小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

人生を見送る・見送られる

「涼しい」 を急に通り越して、「寒い」 の世界に突入した感がある。 皆さんお元気? 今年のカブトムシは2匹のオスちゃんがまだ元気に生きている。 カブトムシ飼育歴4年のベテランのはずが、なんと今年はペアリングに失敗し、一個も卵が生まれなかったのである。 オスとメスの相性がよっぽど悪かったらしいが、生き物だから仕方ない。 人間も同じ。

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先週末は教え子の結婚式に出席。 新郎のYくんは研究室を3年ほど前に修士で卒業。 誰が見てもさわやかで、心優しい好青年である。 新婦さんもとてもおきれいでした。 まさにわんだほー・かぽーである。

僭越ながら、乾杯の音頭のご依頼を受けたのである。 数日前からマナー本とインターネットで 「乾杯の音頭の正しいとり方」 を入念に予習。 当然である。 ご両家をはじめとする多くの人たちの人生が交じり合い、魂と魂が触れ合う大切な儀式なんだもの。 そこらの学会やビジネス会議などとは荘厳さが違うのだ。

マナー本を読むと、「乾杯の前には40秒から2分以内で、心に残る深い印象を参列者に与える挨拶をすること」 と書いてある。

ふむふむ、40秒から2分か ・・・ ふふふ ・・・ 「それでは乾杯の前に、ほんの一言だけご挨拶をさせて頂きます」 って言いつつ、懐からおもむろに巻物に書かれた原稿を取り出すギャグ、ちょっといいよね。 なぜか慌ててその巻物を落っことしてしまい、コロコロと数メートル広がったりして。 「ああっ!」 とうろたえながら追っかける自分。 苦虫を噛み潰した顔をしてそれを見つめる参列者たち ・・・ ふふふ 楽しいなぁ。 ふふふ ・・・ (注 1)

(注 1) 「誰かの結婚式でこれを実際にやりたいなぁ」 と教え子のHくんに話したら、「先生、それはとても危険です。 たぶん、小野先生の出番の前か後に、ギャグじゃなくて、リアルな長話のおじさんがいる可能性が高いです。 血見るといけないので、止めておいた方がいいです」 と冷静なアドバイスを受けた。 私の教え子はかように優秀である。 指導教員が素晴らしかったからだと思う。

・・・ と、式の前夜に例によって妄想モード全開のサル的なヒトだが(注 2)、その怪しい含み笑いに気付いた家人から 「あんた、今、不謹慎なこと考えてたでしょ? いい加減にしなさいよ!」 とすぐに厳しく叱られたので、反省して、その後できちんとした挨拶案を用意したのである。

(注 2) 危険な妄想 - 小野俊介 サル的日記 参照。

で、当日。 受付で頂いた座席表には、新郎新婦の簡単なプロファイルとYくんのコメントが添えられていた。 「Q. どんな家庭にしたい? A. 早寝早起きの家庭。」 ププッ。 彼らしい素直な良い答えだなぁ ・・・ と大笑い。 「早寝早起き」 って、まったくもう ・・・ 早寝早起き ・・・ ん、早寝早起き? ・・・ ああっ、そうだ! あの時、確かに俺は早寝早起きの重要性を理解したのだ ・・・ と、いつの間にか頭が回想モードに。 そして、司会者に促されるままに、そのままフラフラと乾杯の挨拶に向かう。

ええっと、Yくん、Mさん、ご両家の皆さま、本日は本当におめでとうございます。

Yくんのコメントにある 「早寝早起き」、これは大切ですよね。 忘れもしない26年前の、結婚式が終わって、新婚旅行から帰って来て、職場復帰して、最初の週末。 僕も26年前には新婚さんだったのです。 その頃私は○○省というお役所で働いていたのですが、まぁ労働基準法などとは無縁の徹夜上等!の職場だったので、週末 (土曜日) は、死んだようにお昼過ぎまで寝ているのが常だったのですよ。 そうしないと身体が持たないので。

