小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

昇天しない

お昼ご飯に何を食べるかを考えることくらいしか楽しいことがないサル的なヒトの人生なのだが、その楽しみすら奪われつつある。

紫頭の浜先生のいうアホノミクスの恩恵なんぞこれっぽっちも受けない貧乏サラリーマンの昼飯の基本はワンコイン、つまり500円以内。 生協で食べれば何とかなる。 少し贅沢したいときには、赤門前にある海鮮丼屋さんの最安値メニュー 「大トロあぶりサーモン丼 500円」 がある。 生玉ねぎとネギトロと、ちょっとあぶったサーモンがこじんまりと乗っている。 わさび醤油を大量にドボドボとかけて、実質的には醤油メシである。 それをワシャワシャと食せば天にも昇る気分になれる、という貧乏人殺しの優れもの。 塩分摂取量的にも文字どおりの貧乏人殺しかもしれん。

で、昨日。 「今日も昇天してやろうか」 と思い、500円玉握りしめて海鮮丼屋さんへ。 いつもの「大トロあぶりサーモン丼」 を注文したら ・・・ 何やら雰囲気が変わっているのだ。 それまでの質実剛健の黒い器 (丼) が、ヤマザキ春のパン祭りの景品のような、女性好みのこじゃれた白い器に変わったぞ。 うひゃー、卵焼きが2枚も乗ってる! 透き通るくらいペラペラで薄いけど。 生玉ねぎが無くなって、代わりにカイワレが。 心なしかサーモンの量が減っている。

女性客を増やそうと思ったらこうなるんだよね ・・・ などと思いながら、丼を食べ終わり、レジでいつものように店員のおばちゃんに500円玉を出したら、おばちゃんが 「お客さんは大トロあぶりですね。  530円 です」。

・・・

・・・

かあさん。 あの海鮮丼も僕の手の届かぬところへ行ってしまったやうです。

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東大出版会の 「UP」 という小雑誌がある。 本屋さんでは無料でもらえます。 東大の先生たちによる面白い論文・エッセイが満載で読みごたえがある。 山口晃画伯のすずしろ日記も見逃せない。 そのUPだが、毎年4月号に 「東大教師が新入生にすすめる本」 という企画がある。 今年、ありがたいことに私もスペースを頂いたのである。 以下、一部引用(一部ブログ風に改変)。

サル的なヒトのおすすめ本

1. 私の読書から − 印象に残っている本

「山の仕事、山の暮らし」 (高桑信一. 山と渓谷社
「母国」 という概念が無いグローバル企業が世界の市場を一色に塗ってビジネスを展開するのがもはや標準となった現在、私たちが故郷 (くに) という地面に足を着けて生きることの意味をやさしく思い出すきっかけとなるはず。 田舎暮らし入門といった流行本の対極にある田舎本。

2. これだけは読んでおこう − 研究者の立場から

「ミクロ経済分析」 (ハル R.ヴァリアン. 勁草書房
医学・薬学を 「医療・薬を研究する学問」 などと勘違いしていると社会から総スカンを食らうであろう (多くの医学者・薬学者は人生で一度や二度はひどい目に遭っている)。 医学・薬学が社会に受け容れられるための本質は 「(医療・薬を受けた) ヒトがどのように幸せになったか」 を考えることに在る。 「なーんだ、それって数多ある豊饒な社会科学の目指すところとまったく同じじゃないか」 ということに学生は早めに気付こう。 そのことに気付かぬまま 「どうして社会の皆さんは、医療、薬、医療従事者の価値を正しく認めないのだ?」 と逆切れしたまま年老いていく医療業界人も多いから。

あなたの思い描く医療・薬の世界を他人に伝えようと思うのなら経済学の言葉を使うのが便利で誤解が少ない。 本書は言うまでもなく世界中で定評のある教科書であり、理系・文系関係なく読める。

3. 私がすすめる東大出版会の本

「きめ方」の論理」 (佐伯 胖. 東京大学出版会

医療・薬が一人一人の患者、そして多くの人々からなる社会を幸せにするかどうかを学問として考えるには、社会選択論の基本的な概念が必須。 啓蒙書とも言えるこの本は、昔から四月になると大学生協書籍部に必ず平積みしてある定番中の定番である。 学生さんだけでなく、企業やお役所になんとなく入社してしまって、 「私はこの社会でいったい何をしているのかが分からない」 などと深い森の中で道に迷っているサラリーマンにもお勧め。

医学・薬学の学生にまずヴァリアンをすすめる大学教員は、日本では私だけだろうな。 しかしこれは何ら奇をてらったものではない。 たとえば子宮頸がんワクチン訴訟がらみで今起きていることを観察してみよう。 ほれ、今業界人がいうところの有効性だの、安全性だの、リスクベネフィットだのといった言葉には 「(意味論的) 意味」 がないことにすぐ気付くでしょ? 「副作用と有害事象は違うのよ」 なんて業界人は解説してくれるが、その違いをちゃんと説明できる人、本当にいますか? 「因果関係が ・・・」 という説明は定義を繰り返しているだけで、空疎。 因果関係って何だろう? わけの分からないことを、それよりももっとわけの分からないことで説明してどうするのよ。

神事が平然とまかり通る承認審査や医薬品規制の世界で起こり続けている混乱・混沌を直視したとき、それらへのアプローチとして必要な学問がいわゆる医学・薬学ではない (ましてや 「れぎゅらとりーさいえんす」 なる学問もどきでもない) ことは一目瞭然。 必要なのは、ヒトと社会の幸せのあり方を考える人類4千年の諸学問、たとえば哲学、たとえば論理学である。 経済学はそうした学問の中では新参者だけど、今風で、とても面白いよ。

(注) 紹介したヴァリアンは (比較的やさしいけど) 中級のテキストなので、ミクロ経済学のテキストをまったく読んだことのない人は、もっと易しい本をまず買ってね。

佐伯先生の 「きめ方の論理」 は、このブログでも無料出張講義でも何度も推薦してきたから、ブログ読者の中には 「買いました!」 という方もおられよう。 買うだけじゃなくて、がんばって読むこと。

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油断していて、こんなに面白い漫画を見逃してしまっていた。 ゴールデンカムイ

凶暴なおにーちゃんがお嬢ちゃんに生肉を嫌々食わされるシーンに大笑い。 残酷描写が多いので、明らかに男向け。 女性にはちょっとしんどいかも。 未読の方は、次の連休で大人買いして楽しむのがよかろう。