小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

冷や飯なんぞ黙って食えばいいのだ

油断している間に、すっかり涼しくなりました。 皆さんお元気?

先週、国会あたりで無茶苦茶なことが起きたわけだが、頭にきてもすぐに忘れてしまうのがニポン人。 何割かの人たちはそもそも無茶苦茶なことが起きたとも思っていないわけだしな。 冷や飯食わされるのが怖くて、権力を持っているオッサンには決して歯向かわないらしい方々で構成されている政党が与党の国って、中国や北朝鮮やロシアと本質的に大して変わらんよな、と思う。(注 1) ニポン人が一番怖いのは、戦争リスクでも、法治主義立憲主義が壊れるリスクでもなくて、仲間内で冷や飯を食わされるリスク (笑)。 なんとご立派な国民だ。

(注 1) 「安保法制は 『本気で頑張れば変わる』 自民党議員が改正の可能性に言及」 (Huffington Post 2015年10月3日) だとさ。 問題意識を持っているだけマシなのかもしれないが、「いや、あのさ、あんた国会議員なんだから、採決のときにそう言えよ」 と突っ込まれて当然だよね。

社会人になって以来、自業自得の冷や飯を食い続けているサル的なヒトの目からすると、ニポンのオヤジ連中の「冷や飯恐怖症」 って、ほとんど病気である。 社内・役所内・大学内の主流派から外れたり、権力者に嫌われるのが死ぬほど怖いのね。 出世できなかったり、陽の当たるポストから外されるのが死ぬほど辛いのね。 業界団体や学会で甘い汁を吸うお身内インナーサークルから外されるのが死ぬほど恐ろしいのね。 アホくさ。

温かかろうと冷たかろうと、メシを食うためにしなければならないことはたくさんある。 嫌味な上司や無茶を言うお客さんに作り笑顔で応対したり、誰もやろうとしない汚れ仕事や憎まれ役を引き受けたり、私生活を犠牲にして残業したり。 しかし、たかが 「温かい」 メシを食うために、ヒトとしてやってはいけないこともたくさんある。 例えば、あなたの大切な信念にあなた自身が嘘をつくこと。 自分の中の正義の芽を潰すこと。 民主主義、公正、学問の価値といった大問題について思考停止すること。 信念・信仰・見解を異にする人たちを抹殺したり、抑圧したり、いじめに加担すること。

冷や飯歴数十年のサル的なヒトからアドバイスをしておこう。 冷静に考えてごらんなさいな、世の中のほとんどのヒトは冷や飯食いなのよ。 残念ながら、組織人のほとんどは、組織にとってはいてもいなくてもいい人材なのである (むろん私もね)。 しかし、そんな事実は素直に受け容れてしまえばいいのよ。 そう、あなたも私も程度の差こそあれ、冷や飯食い。 受け容れた上で、四の五の言わずに、男は (女もね) 黙って堂々と冷や飯を食えばいいのだ。 冷や飯だって、レンジでチンすれば何の問題もなく美味しく食べられる。 焼き飯なんて冷や飯の方がうまくできるんだぞ。

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本会議の採決で、喪服を着て、数珠を持って、焼香の真似をした山本太郎議員が叱られたというニュース。 「今度同じようなことをすると議員クビにするからな!」 と議長に怒られたらしい。 思いつきで妙な行動をするこのにいちゃんを弁護する気はさらさらないが、行動の不謹慎さをいうならば、委員会や本会議の採決の後で万歳三唱をする阿呆議員どもも同じだよな。 山本太郎よりもはるかに醜くて、気持ち悪い。 

とてもややこしい問題について国論が大きく割れて、そのことに多くの人たちが心を痛めているのに、採決直後に 「万歳! 万歳!」 と大声で喚(わめ)く無神経さ。 あの連中には、せめてテレビに映されている間くらい 「採決は苦渋の決断でした」 って言いながら、苦渋の表情を浮かべて応対する程度の猿知恵すら無いらしい。 身内だけになってから乾杯でも万歳でも何でもすれば良いのにね。 その頭の悪さが私には心底恐ろしい。 アジア近隣諸国から骨髄に徹する恨みを (理不尽に) ニポンが買う理由も、その辺にあろう。

昔から気付いてはいたが、与野党問わず、国会議員のおっさんたちって、ほんと万歳が好きである。 いや、議員に限らず、昔からニポン人はバンザイ好きだ。 選挙に当選したら万歳! 結婚式で万歳! 左遷されるサラリーマンの送別会でも万歳! 出征する兵隊さんに向かって万歳! 「捕虜になるな。 とにかく死ね!」 と命じられた軍人さんは、焼けクソで最後の突撃をしながら、万歳! ・・・ 民族的ビョーキである。 ちなみに、新薬開発においてブリッジング戦略をとる場合には、ニポン人の万歳行動に関する相違を民族差の外生的要因として考慮しなければならないとICH E5ガイドラインにも例示してある。

富士には月見草がよく似合うように、万歳好きのニポン人には、選挙の結果を受けて 「○○党大勝!」 だの 「与党大敗!」 だのと、「赤勝て! 白勝て!」 の幼稚園の運動会のアナウンス並に国民を煽る低劣なメディアがよく似合う。 同レベル。 ため息がでる。

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漱石先生の 「坊ちゃん」 を子供の頃に読んだことのある方は多かろう。 あのお話の中に 「うらなり」 という登場人物がいたことを覚えていますか? 英語の先生で、名前を古賀さんという。 大人しく、争いごとが嫌いな性格で、青白い顔色をしているので、主人公の 「坊ちゃん」 に 「うらなり」 というあだ名をつけられた人。 作中では、教頭 「赤シャツ」 の意地悪・横恋慕で、許婚の 「マドンナ」 から引き離され、九州に転校させられてしまう悲劇の人物である。


うらなり (文春文庫)

うらなり (文春文庫)

「うらなり」(小林信彦著) は、古賀さんがその後の自分の人生を語った作品である。 登場するのは、数学教師で 「坊ちゃん」 の仲間だった 「山嵐」 ほか数人のみ。 作品中では 「坊ちゃん」 は名前すら思い出してもらえない存在だ。 「五分刈りで、江戸弁を話し、松山で独りで勝手に大騒ぎをして、いつの間にか東京に戻ってしまった、短気で思慮分別を欠いた男」 として語られるのみ。 

結婚、出産、妻の死去 ・・・ 特段ドラマチックなことなど起きもせず、淡々と流れる古賀さんの人生。 かつて愛した 「マドンナ」 の老いた惨めな姿の描写が哀しい。 そして、作品の最後の二行の重み。 名作です。 ぜひご一読を。

僕もあなたも、みんな 「うらなり」 だ。 特段ドラマの起きぬ人生を歩んで、時がくれば死んでいく。 それでいいのだ。 加えて、皆さんがこの先何十年かして、何かの折にふと 「ああ、そういえば何十年か前に、ブログでわけのわからんことをギャーギャーわめいて、いつの間にかどこかに消え去ってしまった男がいましたなぁ。 名前は思い出せんが。 サルとかなんとか言ってましたっけ ・・・」 などと呟いてくれれば、サル的なヒトとしては十分に幸せだ。