小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

若葉の頃

出勤を急ぐ朝、いつもの交差点を渡ったところで、自転車にまたがった中年のおじさんと赤いランドセルを背負った小学生の女の子が立ち止まっていた。 女の子は小学校の高学年くらい。 お父さんと娘さんだろう。 お父さんが女の子の頭を何度も撫でている。 通り過ぎがてら二人の顔をちらりとみたら、女の子は少しメソメソと泣きながら、下を向いている。 お父さんは、「がんばれよ」 といった感じで最後に髪を2、3回くしゃくしゃっと撫でた後、女の子のそばを離れ、自転車をこぎながら私を追い越していった。 仕事に向かうのだろう。 振り返ると、女の子は私の後を追うようにトボトボと歩いている。

ねぇ、泣きながらトボトボ歩いているキミ。 おじさんにはキミが泣いている理由は分からないけど、つらいよねぇ、生きるって。 息をしているだけでも辛い。 特に学校って、イヤだよね。 行きたくないよね。 みんなに意地悪されるし、いじめられるし。 悪口言われるし。 無理矢理同じことをさせられるし。 怖い先生に怒られるし。

おじさんも、小学生の頃からずっと学校に行くのがイヤだった。 50歳過ぎて、学校の先生になった今でも学校が大嫌いさ。 いつも意地悪されて、いじめられて、仲間はずれにされる。 学校がイヤでイヤで仕方がない。 毎朝、学校に行きたくなくて下痢してるもん。 たくさんの大人が働く会社というところも同じみたい。 毎日毎日、意地悪な奴らが弱いモノいじめをするんだって。 気が弱いヒトや、他人と見かけ・言うことが違うヒトは、いじめらて、仲間はずれにされて、の繰り返し。

でもさ、キミのまわりにはきっとやさしい人たちもいるよね。 キミを怖がらせずに、ニコニコ笑ってキミと話をしてくれる先生や友だちもいるはずだよ (もしいないなら、おじさんが話相手になってあげよう)。 あとさ、キミにはやさしいお父さんがいるじゃないか。 だいじょうぶ。

みんなが不機嫌な顔をして、何かあるとすぐに怒り出すイヤな世の中だけど、よく見渡せば味方もちゃんといるから安心してね。 この交差点にすらキミの味方がいるのだから (キミは気づいてないだろうけど)、キミの味方はきっとあちこちにいるはずなのよ。 さぁとりあえず顔を上げて、歩いてみようか。 トトロの歌をおじさんと一緒に歌おう。


歩こう 歩こう わたしは元気
歩くの大好き どんどん行こう!

やたらと胸を張って、大きく手を振って、大股でノシノシと前を歩いていく奇妙なおじさんの後ろ姿を、あの女の子は笑ってくれただろうか。

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さて、今年も春がやってきた。 昨日と本日は大学の卒業式。 T君、Y君、N君、卒業おめでとう。 これからが人生の本番。 がんばってね。 なーに、社会なんてどうってことない。 僕は30年間も働いてきたからよく知っているのだが、これから会社やお役所で君たちの上司・先輩となる、見かけだけはやたらとエラソーなおっさん・おばさんたちの99%は、(君たちがよく知っているはずの) Heckman モデルも、内生性を調整した回帰分析の原理も知らない程度の連中なのよ (笑)。 哲学や論理学における構成主義も知らないし、カントの 「物自体」 も知らない。 その程度の連中にビビる必要なんてまったくない。 胸をはって、気楽に、生き延びていこう。

つらいことがあったら、大学時代に散々無理難題を押し付けてきた、君の大学の指導教員を思い出しなさい。 あの傲岸不遜 (ごうがんふそん) なサル的教員と付き合えた君たちなら、たいていのアホ上司や同僚は何とかなるさ。 負けるなよ。

君たちのまわりにいてくれる人たち、特に家族に、感謝の気持ちを忘れずに。 「誰かが近くにいてくれること」 「誰かが君を思ってくれること」 の幸せを忘れずに。 僕は、君たち卒業生のことを数か月に1回は間違いなく思い出しているから (壁に卒業生の名簿が貼ってあるのよ)、安心して。 「いや、むしろそれは困る」 という奴がいたら、そんな奴は廊下に立ってなさい。

幸運を祈る。

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若葉の頃は、別れの季節。