小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

英語では語らない

学生さんは春休みだろうか。 社会人になると休みの感覚が学生の時とは完全に変わる。 大学の教員は暇だと思われがちだが、案外そうでもありません。 土曜日・日曜日の仕事や講義が普通に入ってきて (私なんかは少ない方だろう)、会社や役所で基本が週休二日の生活リズムに慣れた身体にはむしろしんどいかもしれない。 学会の会議などは、平日は絶対に出席者が揃わないことがわかってるから、最初から土日で予定を尋ねられることも増えた。

製薬業界の (一部の) 皆さんは、働いている時間帯が異常ですよね。 欧米時間で毎夜電話会議を強いられている様を見ていると、ワークライフバランスなどという言葉が上っ面であることがよくわかる。 「月曜日の朝だけですよ、安心して予定が入れられるのは。 その時間帯だけはアメリカ人からメールで指示が来ない」 と深くため息をついている皆さん。 いっそ、米国・欧州時間に合わせて 「夜8時から朝5時まで」 と日本支社の就業時間を設定するよう社長にお願いしたらどうでしょう? 通勤ラッシュともおさらばでいいこと尽くめ。

365日24時間、会社支給のスマホを握りしめて、飲み会の途中も画面を時々愛おしそうに眺めている方々も多いですね。 その愛、一方通行でないことをお祈りいたします。

ある学生のアドバイスに従って、私も最近では知恵熱出る系の仕事(ややこしい分析、お勉強)をするときに、OutlookIE はブチッと切断することにしている。 たったそれだけのことで仕事がはかどる、はかどる(笑)。 しかし世の中には未だに 「あのさ、小野さん、今メールを送ったんだけど読んでくれた?」 と電話をかけてきて、サル的工夫を台無しにしてくれる輩がいる。 闘いは続くのだ。

*****

先日の朝の通勤路で、ビルの取り壊し作業をしている横を歩いていたら、突然頭の上から 「Hay, watch your step there !」 という大声が。 何かと思ったら、ショベルカーを運転している茶髪のあんちゃん (30歳くらい。 日本人) が作業中のヒゲのおっちゃん (外人) に注意をしていたのであった。 素晴らしい発音である。 ワシよりうまいぞ。 「おおっ、こんなところでも英語が普通に使われるご時勢なのか ・・・」 と感慨深し。

仕事で必要だから英語は使うが、しかし、母国語ではないから苦しい。 「英語で話していると、知恵レベルが6割程度になってるよなぁ、自分」 といつも思う。 日本語だったら、

「ほら、『巧言令色鮮し仁』 とかいうぢゃあないっすか」 だの、 「また両国は干戈を交えるのかねぇ、ふぅ」 

だのと実に深くニュアンスがいくらでも出せるのに、英語だと 

「上手に話すのは不誠実ね。 ワタシね、そう思うの」 だの、 「戦争するの、ダメね」

だのといった頭の悪い表現しか自分にはできないのが情けない。(注 1) というか、それ以前に、例えば

といった簡単な数式すら英語で伝えるのは四苦八苦したりして。 これ、スラスラ言えますか?

(注 1) 言うまでもなく、日本語に負けず劣らず、英語には実に味わい深い表現、深遠な言葉が山ほどある。 悔しいことに私がそれらを使いこなせないだけである。

20年ほど前、サル的なヒトはなぜか人工衛星の開発に携わっていた。 プロジェクトの進め方でちょっと日米がもめていた時、ある会議で日本のエラい先生が NASA の人々を前にして、

NASA の皆さん。 中国では 『角を矯(た)めて牛を殺してはいけない』 といいます。 我々も、角を曲げすぎて牛を殺してはなりません!」(注 2)

と、ややたどたどしい英語で一席ぶったのだが、NASA の人たちはまったく意味がわからずポカーン (゜o゜) としていたのを思い出す。 すっごく含蓄と愛情あふれた素晴らしいお言葉なのだが、マクド○ルド的産業感覚で牛さんを扱う米国人にはわからんだろう。 宇宙開発に牛さんはなかなか出てこないしな ・・・ 実をいうと当時の私もその表現を知らなかったので、NASA のヒトと同じ顔 (゜o゜) になっていたのだ(笑)。 先生、教養のない日本の若造で申し訳ありませんでした。

(注 2) むろん言いたかったことは 「プロジェクトの一部に多少変なところがあっても、それでプロジェクトすべてを潰すような愚かなことはやめましょうね」 である。

しかしブツブツ言ってみたところで、今の世の中は英語を使わないとメシが食えないのだから仕方がない。 音飛びのするスカイプを通じてペラペラと遠慮会釈なく話しかけてくる外人さん相手に四苦八苦しながら頑張っているおじさん・おばさん、ご苦労様です。 お互いがんばりましょう。 

*****

少し前に単行本が出たのに買い損ねていた本書が文庫に。

偶然の科学 (ハヤカワ文庫 NF 400 〈数理を愉しむ〉シリーズ)

偶然の科学 (ハヤカワ文庫 NF 400 〈数理を愉しむ〉シリーズ)

社会学における不確実性の扱いの例が楽しく書かれた良書。 社会学の固い教科書に書かれている伝統的な学説と最近の web 上で起きていることの対比が興味深い。 社会科学数百年の歴史的難題 (例: 因果関係) を知ってか知らずか、「れぎゅらとりーさいえんすなるものが大事」 と連呼し続ける医薬品業界の方々にはむろんおすすめです。 

社会っていうのはわからないことだらけ。 わかったような気にしてくれるのは常識のおかげ。 でも常識は事象の予測にはほとんど役には立たない。 という感じの内容です。