小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

元サル的なヒトと自称しない

なんか今年の冬はいまいちピリッとしないなぁと思っていたら、やはり危険なほどの暖冬らしい。 これは人類的にはちょっと困ったことなのだろうが、コートを着なくてもすむ生活は楽でよい。 我々はそんな生き物である。

そんなこんなで、本日はおせんべいを食べながら、研究室を訪ねてきた知り合いのおばさまおねえさんと世間話をしていたのである。 本当は、社会人学生Kさんの論文を早く添削しないとKさんにド突かれるのだが、おせんべいを食べるくらいの心の余裕は許してもらおう。 そのおばさまおねえさんは相当な旅行好きで、油断してると世界のあちこちに出没し、美味しいものを食べているのだが、そのおねえさん、せんべいを頬張りながらこんなことを言っていた。

「パックツアーが楽なので時々使うのよ。 パックツアーって、いろんな人たちが参加するので、最初にみんなが顔合わせの挨拶をするんだけど、そのときに、日本のおじいさん・おじさんって結構な割合で 『元会社役員だった田中です』 とか、『○○銀行に勤めていた (る) 鈴木です』 とかいう挨拶をするのよね。 女性陣は、そんな挨拶を聞きながら、心の中で呆れて、失笑してるんだけど、気づいてないのかな?」

ご指摘のとおりです。 恥ずかしい。 日本のおっさんたちって、残念ながら、本当に滑稽である。 例えばトレビの泉を観光するのに、「元会社役員」 のおっさんは、会社役員の経験を活かしたスペシャルな技 (役員スペシャルとか(笑)) でもお持ちなのだろうか。  威張りん坊 で肩書好きな性格が死ぬまで変わらないのね。 いや、棺桶に入ってからも、『○○株式会社 取締役』 『○○省 ○○局長』 といった昔の肩書が棺桶に彫り込んであるかを棺桶の中からチェックしかねない勢いか。

でも、これって、引退したじいさんだけの話ではないのだ。 つい先日も学会のシンポジウムで、フロアから質問した業界のおじさんが、「元○○社の××ですが、・・」 と名乗っていたのを耳にして大笑い。 むろん「○○社」 は世界的大企業。 この人のアイデンティティとプライドは、今現在働いている(おそらくは)小さな会社(あるいは大学) ごときでは満たされないのだろうな。 自分は、あの世界的企業名がふさわしい人間、って感じか。

人の心の中は分からんから、他人がそれをどうこう言う話ではないとは思う。 が、一つ明らかなことがある。 名前を出された 「○○社」 の人たちはちょっと怒っていたような気がするぞ、たぶん。

公の場で 「元○○社の田中です」 的な名乗り方を聞いたのって、実はこれが初めてではない。 読者の皆さんも経験あるでしょ? もちろんプライベートではごくフツーにそういう自己紹介してますね。 転職がごくフツーの業界だから。 他にもよくあるのは 「元FDA(ex-FDA officer)」 といった肩書で商売している人たち。 その手の人たちって、商売用の肩書としてそれを平然と自他ともに使っていたりするんだけど、でも、よく考えたらなんだか奇妙な呼称ではある。 もし私が、学会なんかで 「元PM○A審査官のサル的なヒトですが ・・」 なんて名乗ったら、すぐにどこからか怖い人たちが血相変えて飛んできて、 「おい、あんた、自分のやってることが分かってるのか? 後輩の顔に泥を塗るような真似はやめろ!」 などと怒鳴りつけられるのだろうなぁ (笑)。 そういう奇妙さ。(注 1)

(注 1) このあたり、私が冗談を書いているのか、ホントのことを書いているのかが聞きたい人は、私に直接コンタクトしてください。 こっそり教えてさしあげます。

最近のアフターファイブのお料理教室などでは、自分の肩書や職業を名乗るのは一切禁止、というところがあるそうである。 そんなルールがあったとしても、たぶん、ニポンのおっさん連中って、「おおっ、この煮付けの微妙な味加減は、うちの銀行の社食では出せない味ですな」 だとか、「海外出張ばかりでどうしても栄養が偏っちゃうから、タニタ的な粗食が良いですな」 だとかいった威張りん坊の自慢話をチラチラ小出しにしては、周囲の女性たちを不愉快にしているに違いない。(注 2) 死ぬまで、いや、棺桶の中で燃え尽きるまで虚しい自慢をしてればよかろう。

(注 2) 偏見である。

トレビの泉を観光したり、料理を作るのに肩書きはいらん。 学会でフロアから質問するのに、肩書きなんぞいるわけがない (それが学問)。 飲み会で人生のよしなしごとを語っているときに、会社・大学の名前や立場や肩書きなんぞ持ち出すヤツらは間抜けで無粋である。 立身出世欲で脂ぎっている若者たちが肩書きに過度に思い入れるのは流行り病のようなものだから笑って見守っていればいいのだが、おっさん・じじいになってもそれが抜けない人たちは、現実を正しく把握する能力の高い賢明な女性たちに失笑されても仕方あるまい。


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将棋の棋士渡辺明さん。 天才である。 外見や言動が、同じく天才の羽生さんよりもはっきりしている (特徴が強い) ので、ファンの好き嫌いは分かれるところ。 でも、このマンガを読んで、僕は渡辺さんがなんだかとても好きになったぞ。

将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC)

将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC)

作者は渡辺さんの奥さん。 棋士の日々の生活の雰囲気がよく分かって楽しい。 棋士の生活、ちょっとだけ大学の教員の生活に似ているところもあったりする。 例えば、家でゴロゴロしながら、仕事 (渡辺さんは詰め将棋、私は例えば薬効評価の論理学的表現) のことを考えているのか、あるいは単に昼寝しているだけなのかの区別が家人の目にはつきにくいところなど。 おすすめです。