小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

熊本さん

皆さん、連休はいかがでしたか。 素晴らしい天気で良かったですね。 私はカブトムシの幼虫の最後のマット交換でちょっとヘロヘロになりました。 初心者向けに解説しておくと、マットというのは「おが屑(くず)」のこと。 幼虫の住家であるとともに、エサにもなる。 「カブトムシの幼虫は土の中に住んでいる」 と誤解している方がいるが、土じゃないぞ。 基本は 「腐葉土」 である。

前にも書いたが、我が家のカブトムシのマットはグルテン添加・発酵処理済みの富栄養・高級スペシャル版だ。 飼い主であるサルよりもいいものを食っている。 一言で言うと、ドーピングしている。 でかいカブトムシに育ちまっせ、ダンナ。

さて、今晩はさっきまで某製薬企業の方々と恵比寿で楽しく意見交換をしていました。 皆さん、どうもっす。 何やら 「ジョージ」さん (注 1) にいろいろ意見したいことがある方々のようであった。

(注 1) おサルのジョージではないらしい。

それはともかく、恵比寿の飲み屋なのだが、昭和30年代くらいをフィーチャーしたお店で、壁には 「牛乳石鹸」 だの、「赤玉ポートワイン」 だの、「サクラビール」 だのといった懐かしいポスターがペタペタ貼ってある。 その中で、「うおっ、これは懐かしい!」 と皆が声を揃えたのが 「ハエ取り紙」。 50センチくらいの長さの、ベタベタした、黄色い、臭いヤツである。 ハエがペタペタとくっ付いて捕れる。 昔は普通の家にも、食堂やラーメン屋などにもぶら下がっていたよなぁ、こいつが。 貧乏人の家には、ハエがたくさんいたもんだ。

実は、連休中にとんでもない傑作映画に出会ったのである。 いや、正確に言うと見逃していた。 自虐の詩 例によって無料の GyaO! ね。

原作はこの4コマ漫画である。 上下巻、伝説の 4,228コマ。 この漫画は、評判通り、すごい。

自虐の詩 上巻

自虐の詩 上巻

映画の宣伝では、阿部ちゃん演じるヤクザ (女に食わせてもらっているヒモ) がちゃぶ台をひっくり返すシーンばかり強調するものだから、「そんな程度の話なのね」 とすっかり油断していたぞ。 ポイントはそこではなかったのだ。 この映画は(原作も)貧乏譚なのである。 すっごい女の子が登場する。 それは 「熊本さん」

熊本さんと主人公の幸江 (お父さんは生活力のない遊び人。 だから幸江が新聞配達をして生計を立ててる) は気仙沼に住む中学生。 両人とも家が貧乏である。 貧乏人の弁当は貧しい。 幸江の弁当は、ごはんに梅干しが一個。 熊本さんの弁当は、ごはんに目刺が一匹。 みんなから離れて、弁当箱を隠しながら、食う。 熊本さんは、学校で飼っている鶏や池の鯉をカバンに隠して持って帰る。 むろん食うためである。 竹ぼうきやトイレットペーパーもこっそり持ち帰る。

熊本さんは、年中同じセーラー服を着ている。 体操服が買えないから、体育もセーラー服でやる。 家がどこにあるのか、誰にも言わない。 粗大ごみ廃棄場の傍の、川の上に建ったすさまじいボロ家なので、恥ずかしくて言えない。

熊本さんは皆から嫌われている。 汚いし、臭いし、女のくせにひげが生えているし。 クラスの誰も話をしてくれない。 いじめられる。 でも、熊本さんは気丈に振る舞う。 誰にも媚びない。 でも、路地裏で一人になったときに、こっそり泣く。

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あ、あかん。 書いているだけで、映画と原作を思い出して涙が出てきた。 いや、私自身が熊本さんや幸江のような赤貧を経験していると言ったら全くのウソになる。 でも、心の奥から湧き上がってくるこの妙な親近感はなんなんだろう。

いろいろ思い当たるところはある。 例えば、中学生の頃、全校生徒の中で体操着の色が僕一人だけ違ってたなぁ。 母がスーパーの安売りで買ってきた体操着を我慢して着ていたから。 皆が持っているスポーツバッグも買ってもらえなかったなぁ。 代わりにグリーンスタンプの景品で我慢したっけ。 運動会の時に着るランニングも、僕のだけ違う色の貧乏ランニング(要は下着)だったっけ。 中学生なんてのは、そんなことがすごく気になるかわいいお年頃ではある。

そういえば、我が家ではその辺の池で釣ってきたフナを焼き魚で食ったりもしたっけ。 あいやー、普通のサラリーマン家庭に育っているはずなのに結構ワイルドだぞ、自分。 熊本さんに親近感が湧く理由、あるじゃあないか。

年老いた両親が 「ウチはそんなに貧乏じゃなかった!」 と怒り出すといけないので念のため言い訳しておくが、僕の場合は結局のところ単なる 「我慢」 である。(注 2) 熊本さんの貧乏とは訳が違う。 でも、どこか根っこで通じるところはあるのだ、と勝手に薄っぺらくシンパシーを感じる。

(注 2) それでも都会の裕福な家庭で育った方々とは明らかに違う人生だよなぁ、とは強く思う。

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幸江が東京に一人旅立つその朝。 見送りに駅に駆け付けたのは熊本さん一人。 熊本さんが幸江に手渡したのは、新聞紙にくるまれた、いつものアルマイトの弁当箱でした。 動き出した列車の中、幸江が弁当箱を開けると、なんとそこにはごはんと、目刺が2匹と、ゆで卵と、ちくわと、イカの煮つけが ・・・ 豪華なお弁当に目を丸くする幸江。 ・・・ 号泣するサル的なヒト ・・・

ってな感じの映画でした。 他にも笑いどころ、泣きどころがたっぷり。 涙腺の弱さに自信のある方は、GyaO! あるいは Tsutaya へどうぞ。

今日のブログでは、クリント・イーストウッド主演の上質な感動作 「人生の特等席 (原題は Trouble with the Curve)」 を紹介するはずだったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう (笑)