小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

今の学生さん、ごめんね

今週、月曜日はDIAの学生セッションをお手伝いしました。 DS社のSさん、N社のSさんをはじめとする製薬企業の方々が企画。 薬学部等の現役の学生さんにも医薬品の開発に関する議論(の練習)に参加してもらおうという意図である。 Sさん、Sさん、とても素晴らしい企画で、学生さんも良い経験ができたと思います。 ありがとうございました。

DIAの企画は実に素晴らしかったのだが、しかし、私たちが忘れてはならないことがある。 それは、

「今の学生さんは、我々おぢさん・おばさん世代とは異なり、製薬企業に就職したくても、なかなか就職できないこと」、
そして
「今の学生さんをこの苦境に導いた犯人(あるいは未必の故意による共犯者)が、我々おぢさん・おばさん世代(産官学すべて)である可能性が高いこと」
である。

前にも載せたグラフを再掲する。 日本の製薬企業で働いている目の黒い同胞の数は、着実に減り続けている。

治験の数などで見る臨床開発活動レベルも、昔の(1980年代の)日本の製薬産業万歳! の時代とは比べ物にならない低さである。 これもグラフを再掲するね。 昔の日本はすごかったのである。

製薬会社の中の椅子取りゲームでまだ負けていない(笑)おぢさん・おばさん(30代、40代、50代) は幸せである。 万一、今働いている会社から 「あなたのポジションが無くなるのですが・・・」 と暗にリストラ宣告されたとしても、「この製薬業界で、これまで○年働いていた」という経験と実績が履歴書に書けるんだし、なんだかんだ言ったところで、ほとんどのヒトは現状では次の会社に移ることができる。

でもね、今の日本の学生の多くは、人生において製薬企業の社員を名乗ることすら、できないんですよ。 製薬企業人としての経験を積むことは当然できない。 彼らのほとんどは、職業人人生の入口で、皆さんの会社に拒絶されてるんです。 絶望的な状況ですよね、これって。

製薬企業人の皆さんの多くは、「いや、小野さん、そんなことを我々に言われても困るよ。 新薬開発のグローバル化に伴うリストラやリソースの外部化は、いわば歴史の必然であって、誰かのせいじゃない」 なんて言うんだろうなぁ。 むろんそのとおり。 福島の原発事故は、誰にもコントロールできない大地震が直接の原因であって、誰かが爆弾やトンカチで原発を壊したわけではないのと同じだ。

しかし(原発事故とのアナロジーをこれ以上議論することはしないが)、やはり私たちおぢさん・おばさん世代には、それ相応の責任があると思う。 現実をどう把握するかという点において、どう考えても、「ついうっかりしていた」では済ませられない大チョンボをしてますよ、我々は。 すぐに思いつく例だけでも、例えば、

  • 供給側の要因(ICH-GCP の導入)だけでなく、需要側の要因(海外データの無節操・無原則な受け容れ)が重なったのだから、それこそ半端ないレベルの治験数の減少が起こることは予測できて当然なのに、誰も予測できなかったこと(注)。 対応がすべて後手後手になっていること。 (注)私もエラそうなことは言えない。 きちんとしたメカニズムに基づく警告を論文で発したのは2000年になってからなのだから。
  • 驚いたことに2012年の今現在も、1990年代以降に起きている日本の「臨床開発不況」のメカニズムを理解できないヒトがいること。
  • 治験の数の減少は心配するくせに、産業界で働く目の黒いヒトの数(日本の抱えるノウハウそのものだ)の減少については、まともに心配も対策もしてこなかったこと。 グローバル企業の日本人減らし策に対して、誰も真正面からはコメントを発しないこと。

そして、こうした無自覚の挙句の果てが、「この十数年のグローバル化万歳! 日本の学生さんも努力して自らグローバル化して、グローバル人材にならなくちゃね」 という無責任で無慈悲な掛け声である。 

あのね、まさにそのグローバル化に伴って、日本人学生は製薬企業で努力することすらできなくなったの。 何を今さら ・・・ 

我々おぢさん・おばさん世代が今すべきことは、現在の日本人学生に土下座することかもしれない、とは思いませんか? 「学生さん、スマンかった。 俺たちおぢさん・おばさん世代って、世の中の流れに右往左往してるだけで、実は日本社会の先行きを真剣に考えたことなど一度もないんだ。 今だってそうだ。 外国の本社の賢そうに見える外人さんに言われるがままに、訳も分からずグローバル化礼賛してるだけ。 実は自分たち自身のクビが締まっているのに(涙)」 ってね。 いかがだろうか。

これまで、そういった懺悔の声を業界人から聴いたことは、私は一度もない。 

だから、まず私が謝ります。

学生さん、ごめんなさい。 おぢさん・おばさん世代の代表として、これまでの力不足を心から謝罪します。 今後、若い世代の皆さんのために何ができるかを一生懸命考えて、実行していきたいと、このサル的なヒトはいつも真剣に思っています。 私は常に学生が身近にいるのだから、頑張らねば。 

味方になってくれる人、賛同してくれる人、ちゃんと手を挙げて! 皆の目に見える形で学生(と私)を応援してくださいよ!
・・・ たぶん、誰も手を挙げる人はいないんだろうね。 これもいつものこと。