小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

花の咲かない菊

時々、昔のことばかり考えて一日が終わってしまうことがある。 机の前で教科書を広げて、頬杖をついて、一見ヘックマンのプロビット選択モデルのことを考えているような顔をしてるけど、実は自分が小学生や中学生の頃のことを延々と何時間も思い続けている。

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小学校6年生の頃。 学校で各自が一鉢、菊を栽培することになったのである。 苗を小さなポットから自分の鉢に移し替えるところから栽培は始まる。 菊の栽培って、土がちょっと特殊だったり、肥料のやり方に気を使ったりで結構大変のなのである。 クラスのみんなが順番に当番で水やりもする。 春先から栽培が始まり、夏を経て、秋に大輪の花を咲かせることになる。

菊の種類は何種類かあって、自分の栽培している菊がどんな花を咲かせるのか、実は誰にも (先生にも) 分からないのである。 インターネットなんか無かった時代で、調べようもないし。 春から夏にかけて、菊はどんどん成長していく。 高さも 50センチほどになった。 育ちゆく葉っぱの形も愛おしい。

そんな夏休みのある日のこと。 プールに行った帰りに、いつものように自分のかわいい菊を確認しに行ったのである。 夏休みなので二、三日見てなかったのだが、・・・ おおっ、クラスのみんなの鉢もいい茎と葉っぱに育っているぞ。 えーっと、僕の鉢は、この段の左から三番目、と ・・・

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ポッキリ折れてる。

茎のてっぺんが、5センチくらい、ポッキリ折れている。 周りのどの菊も大丈夫なのに、僕の菊だけが、折れてる。

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それからの数ヶ月間の菊栽培の時間は辛かった。 水やりもしたし、肥料もやったのだけど、僕の菊がもうダメなのは分かっているのだ。 花は咲かないの。 絶対に。 だって、先っぽの花芽が折れてるんだもん。 先生には 「折れてました」 って言ったが、代わりの鉢 (菊) はもう無いので、先生にもどうにもならない。 複雑な気持ちでの折れた菊の栽培を続けた。 

皆の菊が、秋口に小さな蕾をつけ、それが秋の深まりとともに大輪の花を咲かせていく。 僕の菊だって、緑の葉っぱが立派に育つし、背も高くなる。 でも、花の芽はつかない。

秋に開かれる小学校の文化祭が、大輪に育った菊の花のお披露目会である。 廊下に、百鉢近くがズラリと並んだ大輪の菊の花。 みんなの菊には菊の種類名と栽培者の生徒名が書かれた短冊の飾りが付けられ、立派な順に金賞、銀賞、銅賞の張り紙が付けられた。 誇らしげに咲き誇る大輪の菊たち。

葉っぱしかない僕の菊は、廊下の一番端っこに、飾りも栽培者名の短冊も付けられずに、ポツンと置かれていた。

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世界に一つだけの花」 なんていう白々しい歌がある。 「世界に一つだけの花  一人一人違う種を持つ その花を咲かせることだけに 一生懸命になればいい」 だとか、「小さい花や大きな花 一つとして同じものはないから No. 1 にならなくてもいい もともと特別な Only One」 だとか。

「自分は成功者だ」 と心の中で思っているおっさんがこの歌を嬉しそうに歌っているのを見ると、なんとも言えぬほどイヤな気分になる。 いや、吐き気がする。 立派な花を咲かせることに成功した人たちが、お花を見せびらかして 『 別に自慢してるんじゃないのよ。 私の花も、あなたの花と同じ、特別な Only One なだけなのよ。 一緒に鑑賞してくれる? 』 なんて言っている光景。 私は遠慮しときますわ。 あんたみたいな醜悪なヒトのそばには一秒でもいたくない。


今の世の中、まともに自分の花なんか咲かせられない人たちの方がずっと多いに決まっているじゃないか。


組織の上司や同僚から何年も何年もイジメられて、心が貝のように閉じてしまった人。
親や夫・妻が認知症や大病を患って、介護で身も心もボロボロの人。
先生や同級生にイジメられて学校に行けなくなってしまった学生、子供。
渋谷109の外で、ダンボールで寝ている何十人ものホームレスのおっさん・おばさん。
満員電車で 「自分の人生はもう終わりか」 と呟く老人。
「あなたの働くポジションはもう無い」 と組織から通告されるサラリーマン。
戦争好きのキチガイおやじの犠牲になっている世界中の人たち、子どもたち。
生活が立ち行かなくて、故郷を離れなければならない過疎地の人たち。

僕がブログで本当に話しかけたいのは、そういう人たちである。 声は直接には届くまい。 そういう人たちはそもそもインターネットのブログなんか読まないし、読めないのだ。 それを承知で僕はブログを書く。

ねぇ皆さん。
花なんか咲かせる必要ありませんぜ。 ただ太陽の光を受けて少しばかりホクホクし、気まぐれな風を受けて泣きそうになり、雨が降ればオロオロとただずぶ濡れになって、毎日そこにじっと這いつくばっていればいいのよ。 それだけで、あなたと私は、この世界の同じ時間を共有する立派な友だち。

葉っぱの一枚でも身に残っていれば、それで上等だ。


このブログ、200回になりました。 いつもご愛読ありがとうね。

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このマンガがすごい!」女子部門1位の ちーちゃんはちょっと足りない とても素晴らしい。

これって子供のお話のような形をとっているが、実は大人のお話でもある。 ほら、あなたもビジネスと称して、いろいろと社会に対する悪事を働いているでしょ? その時の気持ちの揺れが、このお話の登場人物のある女の子とおんなじである。 1千万円を超す給料をもらっているのに、まるで餓鬼道の亡者のように 「まだ足りない。 まだ足りないよぉ」 って呟いている人たちがいるでしょ? このお話に出てくる女の子たちとおんなじである。 人間、どこまで行っても足りないのだ。 いろんなものが。

ぜひご一読を。 おすすめです。