小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

ヒトは医療のみにて生きるに非ず

蒸し蒸ししてますが、皆さん体調はいかがでしょうか。 これから 10月くらいまでこんな気候が続くのかと思うと、暗い気分の方々も多いかも。 汗だくで、汁(つゆ)だく (ツユだくって何気にすごい言葉だな) の牛丼でも食べますか。

薬がらみの報道が最近やたらと多い。 昔からメディアって書くことや知恵が無くなると 「医療」 「医薬品」 だった。 昔は平和な日曜日なんかの隙間記事として 「へー、たまにはこんな風に薬ネタを取り上げてもらえると嬉しいねぇ」 ってなもんだったが、(注 1) 今は記者さんたちの知恵不足が慢性化してるのか、あるいは誰かに媚びているのか、某政府広報紙なんぞは毎日のように一面トップだ。 それも小ネタを取り上げて、針小棒大に。 今の日本の報道はどうなってるんだろうね、と不安になる。 正直のところ。

(注 1) 薬害がらみの報道は別である。

医薬品業界でメシを食う者として、薬がらみの話がメディアの注目を集めることは嬉しい。 商売繁盛につながるもの。 「健康の価値を考えましょう」 「医療システムの改善を目指そう」 という主張に親近感を覚えるのも、 public health 系の学問で身を立てている者としては当然のこと。 でもね、人間は健康のために生きているわけではないのよ。 良い医療を受けるために生きているわけでもなかろう。 医薬品を使うこと自体が人生の目的の方なんて、いない。(注 2) 医療・医薬品になんぞ頼らず、医療・医薬品の知識や小ネタなんぞ知る必要無しに幸せに暮らせるなら、それが一番なのだ。 医療ムラの隅っこの医薬品部落で、医薬品ネタを生業してメシを食う私でも、そのくらいの見識は持っているつもりだ。

(注 2) 薬の形状や味などに異様な執着を覚える薬フェチの方は別である。

だから、さしたる苦吟もせずに 「国民・患者は医薬品のことをもっと知るべきだ」 とか 「国民・患者は治験の意義を理解すべきだ」 なんて口走る業界人とは友達にはなれないなぁ、といつも思う。

「医療」 「医薬品」 は大切に決まっている。 でもね、医薬品のインターネット販売の25品目の是非だなんだと一面で大騒ぎするのなら、例えば次の記事も一面で報じて欲しいのだ。 先週のこの記事、どの新聞も隅っこに小さくしか載ってない。 大きく取り上げるな、と誰かから要請されたのか、あるいは知恵を絞った自主規制か。 江戸川でハゼ釣りをする地元民の一人としてのエゴから 「大きく扱え」 と言っているのではない。 逆である。 日本人のすべてが、残りの人生の数十年、この状況(むろん東北・福島の状況を含む。)を自分たちのこととして考えていかねばならないからだ。 

短信:江戸川のウナギから基準値超セシウム /千葉 毎日新聞 6月9日(日)12時18分配信

 県は7日、市川市で今月3日に採取した江戸川のウナギから、食品の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える同140ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。県はこの流域で漁業権を持つ県内3漁業協同組合などに出荷自粛を要請したほか、同様に東京都と埼玉県にも連絡した。江戸川のウナギ漁は規模が小さく市場には流通していないという。

大きな記事の間に埋もれた、この小さな記事を読んで、私は金属バットで頭を殴られたような衝撃を受けました。 なんてお気楽なんだろう、今の自分。 なんか変だぞ、今の報道。

シェールガス革命のその後や様々な再生エネルギーの問題は、発毛剤のインターネット販売の可否の問題よりもほんの少しは(無用な苦情を避けるため、ほんの少し、と言っておく。)将来の子供たち世代を含む日本の社会にとって重要だと思う。 7万人を超す死者を出して今も続いているシリア内戦なんてのは、いかに地球の裏側あたりのよく知らぬ国の話だからって、日米の審査期間の差を1−2カ月からゼロにする(笑)とかいう宣言なんかよりはほんの少しは重要に思える。

最近の地球の食糧問題はどうなってるんだろう?  一日1ドル以下で暮らす絶対的貧困の人たちが世界の人口70億人のうち十数億人もいるのだが、その数は増えているのだろうか? 地球温暖化は、各国のエゴが先に立つから、もう防ぎようがないと諦めている状況なのだろうか? なんで日本の(インターネット)選挙はこれほど国民をバカにしているんだろう? 大声で候補者の名前を連呼するのが今でも日本の選挙の基本なのだが、北京原人並みの民主主義だよな ・・・

僕らは、日々そういう風にいろんなことを考えながら、地球に住むあらゆる同胞たちの幸せを時に気にかけつつ、生きている。 自分や自分の家族の健康・身体のことばかり気にしているわけではない。

万一、今の医療・医薬品の報道・記事の乱発が、

「今の日本人は、世界の人たちの幸せなんかどうでもよくって、自分の健康や生存期間やQOLが人生最大の懸念の人たちなんだから、医療や健康や薬の記事を読ませておけばいいのよ。 ニーズに応えていることになるし、高齢者や患者など弱者に配慮しているように見えるからイメージアップにもなるし、記者も身の回り数キロの取材で済むから楽だし、一石三鳥なんだよね」

とか、

「成長戦略って言っても、過去数十年、産業政策なんて見事な成功例なんか無いんだから、とりあえず流行の 『医療』 をタマに使っておけばいいのよ。 米国で何十年も前からある制度を翻訳したり、ボストンあたりの大学やベンチャーを紹介して 『日本は遅れてる。 日本でも米国と同じことをやるべし』 って言ってればいいのだから、頭を使わなくて良くて楽だしね」

とかいった志の低い理由によるとすれば、そういう記事は止めてしまって、別の記事に差し替える (例えば AKB 総選挙の指原の記事とか) っていうのもご一考いただけないだろうか。 政府広報のお手伝いなら、昔からの医療・医薬品業界紙がやっているから、そう心配する必要はない。

今のメディアの過剰な、方向の歪んだ 「医療」 「医薬品」 びいきは、 「医療」 「医薬品」 の本当のシンパ (報道でメシを食っている方やメディアで有名になることが目的の方を除く) にとっても、長い目で見たら実は迷惑なのだ。 例えばそういう報道は、医薬品評価の問題(あるいは、れぎゅらとりーさいえんすの問題)に 「解答」 があるかのような矮小化を施す。 「解答があるはずなのに、関係者がダメダメだから、解答にたどり着けていない」 といった感じの、先入観に満ち溢れた矮小化ね。 そういう矮小化は、結局のところ、基本理念が無いままの承認審査の放置に加担しているわけで、国民の医療や医薬品アクセス問題に悪影響を及ぼし続けているのですよ。

もっとも、世の中には 「健康のためなら死んでもいい」 という方々もいる。 そういう人たちとは意見が合いませんね。 ごめんなさいね。 そういう方々は、ヒトの命も健康もあったもんじゃない北野たけしのヤクザ映画でも見て、神経逆なでされてください。

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三浦友和演じる親分の小物っぷりと、「それでもボクはやってない」(痴漢冤罪を描いた作品) で好青年を演じた加瀬亮のチンピラぶりが笑えて最高。 たけちゃんがちょっと格好良すぎだが、監督だから仕方ないか(笑)