小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

製薬企業の皆さん、頑張って!

例の企業向けの無料出張講義、今、四谷あたりにある某社で実施中である。 受講生の皆さん、とても熱心に講義を聞いてくれるので嬉しいです。 私の真ん前の最前列の席はどの会社でも敬遠されるのだが (質問が最初に当てられるからね)、暗黙のうちにその席に座らせられているY下さん、及び、T田さんには心から 「お疲れ様です」 と申し上げたい。 上司の方々、彼らの自己犠牲の精神に鑑みて、次の業務評定で3%くらいは上乗せをお願いいたします。

前回話した消費者余剰 (consumer's surplus) の概念、どうですか、理解できましたか? そう、あれです。 K下さんが、身を削って (笑) 自分のチョコレートケーキ愛を語り、ホワイトボードに数値化してくださった、あれです。 商品を市場で買うと消費者が幸せになるのはなぜか、そして、幸せの大きさはどのくらいなのかを知るためのフレーム、面白かったでしょ?

余剰の概念が理解できれば、その先の社会の幸せ (厚生 welfare) をどう考えるかの世界に踏み込む基本ツールを手にしたことになります。 貴社は製品を売って、お客さん(患者・消費者)を幸せにしているわけですが (そうですよね?)、なんと驚いたことに、これまで皆さんはそのビジネスの基本を定量的に説明する構図・枠組みを持っていなかったわけですよ。

いや、別に皆さんが特別というわけではありません。 私の無料出張講義を受けた11社500名ほどの方々以外の業界人 (含む当局職員) のほとんどはそんな枠組みなんぞ知らないし、興味を持ってもいません。 驚くべきことに。 そうした概念無しに、成長戦略だの、医療立国だの、グローバル戦略だのを語っても、そんなもの単なる我流の信念の吐露に過ぎないのに。 誤解しないでほしいのだが、「我流」 が悪いのではないのよ。 ダメダメなのは「吐露」の仕方。 誰にも理解も共有もされない、独り善がりの言葉で、あなたのオリジナルな考えを主張したって、そんなもの誰にも伝わらないってこと。 業界のシンポジウムで 「これからの日本はこうあるべきなりぃ!」 なんて力説しているおじさん方が多いけど、伝わるのは熱意だけで、ほとんどは何が言いたいのかが全くわからないよね。 そういうこと。

さて、次回の講義では、もう一方の余剰、生産者余剰の概念やレントやサンクコストやらの概念を 「正しく」 かつ楽しく学びましょう。 そしてね、なんと受講生の皆さんは、前回の倫理の講義でパレート最適の概念を学んだから、市場が何を達成するかに関する経済学の最大のご本尊、厚生経済学の第一定理、第二定理も 「正しく」 理解できるはずなのです。 そのあたりの概念まで、教えます ・・・ 時間が許せば

あなたたちの成長が、未来の人類を救うことになるかもしれない。 頑張って!

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今日の後半は、「ダメだ、こりゃ」 と国民1,500万人がいかりや長介風に呟いた (はず) のニュースで締めくくろう。 この記事、○売新聞で読んで 「いかにも政府広報紙の書きそうなことだなぁ」 と思ってたら、テレビなどのメディアも同じように報じているのね。 驚いた。

認知症、国家戦略を決定…全市町村で初期支援 (2015年1月27日 読売)

 政府は27日午前、認知症対策についての関係閣僚会合の初会合を開き、手薄だった発症初期や65歳未満の若年性認知症への支援強化を柱とする国家戦略(新オレンジプラン)を正式決定した。 認知症の人が約700万人になると見込まれる2025年度までの取り組みをまとめたものだ。
(中略)
 国家戦略は公的サービスがほとんどなかった発症初期に関し、専門医の指導を受けた看護師、保健師が自宅訪問して相談や支援にあたる「初期集中支援チーム」を17年度末までに全市町村に作ることや、若年性認知症の相談窓口を同年度末までに全都道府県に設けることを盛り込んだ。 20年頃までに日本発の根治薬の治験に入る方針も明記された。

テレビのニュースに対していちいちブツブツ怒っているサル的なヒトを、ふだん、醒めた目で見ている家人ですら、このニュースを見て、「アホか」 と呟いたのには驚いた。

あのね、私たち (将来の) 患者にとっては、「日本発」 なんてどうでもいいのよ。 外国の薬とか、日本の薬とか、そんなことどうでもいいから、効く薬 そして 安い薬 を売ってください。

「やったー! 政府発表の中に、治験の話を織り込ませて大成功だ。 これで予算 (研究費、医療費) の分捕り合戦で有利になったぞ。 なんたって 『国策に盛り込まれている』 っていうアリバイができたからな」 って大喜びしている一部の方々には申し訳ないのだが、この 「20年頃までに日本発の・・・」 ってヤツはダメですよ。 だって、あまりに見え透いているんだもん。

「日本発」。 何かっていうと必ず 「日本の医薬品の輸入超過が問題だ」 から話を始める、17世紀の重商主義者も真っ青の、時代錯誤のニポンの医薬品業界人が大好きな言葉。 いや、私だって好きだし、応援してますよ、「日本発」。 口先だけでなく、本気で行く末を心配していることは前にも書いた(例えばこれ → 2013-07-13 - 小野俊介 サル的日記)。

でもね、現に何百万人もの国民 (患者、家族) が今日も明日も死ぬほど認知症で苦悩しているってのに、明々後日 (しあさって) くらいの方向からユルーく 「で、ちょうどいいタイミングなんでね、ここらで日本企業を支援しますよ」 「日本人の研究者限定で支援しますよ」 っていうのは、そりゃダメですよ。 「なんだよそれ。 カンケーないじゃん。 悪乗りするのもいい加減にしろよ、生産者の論理の権化ども!」 って思われちゃうに決まってるじゃないか。 

モノの言い方も不謹慎なのね。 どれくらい不謹慎かっていうと、ふだんはジャニーズの嵐の番組見ながらキャーキャー言ってるうちの家人にすら 「アホか」 と見透かされるほど不謹慎。 私も同業者 (薬をネタにメシを食っている業界人) の一人だが、ここまでシンプルにビジネスの論理優先を宣言するのはさすがに憚られる。

いずれにせよ、外国の製薬企業さん。 外国の研究者の皆さん。 頼むから日本を見捨てないでください。 

バカのひとつ覚えのように 「日本初・日本発」 と時代錯誤の尊王攘夷主義者にように喚 (わめ) いている株式会社ニポンの社員は、実は少数派なのですから。 そんな連中は国会議事堂近辺や日本橋界隈、そして新聞社・テレビ局周辺に住むほんの一握りだけ。 日本中に住んでいる一億三千万人の (将来の) 日本の患者は、全員、あなたたち外国の商品を待ってます。 だって、あんたら外国企業は新薬を作る仕事では本当に頼りになるからな。 認知症の良い薬を、外資企業ならではの剛腕で、早く開発してください。 HTAと称して薬価をべらぼうに下げる動きにしても、こんなに何年もグズグズしてるお人好しの日本って、製薬企業にとっては実にありがたい国でしょ?(注 1) だからね、ちゃんと治る抗がん剤とちゃんと治る認知症の薬を、なんとか早く日本で売ってくださいな。

頼むぞ、マジで。

(注 1) グズグズしてるのは、「なんでも欧米から10−20年遅れないと制度を受け容れない」主義、決断力不足、調整力不足、学力不足、専門家不足 (つまり国力不足) のおかげであって、積極的にそうしているわけではないところがビミョーなのではあるけど。