小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

渡 哲也は悪くない

テレ東のガイアの夜明けで、格安航空(LCC)の悪戦苦闘を見てたら、とある製薬会社のコマーシャルが入った。 そう、あの渡哲也さんのシブい声。 会社名はここでは書かない。 日本を代表する素晴らしい新薬開発企業で、「JR 大崎駅を出て目黒川沿いを右側に行かないと、新幹線からも見える研究開発本部にたどり着けない会社」とだけ言っておこう。 (方向音痴 (゚ー゚;三 ;゚ー゚) - 小野俊介 サル的日記 参照)
これくらいのヒントで勘弁してください。 私は平和を愛する、争いごと・もめごとが嫌いなサルだから(笑)

渡哲也曰く:
「新薬は、世に出たときが、ゴールでしょうか? それとも、新たなスタートでしょうか?」

一瞬、目と耳を疑った。 というより、何を言っているのかが全く理解できない。 この業界で23年間修行した成果で、同業者の言っていることはだいたいは理解できるはずなのだが、頭が点になっている(こんな日本語はさすがに無いか(笑))。 家人の方を見たら、家人もこちらの顔を見返して、「・・・ なんか変なこと言ってるね、この人たち ・・・」

消費者に商品を売る前に「私たちはゴールに到達した(かも)」などとおっしゃる企業は、たぶん、製薬企業だけだと思います。

最近では、芸術家でもここまではっきりとは言えんだろうな。 「私の生み出した作品には、それ自体に価値があるのだ! 誰かが見る必要などない。 ただ存在すればよいのだ。 美とはそういうものだ」 なーんてね。 ギャラリーフェイクに出てきそうな台詞だ。

・・・

・・・ いや、ちょっと待てよ。 あの渡哲也だぞ。 「くちなしの 白い花 おまえのよーーーな 花だーーーーったぁ」の渡哲也だぞ。 西部警察で、現在のシリア内戦並にショットガンをバンバンかましていた哲也だぞ。 あのシブい哲也が、そんな筋違いなこと言うか? 言うわけないじゃないか!

異常なのは私の方なのだ、きっと。 どうやっても「社会における財・サービスの価値は、それを使う側・消費する側・鑑賞する側にある」という欧米的な考え方から私が抜け出せないのは、独りよがりで自分勝手なヤンキーに魂を売っちゃったからなんだ。 たぶんボストンのハーバードスクエアあたりで。 (そういえば昔、Angel Heart という映画があったなぁ。 悪魔に魂を売る話。 ミッキールーク主演の超気持ち悪い(つまり最高の)映画だったよ。)

そうか、わかった!!

古来、日本には「道」がある。 剣道しかり、柔道しかり、茶道しかり。 医薬品産業界には「製薬道」があって、品川あたりの研究所で働く白衣を着た求道者たちは、日夜、「道」を極めてるんだね、きっと。 「いやぁ、すばらしい錠剤ですな、これは。 寝姿が凛としておる」 「いやいや、この注射剤こそ、雅な気品あふれ、幽玄すら感じられますな」 とかやってるんだろうな。 すばらしいぞ、日本文化! ビバ、日本文化! わんだほー。 薬を消費財扱いにするような、無粋で無作法な消費者や市民や患者ごときが横から口を出したら、バチがあたるってもんだ。

・・・

これほど人類に莫大な貢献している産業も珍しいはずなのに、そうした莫大な貢献に比例した社会からの尊敬はなかなか受けられず、逆に、薬害を生み出す張本人といった負の側面ばかりが強調されて、批判されることもある可哀そうな製薬産業。 同業者として、深く同情します。 でもね、もしかしたら、医薬品業界人(産官学すべてだよ)の心の奥底に、このコマーシャルにあるような根本的な勘違いがあることが、そうした不人気の一因なのかもしれませんぜ、ダンナ。

しかしまぁ、こういうことを書いた以上、今後その会社さんに行くと、入口にいる守衛さんに簀巻きにされて、目黒川に放り込まれるんだろうな。 目黒川の流れる方向を自ら感じられる良い機会かもしれぬ。