小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

根っこの根っこをとことん考えましょう

東京オリンピック 2020が決まった今日この頃、皆さまお元気ですか。 「夢がかなった! 良かった、良かった」 という安堵の声も、「・・・ ところで漏れている汁の件は大丈夫なのか?」 という不安の声も、どちらも一理あるのだから、とにかく「人間」が幸せになるように何とかしましょう。

私自身は、公園で寝起きしている人たちが一斉に東京から強制排除されるといった非寛容なことが起きなければ良いのだが、と思う。 「宮崎で今暴れている噛みつきザルの件もあるし、サル的なことを言うヤツもついでに東京から排除しよう」 という動きも起きないことを願う。

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今日は、東大レギュラーコース名物、ディスカッション課題を紹介しますね。 ブログのネタが切れているときの恒例である。 ちなみに今度の課題は臨床開発がらみです。

2013 FY RC 9 ディスカッション課題(後半)

(A) 最近承認された新薬を例にとって(背景が分かり易いものを選ぶこと)、医薬品の「リスクベネフィット」と称するもの (まずこれを定義すること。定義が複数あっても構わない。) が新薬開発・承認審査でどのように評価・検討されているかを説明してください。 それに基づいて現状の医薬品リスクベネフィット評価の限界、問題点を議論し、将来に向けての提案を行ってください。

(B) 日本と米国の (通常の企業主導の治験以外の)臨床試験・研究の状況 (数・量、規制、投じられている予算、結果の使われ方等)について概略を説明してください。 そうした現状において、製薬企業がそれらの臨床試験・研究にどのように対応 (協力・非協力 等)し、それらをどのように活用すべきか (あるいは活用しないか)、新たな規制・ルールは必要かを、立場を明確にして議論してください。
注:詳細なデータを収集する必要はありません。後半の議論に力を注ぐこと。

(C) 新薬の開発方針、試験結果や承認要件の解釈等をめぐって、製薬企業と規制当局の見解が対立することがしばしばあります。 最近の例を二つ程度挙げて、見解の対立が生じた背景、交渉プロセス、現実に見られた決着を簡単に説明してください。 現在の仕組みの長所・短所を踏まえて、より良い解決の姿を目指した仕組みを提案してください。
注 1: できれば米国と日本の違いを調べてください。
注 2: 「より良い解決」の 「良い」は誰にとって良いのかを意識した提案にすること。

(D) 医薬品の承認審査の質を評価してください。 評価すべき質がどのようなものか (どのような要素で構成されているか)をきちんと定義した上で、それを評価するための具体的な考え方・方法を挙げてください。 それらに基づいて、現在の日本と米国の承認審査の質を議論してください。

はい、見事に定番の課題が並んでいますね。 定番って良いものだ。

(以下の解説は、受講生の皆さんに正解を示すものではありません。 皆さんが自由に議論して、答えらしきものを見出した後で、ふと我に返って 「ちょっと待って。 私たちの結論とは別のモノの見方もあるんじゃない?」 といった感じで使ってもらうのが理想です。)

課題 (A) は定番中の定番。 リスクベネフィットという定義不在の言葉を、あなたがどの程度深く理解しようとするか、そしてそれを他人がわかるように説明できるか、がポイントです。 お薬と患者と社会の関係を青臭く議論してみよう。 「 CTD にこう書いてある」 といった議論は虚しいですよ。 リスクベネフィットの本質について何も考えていない担当者が前例・テンプレートに従って CTD を書いていることがほとんどだと思うので。 リスクベネフィットの議論の質は、あなたが持っている概念スキル conceptual skills のレベルをそのまま反映します。 また、MCDA だの何だのといった一見 fancy な方法論を紹介するのはいいけど、MCDA で辿り着こうとしているのは一体何か? を考えることの方がむしろ重要。

課題 (B) はやや時事ネタの匂いがするが、議論して頂きたいポイントはその時事ネタ部分というよりは、もっと本質的なこと。 臨床試験を 「行う」 ことの意味、臨床試験データを「使う」 ことの意味を意識してください。 例えば、「審査の儀式の材料としてデータパッケージに入れて、厚労省に出します」 とかは、形式的な意味での 「使う」 ですが、それは企業の薬事にとってだけの本質かもしれない。 誰が 「使う」 のかも考えてみてください。 そこで初めてデータの質や必要な規制についての議論もできます。

課題 (C) は、昨年はもっと具体的に状況を指定したのだが (日本橋の高級フルーツショップの上にある某社(注 1)のエリスロポエチンの適応拡大)、今年はもう少し自由に考えてもらうことにしました。 価値判断や不確実性の取扱いにおいては、ほぼ間違いなく評価者間で見解の相違 (dispute) が生じるわけです。 だから、承認審査では必然的に当局と企業間で見解の相違がてんこ盛りで生じるのだが、それらはどう扱われている(あるいは無視されている)のでしょうか。 日米差はあるのかな? FDAのガイダンスなんぞを読んで見ましょうか。 PMDAのご意見箱(苦情箱)がどこに置かれているか、も実は重要なポイントなので、考察してみてね。

(注 1) 製薬協に数人の学生を連れて行った帰りにパフェをおごったら、とんでもない値段になってしまった。 おそろしい。

課題 (D) の狙いの一つは、「承認審査について語れるのは規制当局のヒトだけだ」 といった、業界人に多い異常な精神構造に気付いてもらうことです。 成果発表会で 「PMDAの審査官になったつもりで考えてみました」 といった幼稚な前ふりは決してしないようにね。 それこそが他人まかせの異常さの表れです。 PMDAの審査官になったつもりになんかならなくても、審査のあり方や質は考えられるのですよ。(注 2) 寿司屋やラーメン屋にならなくても、寿司やラーメンのことは論じられるでしょ? 社会の構成員である 「あなた」 なら誰でも、ね。 どのような観点から審査の質を評価するかを、じっくり考えてみてください。

(注 2) 「じゃあ当局ではなくて、申請企業の立場から考えます」 というのも同じように短絡的な論じ方ですからね。 申請企業の立場って何? そこをじっくり考えよう。

成果発表会、ちょっと先ですが、楽しみにしています。 さぁ今度こそ、あの憎々しい司会者が感嘆するようなプレゼンをしようではありませんか!