小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

無料出張講義をする理由

完全無料出張講義 「医薬品開発に必要な概念を学ぶ (全10回)」、今も継続中である。 高田馬場あたりのファイト一発系の会社さんと、四ツ谷あたりの会社さん、そして虎ノ門ヒルズあたりの会社さんでももうすぐ始めます。 これまでの実績、計13社さんである。

「なんでそんなことやってんの?」 と尋ねられることがよくある。 「大変でしょうねぇ」 などと言いながら、心の中で 「こいつ、よっぽどのバカか、酔狂か、暇人か」 と嘲笑う人たちもいる。 「そんなことやっちゃいけないよ、小野さん」 となぜか怒り出す人たちもいる。 「そんなことやっちゃいけない」 にもいくつかのニュアンスがあって、

(1) 「無料」 なんてダンピング・安売りして、オレの客を奪うなよ。 あとさ、講演や講義の謝金の相場を乱すなよ。 講演や講師でお金を貰っている人たちみんなに迷惑がかかるだろ、おい! (つまり、「お前のやっていることは、同業者には迷惑なんだよ!」)

というきわめて正直な声もあれば (陰口叩く連中よりはずっとマシだ)、

(2) 「無料」 だと聴衆・受講生の側が真剣に話を聴かないから、教育効果に問題が生じて、結局、講演・講義の質を下げてしまうことになるよ。

という教育の質・インセンティブを踏まえた私へのきわめて真っ当なアドバイスもある。 (2) をいつも指摘してくれるのは、昔からの私の数少ない友人たちである。 ちなみに私には友人が3人しかいない。 本当にありがたい。 確かに指摘のポイントは重要だ。

ただし、その点に関しては、医薬品業界の研修(D○Aやら、○○学会やら) では、製薬企業や規制当局の社員の研修費用・受講費用は会社が丸ごと負担するのが普通で、個人の限界的な (注 1) 費用負担なんてないのが普通だから、無料にしたところで、受講者のやる気が落ちるとは思わないのである。 問題はむしろ、会社丸抱えで・会社から命じられて受けさせられる類の研修では 「受講生の元々のベースラインのやる気 morale が著しく低い」 のをどうするか、の方なのは明らかだ。  

(注 1) marginal の概念ね。 経済学の講義で教えましたね。 分からない人は復習すること。

言うまでもなく、謝金を 「0円」 にすることの影響は講師の側に出るはずなのである。 講師のやる気とか、講師の質そのもの、とかね。 「『謝金0円』 で小野センセはやる気が出るの?」 と聞かれれば、「謝金以外の条件が同じならば (ceteris paribus)、貰った方が嬉しいし、やる気も出るに決まってるじゃん」 と答える。

でもね、「無料」 を前提にしないで (つまり「有料・謝金あり」の) 研修を企画しようとすると、そのこと自体の影響で、いろいろなところが歪むのよ。 例えば、受講者の構成。

「無料」の現状だと 「小野さんが無料で講義やってくれるらしいぜ。 アホやなぁ、あの人。 でもさ、あのヒトの教える分野のことに興味あるんだよね、自分。 忙しいんだけど、ちょっと出てみようかなぁ」 という感じ。 いいでしょ、この感じ? だって自分から学ぼうとするんだもん。 これを 「有料」 にするとどうなるか。 たぶん、人事課などの業務命令で渋々参加する人が増える。 会社の業務とは 「一見」 無関係なことを教えられるとイライラするような、即物的で短気な受講生 (つまり、伸びしろの無い受講生) が増えるだろう。 そんな人たちはあまり教えたくないなぁ。

あとね、「有料・謝金あり」 の世界にすると、「あんた(=サル的なヒト)、金貰って商売でオレたちにモノを教えてるんだろ? だったらもっと役に立つことを教えろよ! もっと分かり易く教えろよ! 資料を詳細に作れよ!」 などと主張する、とても不愉快な受講生も確実に増えるのよ、経験上。 権利意識の権化のような人。 あるいは自分たちを 「お客さま」 だと考える人たちね。

教育を 「教育の提供者(教員・講師)」と「お客さま (学生・受講生)」 の構図でとらえることはできる。 が、私はその構図にいつも与するわけではない。 ハーバードビジネススクールの先生が好む、もう一つ別の教育の構図がある。 それは、学生・受講者は教育のアウトプット、すなわち教員・講師の生産した 「商品」 であるという構図である。 質の高い立派な 「商品」 を生むことが、社会における教育の価値だという考え方だ。 「自分はお客さまだ」 とふんぞり返っている受講生に対しては、「あなたは欠陥商品だから、品質管理上、排除しますね」 と当然に言わせてもらうつもりである。(注 2) それを胸を張ってきちんと言うために、謝金は一切頂かないのだ。

(注 2) 実際にそんな失礼なことを口走ったことは一度も無いので、ご安心ください(笑)。

というわけで、完全無料で90分×10回もの講義を提供するのは、単に私のやる気レベルの話だけではない、ちゃんとした理由があることをご理解いただけただろうか。

皆さんの働く会社のオフィスに 「出張する」 のにも当然ながら理由がある。 こちらは分かり易い。 人間誰しも移動するのは疲れるし、時間がかかるし、面倒くさいし、イヤなのよ。

現代人って、ほんの数メートルの移動だってイヤで、メールで済まそうとするでしょ? 「あなたにとってすっごく役に立つこと教えますから」 って言われたって、会社から大学 (文京区本郷) まで1時間、電車に乗ったり歩いたりするのかと思ったら、もうそれだけで諦める人が多いでしょ? 夏場なんて都心のあの炎天下の大通りを歩くと想像しただけで震えがくるでしょ? だって、ほとんどの社員には、エアコンが効いた快適なオフィスで、快適な椅子に座って、パソコンのディスプレイを眺め、コーヒーを飲みながら安楽に仕事をする (ふりをする(笑))、という超楽チンな選択肢が常にあるのだから。

だったら私が行ってやろうじゃないか。 私には足がある。 トコトコ歩いて、電車に乗って、1時間かけて、たどり着いてみせましょう、あなたの快適なオフィスに。(注 3) それならどう? ・・・ と尋ねたら、「うん、それなら勉強しますよ。 ぜひ勉強させてください」 という人たちがわんさかといることが実証された、というのが、私の日本初の試みの成果でもあるのだ。 面白いでしょ? 

(注 3)そう言えば2年前、死にそうな炎天下に、JR大崎駅からD社開発部門に研修で向かう途中に、経路を間違えて遭難しかけたことを思い出した。 「出張」 するのはやはりエラいことなのだ。

私の無料出張講義って日本初の試みである。 他人には絶対に真似できない (そりゃできんわな(笑))、オリジナルなアプローチである。 だから楽しいのよ。 こうしたやり方をバカにしたい奴はバカにして結構。 他人と同じやり方で、同じことを繰り返して、お金が多少儲かったところで、何が楽しい? 寄らば大樹の陰で、お偉いさんや権力者にすり寄って、身内で甘い汁を吸うスキームを作って、 ・・・ なんてのもまっぴら御免である。 それって全然 楽しくない もん。 

無料出張講義をする理由は他にもいくつかあるのだが、長くなってしまったので、今日はここまで。 また次回以降に。