小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

細マッチョと対偶

前にも何度かこのブログに書いたが、私は製薬企業に私自身が出向いての出張講義を、半ば自分の使命だと思ってやっている。 全10講義からなるシリーズものだ。 これまで6社で実施した。 完全無料でのご奉仕である。 いや、正確に言うと大学から会社までの交通費は最近は頂くことにしている。

最初の数社については交通費すら貰わなかったため、毎回講義に行くため電車に乗るたびに、 「あのね、オラの suica から毎回なぜか地下鉄代の 190円が消えていくんですよ。 いや、別にいいんですけどね、それくらいの額。 別にね、気にしてないから ・・・ 」 と suica のペンギンさんに向かって呟いたものだった。  ・・・ 小さいよ。 小さすぎるよ、サル的なヒト。 歴史に名を残す人物には絶対になれないぞ、サル的なヒト。 (注 1)

(注 1) ほっといてくれ。 余計なお世話である。

念のため申し上げておくと、交通費自腹の状況になったことについて、企業の担当者の方にはまったく責任はない。 すべて私のせいである。 担当者の方に 「あぁ、交通費はいりませんよ。 貴社は通勤経路にありますからね」 なんて調子のいいことを言ってしまった私が悪かったのです。 実は、通勤経路から少し外れていたのだが、調子のいいことを言った手前、後から 「いや、実は、ほんの少し電車賃がかかるんですよ ・・・ 190円くらい ・・・」 って言えなくなってしまったのだ(笑)。

「なぜそんなボランティアをしてるの? 仮に売名行為にしても効率が悪すぎでしょ?」 と疑問を持たれる方も多かろう。 一言で説明するのは難しいのだが、私がこのような研修をやるのは、ほとんどは義理人情である。 友情と信頼ベースである。 私という人間を信頼して、教育・研修に活用してくださる方々への恩返しである。 日本人としての自負もある。 外人にボコボコにされがちな医薬品研究開発の現状への応援歌でもある。

そして、イノベーション推進のための人材育成のあり方を考えるべきである」 とか格好の良いことは何年も言われているが、実際にはまったく人材が育てられているようには見えない現状への、教育現場からの問題提起でもある。 育成のあり方や育成方針を考えているだけでは、人材は育成されないのよ。

もっともその点に関しては、それ以前の問題として、「『イノベーション推進のための人材(育成)』 って一体なんだよ、それ?」 というところから突っ込みをいれるべきである。 『日本経済活性化のための人材(育成)』 とか 『地球温暖化を防ぐための人材(育成)』 とかいうのと同程度に無意味であることに、そろそろ皆が気付いてもよいと思います。 議論のための議論ばかりしてるから、その無意味さに気付かないんだろうね。

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で、どういうことを教えているかというと、例えば、次のようなことを復習してもらっている。

これはシリーズ後半の 「論理と推論」 に関する講義の一スライド。 中学か高校で習ったはずである。 懐かしいでしょ? 甲州街道沿いの世界一の製薬企業の某社での講義では、受講生 (女性) と私の間で次のようなやりとりが展開された。

私: では具体例で考えてみましょうか。 その方が考えやすいからね。 そうですね ・・・ こんな例はどうかな。 「A: 男である」 で、「B: マッチョである」 としましょう。 論理的に正しいかどうかをいろいろ考えてみましょうね。 まず、形式論理でいう 「逆」 は?

受講生: えーっと、BならばAだから ・・・ 「マッチョならば男性である」 ・・・ うーん、なんだかわけがわかりません。 

私: ・・・ う、うん。 確かに何のことかよくわからん。 では 「裏」 は?

受講生: 「A でなければ Bではない」ですよね、だから、 「男でなければ、マッチョでもない」? ・・・ 新宿二丁目にいる中間的なヒトたちのことですか? 小野先生、これって、なんか単に話をややこしくしてるだけじゃないですか?

私: (焦りながら) い、いや、違うんだ。 違うはずだ。 論理を信じなさい。 次の 「対偶」 を考えてみようぢゃあないか。

受講生: 「対偶」 は、と ・・・ 「マッチョでなければ、男じゃない」 かな ・・・ いや、それは変です。 明らかに間違いです。 だって、 世の中には細マッチョがいます! 

私: (虚を突かれて) そ、そうですね。 細マッチョという反例があるよね。 つまり、・・・

受講生: 「男性ならばマッチョである」 は誤りということですっ! そうか、こういうふうに論理は使うんですね。 対偶ってすごい! 

私: ・・・対偶がすごいというよりは、むしろ細マッチョ ・・・

いかがでしょうか。 すさまじいまでのお笑い白熱講義だ。 サンデル教授も真っ青に違いない。 あなたもこういう講義に参加したくはありませんか? ・・・ 参加したくない? あ、そう。 (注 3)

(注 3) いや、講義では細マッチョの話だけではなく、認知心理学社会心理学の様々な理論と興味深い知見をちゃんと教えていますのでご安心ください。

まじめな話に戻すと、例えば論理学を構成する様々な用語・基礎概念をある程度知っておくことは、薬効評価の結果を社会に提示する上で欠かせない基礎学力だったりするのである。 それが十分でないから、前回のブログにお寄せいただいたコメントのご指摘 (例えば、一つ試験が成功すると 「この薬の有効性が検証された」 と何のためらいもなく断言してしまう 等) のようなことがこの業界で起きてしまうのだろうなぁ、とも思ったりする。

日本の医薬品開発に携わる産官学のすべての皆さん。 がんばって勉強しましょう。 そして、タフに生き残りましょうね。 これからも私は喜んで、そして真剣にお手伝いしますから。

出張講義を聴きたいという方は遠慮なくコンタクトしてください。 いつでも相談に乗ります。