小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

走れ サル的なヒト

先週は海外出張でオスロへ行ってました。 北欧の国々は結構好きなのである。 おもちゃのようなかわいい街並み。 日本のようにコンビニやパチンコ屋の小汚い灯りがないから、夜は真っ暗になるのが良い。 パツキンの美人のおねいさんが街中にウジャウジャといるのも素晴らしい。

しかし今回の出張では、往路・復路共に相当な苦闘があったのである。 よくあることと言えばよくあることだが、往きも帰りも天候トラブルっていうのは結構珍しいかも。

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往きのトラブルは、もちろん、あの台風である。 私のフライトは、あの超大型台風が関東を直撃したまさにその朝。 前日から数時間ごとにフライト情報をずーっと見続けていたが、夜中になっても何の変更も掲示されない。 そんなわきゃないだろ。 関東直撃だぜ。

問題はフライトだけじゃない。 むしろ裏ボスは成田 である(笑)。 皆さんもご存知のとおり、あそこ、陸の孤島である。(注 1) 台風が来ると、都内から成田にたどり着くすべがなくなるのだ。 予約していた成田エクスプレスは前日の早い段階で運休が決まった。 おおっ、これが昔から有名なJRの根性の無さだ(笑)。 根性無しのJRは総武線の在来線もすぐに止めてしまう。 となると、残された選択肢は、比較的根性があるといわれる京急スカイライナーか? でも朝暗いうちから日暮里までたどり着くこと自体にリスクがある。 山手線も時々止まるんだもん。 

(注 1) だから慎重な人は、フライト前日に成田入りして、成田泊するんだよね。 でもそれって外人さんには理解してもらいにくい状況だ。 今回の悪戦苦闘をオスロの友人たちに説明したが、ほぼまったく理解してもらえんかった。 「Narita って Tokyo なんだろ?」 と誰もが言う。 いや、成田は東京じゃないのよ。

台風がうるさくてほとんど眠れない。 朝4時に起き出して航空会社のHPを見たら 「出発時間 2時間遅延」 がやっと出た。 あいやー。 予定していたアムステルダムからの連絡便は完全にアウト。 メールが届き、コペンハーゲンを経由した別ルートが提示されている。 それだとオスロ着は夜中の12時過ぎ。 ふぅ。 だが、着くだけマシか。

でも悲しんでる場合じゃない。 こっちの状況はそれどころじゃないのだ。 とにかく陸の孤島、成田に到着せねば。 台風がまさに直撃しているこの状況で、家を出て、空港に向かわねば。

結局、渋谷からリムジンバスという経路を選ぶことにする。 まだ真っ暗。 大雨・強風の中、びしょ濡れになりながら渋谷のバス乗り場に到着。 チケット売場のおにいちゃんに 「成田にちゃんと着きますかね?」 と尋ねたら、「途中で運航を停止するかもしれませんので、それを承知でご乗車ください」。 「何時間かかりますか?」 と尋ねても、「通常は1.5時間、としか申し上げられません」。 

運を天に任せるとはこのことだが、もう知ったことか。 フライトに乗り遅れたら、「台風のせいで東京で船が難破したんですぅ」 とでも釈明すればよかろう。

・・・ という感じの往路だったのである。 結局、成田空港には無事到着したし、フライトにも間に合ったのだが、もうヘロヘロ。 成田空港北ウィングには人がまばらにしかいませんでしたよ。 機中では疲れすぎて、映画を3本しか見れなかったのであった。

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帰りのトラブルもまたお天気がらみ。 朝、オスロ市内から空港に鉄道で向かったのである。 市内は晴れ。 「今日は快適なフライトだね」 と思いながら、郊外の美しい光景を眺めていた。 ところが、空港到着まであと10分くらいになって、なんだか外の景色が見えにくいことに気づく。 

こ、これは ・・・ 霧である。 すごく濃い霧で、外の景色が見えない。 隣のホームの列車が見えないのだ。 うつ病患者には決して見せてはいけない映画 「ミスト」 の世界そのもの。

