小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

いろんな意見がないと、危ないよ

皆さんお元気ですか? 私は元気ではないのである。 いきなりそんなこと告白されても皆さんも困ると思うのだが、疲労困憊してるのは事実だから仕方ないのだ。 ちょっと前に、どこにもたどり着きようのない (going-nowhere) 議論を強いられて、呆れ果てるやら、イライラするやらで、もうブログ書く気力もないほどなのだ。 といいつつ、なんか書かないと逆にイライラがたまるので、なんか書こうっと。

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今、新学期のいろいろな講義に向けて、スライドを作り直しているのである。 昔の講義資料を見返していると、「おおっ、こんなこと講義してたのか! いいこと言うなぁ、自分!」 と少し楽しくなったりする。 昔に書いた論文やなんかも、書いたことをすっかり忘れていたりするから、新鮮に楽しめたりするのだ。 このブログもそうである。 もう3年近くいろんなことを書いているのだから、昔に書いたことなんぞほぼ忘れてしまっている(笑)。

ところが、昔のブログ記事に、突然にケチをつけてくる人たちがいる(ホントの話)。 突然に面と向かって 「お前は、一生懸命に新薬の研究開発に取り組む人たちにケチをつける気か?」 などと見当違いの怒りをぶつけてくる方々がいるのである (ホントの話)。 そんなこと、急に言われても困る。 どの記事のどの部分が気に入らないのかを指摘してもらわないと。 でも、そうやって怒り出すヒトたちって、たいてい記事をちゃんと読んでいないのね。 ちょっと読めばわかる記事の真の意図などお構いなしに、怒り出す。

曰く、「一生懸命やっている日本の研究者たちをバカにするのか! けしからん! プンプン!」

曰く、「権威を茶化すような不謹慎な表現が気に食わん! 何がサル的日記だ! プンプン!」

曰く、「ブログなんて手段を使うのが気に入らん! ブログにそんなこと書いたら、一般人を含む世間の人たちみんなが読んじゃうじゃないか! 医薬品の世界の不文律が漏れちゃうじゃあないか! プンプン!」

などなど ・・・ いやはや、というしかない。 いつもの、いかりや長介の台詞しか出てこない。

「ダメだ、こりゃ ・・」

ねぇ、急に怒り出す方々。 あなたたちに時間が20時間ほどあるのなら、民主主義と自由、70年ほど前の戦争での大失敗、薬害事件をはじめとする数々の不幸なできごと、日本の今の医薬品研究開発の厳しい実情、製薬産業における日本人の雇用がヤバい状況にあること、などについて徹底的に私と話し合ってみませんか? あなたよりも、あなたが変わり者呼ばわりしてバカにするこのサルの方が、ずっと保守 (conservative) で、愛国的で、危機に対して真摯に臨んでいることがわかってもらえると思いますよ、たぶん。(注 1) 誰もそうは思わないのなら、それでも構わない。

(注 1) それが良いことかどうか、ヒトに好かれるかどうかは、また別の話。

こっちは身と時間を削って、時に自分の reputation まで犠牲にして、稚拙ながらも様々な主義・主張や論点をわかりやすく公開しているのである。 放っておくと皆が同じことしか言わないニポンの医薬品の世界で少しでも公的な議論のタネを作りたいと思って、こうやって意図的に、わざわざ旗幟を鮮明に示している (showing the flag) のである。 Devil's advocate ってやつ。 出世の足しになるだの、金回りが良くなるだの、そんな下心を優先するのなら、こんなブログなんか書くわけがなかろうが。 自分の信念・本音を人前では漏らさず、そうこうしているうちに持っていたはずの信念すら忘れ去り、常に与党側でいるための処世術ばかり説くようになってしまったおじさんたちには理解されない行動なのだろうけど。

それにしても、楽しい週末なのに、どうしてこんな辛気臭いことをブログに書かなきゃいけないんだろう。 それが悲しくて、元気がでないのである。

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元気がでないから、今週作った自信作の(笑)スライドを一枚アップしておこう。 ほれ、これだ。 作成所要時間15分。 豚さんがキュートでしょ?

今、書いている規制科学の本にはこの手のスライドをたくさん使いたいと思っているのである。 これはゲーム理論の導入部分ね (有名な説明です)。 こんな感じの原稿を書いています。

 人間ほど合理的推論が得意ではないと思われる豚さんを使った実験でも、状況から想定されるナッシュ均衡を思わせる行動の選択肢を豚さんがとるという実験の結果があります(BA Baldwin, GB Meese. Anim Behav 1979; 27: 947-957)。

 図のように、実験箱の中に強い豚と弱い豚を一緒に入れます。 実験箱の中にはフタ付きのエサ箱とフタを開けるためのスイッチが離れた場所に置いてあります。 どちらかがスイッチを入れるとフタが開き、エサが食べられるようになりますが、スイッチを入れた豚さんはスイッチからエサ箱に戻るまでに時間がかかるため、エサ箱のそばにいるもう一匹の豚さんに先にエサを食べられてしまいます。 強い豚はスイッチを入れても何とか少しのエサにはありつけるのですが、弱い豚はスイッチを入れに行くとまったくエサにありつけません。 かわいそうに。

 実際に実験をしてみました。 結果は、「弱い豚はエサ箱のそばで待ち、強い豚がスイッチを入れに行くようになる」 でした。 図の (スイッチを入れに行く、待つ)=(2、4) というナッシュ均衡が実現したのです。 豚さんが状況をモデル化して支配戦略の有無を探り出そうとしたとは考えにくいため、このナッシュ均衡への到達はおそらく豚さんなりの何らかの試行錯誤の結果ではないかと思われます。 で、豚さんで起きていることは、人間社会でも起きているのではないかと私は思います。

どうですか? なんだかちょっと楽しいでしょ? こういう風に、社会科学のきちんとした理論を背景にして、社会で起きることを考えるのが規制科学の楽しさである。 無料出張講義、いつでもしますので、興味のある方は声をかけてくださいね。