で、その新婚生活最初の土曜日の朝のこと。 ○○省は新婚家庭も仕事で配慮なんてしてくれないので、前の晩はいつもどおり、タクシーで深夜2時とか3時とかに帰って来て、そのまま爆睡したのです。 で、土曜日のお昼、12時過ぎに目を覚ましたわけです。 さすがにちょっと浮ついた気分で 「あー、結婚したんだなぁ、オレ」 なんて思いながら。 で、嫁さんの姿を探したのですが、見当たらないし、物音もしない。 どこにいるのかなぁと、布団から起きだして隣の部屋に行ったら、嫁さん、部屋の隅の方を向いて、黙って正座してるんですよ。 ん? なんかおかしいぞと思って、近づいて顔をのぞいたら ・・・ なんと、シクシクと泣いているんですよ。 

びっくりして 「どうしたの? なんかあったの?」 と尋ねても 「なんでもないっ!」 としか言わない。 なんでもないわけないですね。 誰がどう見ても 立派な国家非常事態宣言 (笑)。 で、恐る恐る話を続けたら、嫁さんが泣いている理由がやっと分かりました。

曰く、「新婚家庭というものは、週末は朝早く起きて、一緒に朝ごはん食べて、一緒に散歩に行ったり、買い物に行ったりするものと思っていたのに、このヒト (注 3) ときたら、死んだように眠りこけて、いつになっても起きる気配がない。 こんな理不尽な新婚生活があっていいものかと、なんか無性に悲しくなってしまったのよ」 だって。

(注 3) 当時は 「このサルは」 と呼ばれてなかったような気がする。

ガ━━(゚Д゚;)━━ン! 

おなごって、そんなことでシクシクする生き物なのか、と、こちらも心底ビックリしたわけです。 その時の新鮮な驚きは今でも忘れることができません。

今となってはそんな初々しい姿などまったく想像もできないほど心身ともに隣のトトロ並に立派に成長した家人ですが、Yくんの言う 「早寝早起きな家庭」 を見て、おおっ、それは新婚家庭には大切なんだよ、と心から思った次第です。 意味不明ですが。

というわけで、皆さんご唱和ください、乾杯!

・・・ あいやー。 やらかしたな、自分。 結婚式の乾杯の音頭で、新婚の嫁さん泣かした話をするバカが一体どこにいるというのだ。 あらかじめ用意した挨拶案はきれいさっぱり忘れ去ってしまったようだ。 すまんかった、Yくん。 今度大学に遊びに来てくれた時に、カポペリで美味しいイタ飯おごるから、それで堪忍してください。 お幸せにね。

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Life goes on. 生病老死。 そして、人間はいずれ死ぬ。 最後は必ず、一人。 それよりもずっと前に、あなたが今 「友達」や 「親族」 と呼んでいるあの人も、この人も、あなたのことなど忘れてしまう。 あなたの周囲にいる職場や仕事がらみの 「お友達」 なんてのは、互いが職場を離れたとたんにほとんどは消え去りますよね。 欲得や虚栄心に彩られた 「友達付き合い」 「親戚付き合い」 と称するもののなんと虚しいこと。 

SNSがあるって? 笑止。 あなたのページやコメントを、あなたのことを大切に思って読んでいるヒトが一体何人いると思いますか? 役に立たないと思ったり、気に障る書きこみがあったら、そのヒトを非表示にすればいいらしいね。 存在を消し去るのもクリック一発。 なんと思いやりに満ちた、温かい人間関係だろう(笑)

自分の損得勘定とは一切無関係に、相手のことだけを思ってするお付き合いの友達さえ残れば、それで十分だ。 見返りなんて最初から期待しない。 この映画の主人公、ジョン・メイさんも、そんな風に身寄りのない死者たちと心を通わせてきた。

おみおくりの作法 (Still Life)。 とても良い映画。 心が洗われますよ。 おすすめです。

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さて、と。 皆さん、今日も 「サル的日記」 を読み終えたのだから、いつまでもインターネットやSNS見てる必要はない。 あなたのそばにいるヒトに声をかけて、話をしよう。 著者の想いがこもった紙の本を読もう。 ワンコやニャンコの肉球でも触りに行こう。 おいしいもの、食べよう。