小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

東急本店さん、さようなら

シクシク・・・シクシク・・・

 

サル的なヒトは今日も夜の大学のオフィスで一人泣いておる。 なんで泣いているのかというと、本日、1月31日をもって渋谷の東急本店が閉店するから。

「ん? 貧乏人の見本のようなアンタが、松濤の金持ち御用達のあの百貨店と一体何のつながりがあるんだ?」 と不審に思われる読者もおられよう。 確かに、私が東急本店で買えるものは、7階の丸善ジュンク堂書店の本と地下の出入り口そばにある和幸のコロッケと一口ヒレカツしかなかったことは事実である。 和幸のコロッケを買って帰ると家人の機嫌がよくなるので、たまに買って帰って点数稼ぎをしてました。

が、私がシクシクしてるのはその買い物の場が失われたからだけではない。

悲しいのは、昭和・平成の時代のシンボルがまた消え去ったから。

ほれ、映画好きなら東急本店や東急東横店が盛大に登場する、バブル全盛期の映画があったこと、思い出したでしょ? そう、川島透監督の 「チ・ン・ピ・ラ」(1984)。 若きジョニー大倉柴田恭兵がヤクザの下っ端のチンピラとして渋谷の街を駆けずり回って、恋をして、人生を懸けた大博打をして、・・・って映画。

 


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名作・大作ではない。 佳作というわけでもあるまい。 でもね、「時代」の映画なのよ。 あの頃の空気が満ち満ちていたのである。 同時代を生きた僕らにとっては素晴らしい映画なのだ。 点数をつけるとすれば 500億点である。 誰にも文句は言わせない。

で、その映画のラスト近くの決定的なシーンが東急本店の玄関前なのである。 東急本店前の路上で銃撃を受け、血まみれになって倒れる二人。 う、うわぁ・・  で、その先どうなるのだ? ということになってしまうのだが、続きはネットでうまいこと探して見てください。 

そういうわけで、東急本店は、長い間、僕にとって憧れの聖地のひとつだったのである。 ちなみに、その映画に何度も出てくるデパートの屋上は東急東横店の屋上だった。 主人公の二人はチンピラ。 本物のヤクザじゃない。 だから家族連れの買い物客と一緒に、デパートの屋上にいるのが好きなのだ。 そんな設定もとても良かった。 その東急東横店も2年前に閉店。 あの屋上はもうこの世界のどこにもない。

人は自分の憧れが失われるのをただ見守ることしかできない。 ギャツビーにとってそれは、どんなに手を伸ばしても、いつでもその少し先にある対岸の緑色の灯(The Great Gatsby)。ヌードルスにとってそれは、パイプドリームに現れる少年の仲間たちとの日々(Once Upon a Time in America)。 僕らが住んでいる世界の、そうした摂理のようなものが無性に寂しく、悲しい。

だから都会の片隅でちんけな日々を送る僕も、シクシクと、夜のオフィスで一人ぼっちで泣いている。 

 

シクシク、シクシク・・・

 

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川島透監督にはもう一作、「ハワイアン・ドリーム」(1987) というやはりバブル全盛期の映画がある。「チ・ン・ピ・ラ」 の続編的な位置づけ。 こっちはちょっと内容がひどくて正直おすすめできる代物ではないのだが、その主題歌を竹内まりやさんが歌ってた。 バブルとはまったく無縁の貧乏学生だったのに、なぜこんなバブリーな曲が心にしみるのだろうなぁ、と不思議に思いながら、今でも繰り返し聞いてしまう。 これも時代を生きた証。

 

Baby baby, close your eyes

Go back into your endless dream ... 

 


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そんなわけで、今日は悲しい気分が抜けないので、これで終わるね。

東急本店さん、昭和、平成、令和と僕らの時代と共にあってくれて、ありがとう。 コロッケと一口ヒレカツを時々買っただけで、ごめんね。 和幸のスタンプカード、10個で終わっちゃったけど、捨てないで取っておくよ。 もう少しして僕があちらの世界に逝ったらたくさん買い物するから、そのときに盛大にスタンプ押してください。 あ、あれ、どうして涙がまた出てくるんだろう・・・ 僕はもう立派なオトナなのに。

いや、オトナだから、か。

 

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じゃまたね。 次回は、また元の理屈っぽいサル的日記に戻ります。 有効性の形而上学について語ったりします。 たぶん。

医事新報で連載が始まったので、そういう話も。