小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

グローバル時代の講演の難しさ

街はクリスマスっぽいですなぁ。 うちは貧乏な仏教徒だから、その手の浮かれた雰囲気とは無縁である。 が、なぜかサンタさんが24日の深夜に急に我が家にやってきて、「サンタの国の仕入部門のミスで、日本の良い子に配るはずのゴルゴ13仕様のМ16ライフル (注 1) が一つ余ってしまったんじゃよ。 サンタの国に持って帰るのもなんだから、サル的なヒトがもらってくれると助かるんじゃがのぉ」 と言ってくれないかなぁと夢想したりしてる。 ボク、一年間良い子にしてたからね、サンタさん。 悪いことなんか、数えるほどしか(数十回くらいしか)してないよ。

(注 1) むろん殺傷能力のない、おもちゃのエアガンである。 私は、米国の銃規制のユルさには呆れかえっている側の人間なので、勝手に憤慨しないように。

さて。

企業さんから「社員に喝をいれてよ」と講演を頼まれると喜んで無料で出かけるのだが、話す内容は内資系企業と外資系企業では多少変わってくる。 また、外人さん(本社から日本に来ているおエライさん)が聴講者にいるか否かによっても、話す内容を変える。 当然である。 だって、外人さんと日本人では、同じことを聴いても、心の中の受け止め方が逆になるんだもん。

例えば、最近流行のグローバル人材マネージメントの中で出てくるグローバル・グレードのよく出てくる概念図は次のような感じ。

ずいぶんとストレートに、誰が誰の上にいるか・下にいるか(ざくっと言えば、誰がエライか・エラクないか)がわかる概念図ですね。 でもビジネスの世界はそういうもの。 で、当たり前なんだけど、(a) 本社が日本にある会社では、米国の会社が現地法人になり、(b) 本社が米国にある会社では、日本の会社が現地法人となる。 東京にオフィスがある外資系製薬企業というのは、むろん、(b)。 だから、東京のオフィスにいる外資系企業の外人さんの頭の中には、「本社の人間 vs. 現地スタッフの日本人」 という構図がある。

外資系企業の外人のおエライさんが会場にいる講演では、それを承知で話をしなければならない。 講演者としては、外人さんと日本人の両方を満足させられればそれが一番なのだが、それはできない相談だ。 企業のおエライさんのご機嫌をとって、中身の無い一般論(例えば、新薬のグローバル開発万歳!的な(笑))を、「元役人の立場から」 とか 「れぎゅらとりーさいえんす研究者の立場から」 とかいう意味の無いタイトルで話せば良いのかもしれぬが、そんなことは絶対にしない。 私は幇間(ほうかん。 太鼓持ち)じゃない。 私が話すのは、いつでもガチンコのトレードオフ tradeoffs や対立 conflict の現状、仕組みとそれらの解決の難しさである。 例えば、欧米人患者の利害 vs. 日本人患者の利害。 例えば、欧米企業の利害 vs. 日本企業の利害。 それらを聴衆に気づかせることが私の目的なんだもの。

しかし、そうは言っても、講演が終わった後で、いきなり青い目をした方々が激昂して壇上のサル的な人に殴りかかってきて、それに対してサル的な人が大島渚ばりにハンドマイクで応戦して、・・・ なんていう流血の惨事が起きるのは、好ましいことではない。 そのシーン、想像するとちょっと愉快だが(笑)

だから、私の講演は必然的に 「日本人には理解できるが、外人さんには理解し難いもの」 になる。 日本語の(曖昧な)ロジックと語感、日本独自の比喩・含意をフル活用して、英語の論理には馴染まない主張を展開する。 意図的に。 誉め殺しなどという高度な作戦も使うから、誉めているのか、貶(けな)しているのか、外人さんにはわからんだろうなぁ。 同時通訳の人たちも困るだろうなぁ。 でも、日本人にはちゃんと通じる。 それでよし。

でもね、これは講演という特殊な状況での特殊なコミュニケーション技術です。 会社の日々の業務において外人さん相手にこんなことやっちゃダメですよ。 クビになります。 もう一つ念のため申し上げておくと、聴衆が外人さん(だけ)の場合には、私は外人さんが100%理解可能な、彼らをちゃんと喜ばせる講演をします。 そういう技もちゃんと持ってますので。

こういう特殊な技を使ってまで、皆さんに考えてもらいたいことは何か。 それは、企業や役所のおエライさんがよく口にする、根拠も何もない 「日本人はもともと優秀だ。 日本人が負けるはずがない」的な偏狭な日本人万歳論や「日本人だけ頑張れ論」 ではもちろんない。 そんなもの、単なる虚勢、負け犬の遠吠えだ。 私が伝えたいもの、それは、日本人一人一人が、自分の足ですっくと立って、誇りを持って目の前の仕事をこなしていくための心の持ち方、そして、それを支えるための少しばかりの学問・技術だ。 それらって、日本人だろうと、アメリカ人だろうと、スペイン人だろうと、現代を生きる誰にとっても同じように必要なものです。

たまにはいわゆるビジネス本と言われる本を読もうかと思い、手に取ったのがこの本。

世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門

世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門

日本企業が本社(上の図の一番左の大きな三角形)、現地法人は中国やタイにあるといった状況を前提にした内容なので、医薬品業界を念頭において読むと、かなり違和感がある。 しかし、人事管理・人材育成がらみの様々な用語・概念を新入社員がまとめて勉強するのには良い本だと思います。

さて、今年ももう少し。 年末年始のイベント、皆さん頑張ってくださいね。