 いろいろな選択肢を比較した上で、最終的に本研究室を選択して頂けるのならそれが一番うれしいが、無理強いはしませんのでご安心を(笑)。

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というわけで、また恍惚の論文書きの世界に戻るので、今日はこの辺で。

あ、面白かったマンガを紹介しておこう。 百姓貴族

百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)

百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)

以前から 「牛さんをペットとして飼いたいものよ。 牛車でゴトリゴトリと渋谷の道玄坂を下りたいものよ」 と思っていたのだが、この本を読んでますますその思いが強くなった。 問題はウチの狭い3DKには牛を入れる部屋が無いことである。 誰か都内でペットとして牛を飼っているヒトはおられませんか。 

もう一冊。 「月影ベイベ」。 あの名作 「坂道のアポロン」 の小玉ユキさんの最新作。

大人の心と子供の心の両方をうまく描けるんだね、この人は。