オスロ空港に着いたら、案の定、どうにもならなくなっていた。 次から次に、欠航、欠航 ・・・ たまに飛ぶ便があるが、前日に機体がオスロ空港に到着していた便らしい。 そう、ここ霧のオスロ空港は、離陸はできるが着陸はできない片道空港と化しているのである。 うーむ。 どうにもならん。

そうこうしてるうちに、私の乗る便も 「出発予定 25分遅れ」 と掲示が出る。 あ、やばい。 機体が着かないんだ。 もともとコネクションの時間が1時間しかなくて、大丈夫かよ、と思ってたのに、さらに状況は悪化。 35分でスキポール空港アムステルダム) でのコネクションに挑むのか? 自分。 それって引田天功並みの荒業だぞ。

ゲートのおねえさんが、追い打ちをかけるようにアナウンスで 「さらに1時間遅れる可能性もあります」 だって。 はぁー。 もう諦めよう。 期待するから悲しくなるのだ。 なーに、アムステルダムに追加で一泊するだけの話だ。 アムステルダムって、うちの学生のF君の故郷だし、ある意味素晴らしいじゃないか。 男性用の小便器の位置が高すぎるのが気に入らないが、そんな小さなことを気にしてる場合じゃないよ、サル的なヒト。

などと絶望的な気分になりながら、未だ真っ白な霧に包まれたゲートの外を見ていたのである。 そしたら、なんと、やって来たのですよ。 ゲートに来てくれたのですよ。 KLM の空色の機体が、ずんずんと。 うれしくて、じんわり目に涙が。 えらいぞ、KLM。 あんたはやればできる子だと前から思ってたよ。

12時15分、離陸。 空の上から空港を見たら、空港の周囲数キロはすべて真っ白な霧で覆われていて何も見えない。 この霧の景色、何かに似てるな ・・・ そうだ、カプチーノの泡だ! カプチーノの白い泡が空港をすっぽり覆っているのよ。 しかしまぁ、地上がまったく見えん白い泡の中に機長はよくぞ突っ込んできてくれたもんだ。 腕とシステムに自信があるからこそ、だろう。 JRの奴らに爪の垢を煎じて飲ませるべきかもしれん。(注 2)

(注 2) 後で調べてみたら、オスロ空港ってやはり昔から霧や雪の問題で困っているんだって。

2時間後にスキポール空港着。 連絡時間はわずか35分。 走る。 ただひたすら、走る。 これも皆さんご存知だと思うが、スキポール空港って相当にでかいのである。 おまけに途中でパスポートコントロールもある。 目を血走らして 「こ、こねくしょんがやばいんだぁ!」 と叫んで、fast-lane に入れてもらったのだが、そこでも長い列ができている。

後ろから割り込んできたおじさんが前の方でもめている。 「お、俺のパスポートを嫁さん・子供が持っていってしまったんだぁ! 母親の旧姓 (Maiden name) は言えるから、通してくれー!」 などと喚いて、オフィサーに連れていかれる(笑)。 うー、あんたも大変みたいだが、こっちも大変なんだ。 これ以上もめないでくれよぉ ・・・

パスポートコントロールを抜けて、さらに走る、走る。

・・・ 通路を行く人を押しのけ、跳はねとばし、サル的なヒトは黒い風のように走った。 ゲート前のバーで酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴けとばし、動く歩道を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。 一団の旅人と颯さっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。 「いまごろは、あの日本行きのフライトも、飛び立っているよ。」 ああ、そのフライト、その便のために私は、いまこんなに走っているのだ。 そのフライトを行かせてはならない。

急げ、サル的なヒト。 おくれてはならぬ。 愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。 風態なんかは、どうでもいい。 サル的なヒトは、いまは、ほとんど全裸体であった。 呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た ・・・
(駄在治. 「走れサル的なヒト」 より)

ほぼすべての乗客が乗り終えたゲートに到着したときには息が切れて口がきけない状況。 でも、カウンターのおねえさんが、やさしく待っていてくれました。 ふぅ。

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というわけで、往きも帰りも大変な旅であった。 あまりに疲れすぎて風邪をひいてしまい、寝込んでしまった。 公開中のブレードランナー 2049 をまだ見ていないという体たらくである。 もう見たという人、ネタバレ厳禁でお願いしますよ。