小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

真にサル的なヒトはこう考える

風邪をひいてしまい、ゴホゴホと咳をしながらブログなぞを書いてみる。 咳をしてもひとり。 皆さん、お元気?

寒気がするので休みたいのに、私の研究室は教員が私一人だけなので休もうにも休めない。 学生さんは修士論文卒業論文の締め切りが迫っているし。 指導の際には風邪をうつさぬよう、マスクの着用は必須。 昨日は 「先生、目が血走っているけど、大丈夫ですか?」 と心配されてしまった。 涙液にも風邪ウィルスがたくさん浮遊してるのだろうなぁ。

一昨日、東大の講習会 (レギュラーコース、RC)のOBが二人立ち寄ってくれた。 再会を喜び、お互いの近況などを報告しあう。 私のところに遊びに来る方々のほとんどは 「製薬企業・PMDAって相当に変だよね」 とタブーなく話ができる人たちなので、会話がとても楽しかったのである。 また遊びに来てください。

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今の医薬品業界人の言葉遣いはいい加減である。 ほんと 「いい加減にしろよ、おまえら」 と毒づきたくなるほどひどい。 病気のレベル。 まともな見識の持ち主なら、病気であることに気づいたら、何か治療を受けたり、修正を図るのだろうが、最近の業界人は完全に開き直っている。 「あなた、変だよ」 と言われると逆上して、当てつけのようにますます異常行動を繰り返すのが現代的な症状。 ほれ、国会のあたりにその典型がいるのはよく知られてますね。

とある会社のオエライさんの挨拶。

「あけましておめでとうございます。 研究開発型企業には 真の革新的医薬品 を創出する使命があります。 わが社は、ベンチャーとの連携強化を図り、重点領域を選択し、・・・」

・・・ なんだろう、真の 革新的医薬品って。 そもそも 「革新的な(医薬品)」 が若干意味不明なのに、それに輪をかけて 「真の」 ときたもんだ。 そうか、この会社では 「偽の 革新的な医薬品」 も開発・販売してるんだ。 それってどの品目か教えてください。

「真に・真の」 についてはこの政府文書が有名。 いまだにお役人のプレゼンに盛大に登場しており、感染力は絶大である。

経済財政運営と改革の基本方針 2015 (「骨太の方針 2015」)」には、「 ・・・ 基礎的な医薬品の安定供給、成長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進、真に有効な新薬 の適正な評価等を通じた医薬品産業の国際競争力強化に向けた必要な措置を検討する」 と盛り込まれました。

・・・ なんだよ、真に 有効な新薬って。 まったく意味不明。 生物統計学の先生方が激怒して官邸・厚労省に猛抗議をしないのが不思議でならない。 外人にこれを翻訳して見せたら、「これって武士道か禅の精神の一種ですか?」 と質問されそうだな。

情緒的でいい加減な表現が私的な個人ブログや tweet で登場するのは別に構わん。 が、そうした表現が公の文書や公の場に堂々と登場し、増幅・蔓延するのがニポンなのである。 情けない。

奇妙な国ニポンではメディアもいい加減。 とある通信社の最近の記事にこんなのが。

(韓国の大統領は) 「日本が真実を認め、被害者に 真の 謝罪をし、それを教訓に国際社会と努力することが慰安婦問題の解決だと思う」 と述べた。

「真の有効性」 「真に革新的な新薬」 等々を変だとは思わない、頭がボーっとした業界人でも、これを読んだら少しは違和感を覚えるでしょ? 「真の謝罪って、何?」 と質問したくならない?

この記事ってどこか変だぞと思い、いくつかの主要紙の記事を比較したら、案の定、実際の発言はこんな意味不明文ではないことが判明。 たとえば某紙の記事には次のように具体的に書かれていた。

「日本が真実を認め、被害者の女性たちに心を尽くして謝罪し、それを教訓に再発しないよう国際社会と努力するとき、(元慰安婦の) おばあさんも日本を許すことができるだろう。それが完全な解決だ」 とも述べ、・・・

つまり 「真の謝罪」 という表現は、おそらくは、相当に横着な記者が自分勝手にテキトーに簡略化した表現なのである。 でもさ、それってダメである。 主張や事実認識が交錯する、これほどに危ない領域で、そんないい加減な言葉を使うなんてプロ失格である。

で、医薬品業界。 常に市民の生命にかかわっているのだから、言葉遣いのいい加減さは致命的なのであるが、上の例からもわかるとおり、それを業界人が正しく認識しているとはとても思えない。 大丈夫か、ニポンの業界人?

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恐ろしいことに、言葉・文の意味が不明なまま、業界人がなんとなく仕事をしている例は他にもたくさんある。 最近 「医薬品のリスク管理計画 risk management plan (RMP)」 の通知や企業が作成したRMPの実物を読んでいたら、めまいがしてきた。 書いてあることの意味が一行目から分からない (笑)。

「リスク」 の定義がどこにも書かれてないし、意味がまったく分からないのよ。 ちなみにこの「医薬品のリスク管理計画」 なる代物、お役所が次のような意味不明なQ&Aを出して一般国民を煙に巻いたことで有名である。 米国・欧州でこんな横着な回答をしたら、たぶん、職業人としての評価はゼロになると思うよ。

当局へのコメント(質問):
「ガイダンスの目的」のベネフィット及びリスクの定義と、評価法についての定義・説明が必要である。」

厚労省の回答:
「これまでも製造販売業者は、ベネフィットとリスクの評価を行ってきており、今後もこれまでと異なる対応を求めるものではありません。」

このナンセンスで悪趣味なQ&Aはともかく、いかに医薬品業界人がいい加減だとしても 「リスク」 の定義の手がかりはさすがにどこかにあるだろう、と思って資料を読んでいたら、当局広報のRMPの解説の冒頭にこんなことが書かれていた。

医薬品は,有効性とともに一定の リスク (副作用) を伴うものであり,リスクをゼロにすることはできませんが,これを可能な限り低減するための方策を講じ,適切に管理していくことが重要です。・・・
(医薬品・医療機器等安全性情報 No.300 2013)

( ゜д゜)ポカーン

リスク って 副作用 のことなんだって。 (リスク)=(副作用)。 大笑い。 ずいぶんとまぁ概念の次元を歪めてくれたもんだ。 「そんなわけねーだろ」 と真にサル的なヒトだって分かる。 節子、それ副作用やない。 リスクや。

リスクの意味が分からないのに、どうして 「特定されたリスク」 「潜在的なリスク」 といった意味不明の2乗のような欄を業界人が埋められるのかも、私には理解不能。 業界人ってテキトーに雰囲気で仕事してるだけだから、そんなこと気にもしたことないんだろうけど。

薬のベネフィットだのリスクだのという表現のほとんどが意味不明な状況であることに何の違和感も覚えない業界人の鈍感力と思考停止はある意味すごい。 そんな人たちが、一方で 「薬の安全性監視にAIを活用する」 なんて嬉しそうに語るわけである。 AIが気の毒で仕方がない。

このあたりの話は次回以降の記事のまたどこかで。