小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

斃(たお)れるのはいつでも若者

私を見ていれば想像がつくと思うが、ニポンの専門家、有識者っていい加減である。 言いたい放題、やりたい放題。 この国では専門家と称する人の言ったことを誰も検証しないからね。 世の中で起きていることを、自分に都合のいいように解釈して、それなりの理屈をつけて、自分がメシが食いやすいように大声を上げたり、本を書きさえすれば、誰でも専門家になれる。

医薬品開発がらみの世界って特にひどい。 ろくに産業構造・組織論や技術経営論を学んだこともない人たちが 「この国の新薬 R&D はこうあるべきだ ! 」 なんて大言壮語したり、ろくにマクロ・国際経済学を学んだこともない人たちが 「医薬品の輸入超過は問題だ ! 」 なんて力説したりするのを見ていると、遊園地の幽霊屋敷を舞台裏から見ているような虚しさに襲われる。

ニポンの産官学、みんな同じ臭い。 「学」 だって自分の詳しい領域を少し外れたら同じだ。 どこかで聞いた陳腐な言い回し (cliché) を小器用に並び替える耳学問の能力を持った自称専門家が、ニポンでは重宝されるのだ。 何か強迫観念に憑りつかれているかのように、見た目だけは新しい新政策や新プロジェクトを、まるで使い捨て品のように毎年毎年提案し続けるお役所や業界団体には、そうした能力の持ち主は欠かせないのですね。 誰も読みはしない、文字がギュウギュウに詰まったポンチ絵を上手に描けるのもその手の自称専門家だ。 自分もその一人だからよく分かる(笑)。

で、そうした専門家には、ニポンの本当の危機の到来を嗅ぎ当てる能力などむろん無い。

このグラフは、日本の薬学部を卒業した学生の就職先の年次推移である。 一目で、1990年代後半から、まぁなんとも無茶苦茶な変化が起きていることは明らかですね。 そう、薬学部の卒業生が製薬企業に就職できなくなっています (赤線)。 どうですか、こうして改めて眺めてみると、息をのむほどショッキングだと思いませんか? 「いやー、製薬企業が最近学生を採ってくれないらしいね。 大変だねぇ」 なんて飲み屋でビールジョッキ片手に語っている場合ではないという気がしてはきませんか?

ところで、この二十年弱の間、(薬学の) 専門家って、有識者って、このジェットコースター並みの変化を大騒ぎしてきたのだろうか。 「製薬企業で日本人が働けなくなる危機」 を明示的に取り上げて、例えば労働経済学者や知的財産のプロを集めて議論するシンポジウムを開催したりしてきたのだろうか。 せめて、この激流のごとき変化と将来生じうる危機をメディアに切々と訴えたりはしてきたのだろうか。 

答えは No. ですよね。 みんな傍観してただけ。 私もそうだった。 飲み屋の会話で 「外資系企業って、日本の研究所をみんな潰したんだってさ」 「新卒は、営業は採用してくれるけど、研究・開発には採ってくれないらしいよ」 なんて感じで、完全に他人事モードで呟いていただけだろう。 オジサン世代 (の専門家) たちって、業界に自分の椅子があって、メシが食えているのだから、次世代の若者の就職なんて所詮他人事なのである。

1990年代後半以降、ずっとこの国で起きていること。 むろん私たちはそれを肌身でよく知っている。 やれ「グローバル開発だ」、やれ「ICHだ、ハーモナイゼーションだ」、やれ 「米国進出だ」 という進軍ラッパがニポンの業界に鳴り響いていた2000年代。 でもそうした流れにおいて、日本人社員は (欧米での商売には全く役に立たない)高コストなお荷物となるのは必然だ。 企業の行動は正直だ。 そうした状況で、教育に金のかかる、役に立たない新卒のニポン人を積極的に雇用してくれるボランティア精神あふれる優しい会社なんて (たぶん一社も) 存在しないのよ。 会社が潰れるかどうかが心配なご時世だもの、当然だよね。(注 1)

(注 1) 「新卒入社、社内でじっくり人材教育」型の従来のニポン企業の効率を無条件で否定しているのではない。 その議論はまた別の機会に。

これって、おっさん世代が大好きな 「オールジャパン」 なんて言葉が、いかに偏狭で無意味かを示す良い例でもある。 「オールジャパン」 なんて言ってても、本心は、目先の利害が一致した仲間内だけの 「オールジャパン」。 我々の子供世代はその 「オールジャパン」 とやらにはそもそも含まれていないのね。 じいさん・おっさん世代って、冷たいね。 年金、雇用、資産、政治 ・・・ いろんなところで勝ち逃げしようとしている世代。 寒々しい社会格差を放置したまま、あの世に逃げ込もうとしているらしい。

「(あの神風特攻隊の) 指揮官たちは 『後に続く』 と言いながら、誰も飛び立たなかった。 エリートは前線に行かず、戦争を美化するんです」(毎日新聞 2014/10/24、保阪正康さんインタビュー)。

同じ構図だろう。 グローバル化の受け容れを美辞麗句で強制するおじいさん・おっさんの指揮官たち。(注 2) 現場で斃 (たお) れるのはいつでも若者。 いや、現場にすらたどり着けずに斃れるのが現在の日本の若者かもしれん。

(注 2) 私もおじいさん・おっさん世代の一員である。 現状に至った責任を間違いなく負っている。 責任の重大さに途方に暮れる。

*****

最近ちょっと忙しいので漫画は読めない ・・ のではなく、漫画しか読めないのがサル的なヒト。 情けないのだが、何も読まないよりはマシだ (と自分に言い聞かせる)。

新装版 寄生獣(1) (KCデラックス)

新装版 寄生獣(1) (KCデラックス)

寄生獣」、全10巻読了。 あー、面白かった。 下手な SF小説よりずっと面白かったよ。