小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

お盆に読む本

お盆。

気の早いご先祖様たちは、もうそのあたりにお越しになっているんだろうか。 年寄りは気が早いからなぁ。 あんまり早くお越しになると、単なる幽霊、地縛霊と間違えられるから、落ち着いてゆっくりお越しくださいね。 みんな、迎え火焚いておうちで待ってますよ。

評判なのに読んでいなかった小説を読む。

湯本香樹実 「夏の庭」 (新潮文庫

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

小学6年生の男の子三人と、今にも死にそうな近所のおじいさんの話。 不謹慎にも、男の子たちは、人が死ぬところが見たいと、おじいさんを観察し始めるのだが・・・ というお話。 人生の黄金期、少年時代に思いを馳せる自分と、人生の終盤をどう締めくくるかということを考える自分に気づくと思います。 子供向けの本だけど、大人が読んでも深い余韻がありますね。

この時期に必ず読み返す本を何冊か本棚から取り出す。 埃をかぶってるなぁ。 一年ぶりか。

大岡昇平 「レイテ戦記」 (中公文庫、上・中・下)。
ものすごく細かい記録に基づいているので、きちんと読むには相当に体力がいる。 今年はつまみ読みで勘弁してもらおうか。

吉村昭 「戦艦武蔵」 (新潮文庫)。 
吉田満 「戦艦大和ノ最期」 (講談社文芸文庫)。
悲劇を誰もが予感していた時代遅れ大艦巨砲主義の虚しさと、根性論がはびこる軍司令部。 なんだ、現在の日本の状況と一緒じゃないか、と思えるエピソードが語られる。

他にも、山本五十六モノ、栗林中将モノ、廣田弘毅モノ、など、たくさん紹介したい本はあるが、また今度。

そして、我々世代の作家による傑作は、これでしょう。 未読の方、ぜひどうぞ。 電車の中で読むと、涙が止まらなくなり、危険です。

こうの史代 「この世界の片隅に」 (双葉社、上・中・下)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

むろん私自身に戦争の記憶はない。 祖父母、親から話で聞いた戦争の記憶である。 満州で敵兵に追いかけられて命からがら帰ってきた祖父の話は何度か聞いた。 じいちゃんの話は長いもんだから、ちゃんと真面目には聞かなかった。 もっとしっかり聞いておけば良かったと、今では後悔している。 その祖父は、満州で餃子の作り方を覚えて帰ってきて、以後母の実家では餃子が食卓にあがるようになったとか。

私の父は戦時中は子供だったが、芋ばかり食べていたそうで「一生分の芋を戦時中に食べた。 もう芋は食わん」といつも言う。 墜落した米軍機を皆で探しに行った話もしてたっけ。 

自分自身の記憶では、昭和中期の押し売りの方々が、傷痍軍人さん風の装いをしていて怖かったことをかすかに覚えている程度。 今では、本物の押し売り(笑)を見たことがない人々の方が多いのかもしれないが。 昭和は遠くなったもんだ。

実に取るに足らぬ記憶だなぁ。 本当に苦労をされた方々からは一笑に付される程度のもの。 それでも私は私なりに、そうした記憶の手がかりを通して、過去にこの国で起きたことを決して忘れない覚悟を、毎年この時期には確認することにしている。 日本人のマナー。

8月6日、9日、15日。 国家論や戦争論を声高に語る見識は、私にはない。 できることと言えば、当時の人々に思いを馳せ、共感し、想像すること。 命を失った方々を忘れず、覚え続けていること。 今、この瞬間に、世界のあちこちで戦争が起きていることを忘れないで、しっかり目を見開いて見つめること。 撤退を転進と呼ぶような連中を許さず、正しい言葉を使うこと。 そしてもちろん、祈ること。

さて、お盆。 家族、帰って来られたご先祖様とともに、ゆっくりと夏休みを過ごしましょうか。